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story3(4)_sideキミ




 彼奴らと別れた帰り道。俺はあのコンビニに来ていた。あの時はどうやって帰ったのか殆ど覚えていないんだけど、思ったより俺の家から近かったようだ。


 今日の晩飯どうしよっかな。


 とか、考えながら歩いていると見覚えのある姿が目に入る。


 えっ、何でこの時間?


 何時間か前に見送ったはずの彼女が見えて俺は声をかける。


「あれ、葉月さん?」


 彼女は杖を付いていた。今はまた、視えていない?


 疑問に思いながらも敢えてそこは聞かず、声の主は誰だろうと探っている彼女に自分の名前を告げる。


篠塚公人(シノヅカキミト)。分かる?」

「…………あっ、この間の」


 暫くの沈黙の後、思い当たったのか彼女はぺこりと頭を下げた。


「こんな時間にどうしたの?」


 何時間も前に別れたのに、という意味を込めて聞くと


「あ、買い物行ってたの」


 そう言って彼女はスーパーの袋を少し持ち上げて見せた。


 なので、俺はサラリと彼女の手からその袋を拐う。


「重そうだね。俺が持つよ」

「だ――」


 迷惑になるだとか、然程知らない奴に家を知られるのは気が引けるだとか――。


 一瞬の内に恐らく色々なこと考えてんだろうなぁ。大丈夫だと断られる前に俺は先手を打った。


「送るよ」


「だ――」

「ほら、手プルプルしてるし、赤くなっちゃってるし」


 そして、また大丈夫だと言われる前に俺は言葉を続ける。


「ほら、行こ。家どこ? あ、手に何もなくて寂しいなら俺の腕持ってていいから」


 そう言って彼女の隣に立つ。


 きっと、急に他人に触れられるのは怖いだろうから俺からは触れない。視えていないなら尚更怖いだろうし、と彼女の様子を伺う。


 別に本当に腕を持たなくてもいい。ただ、頼ってもいいんだってこと彼女に何となくでも伝わればいいと思った。


 暫くした後、彼女がそっと俺の腕に触れた。


 彼女からの少しの歩み寄り。きっと彼女自身気付いてはいないんだろうけど。それでもいい。ちょっとは信用できる奴だって思ってくれたってことでしょ?


 ちらりと視線を向けてにやけそうになるのを何とか堪えながら、彼女のペースに合わせてゆっくりと歩みを進めるのだった。




 彼女の家に着いた。玄関口に荷物を置く。


 彼女は何やらまた、色々と考えていそうな雰囲気だったけど、


「それじゃあ、ちゃんと戸締まりしてね」


 と俺は直ぐに玄関から出ていこうと背を向けた。


「あ、ありがとう篠塚君。助かりました。何もお礼できるものがないんだけど……」


 “篠塚君”と不意に名前を呼ばれてドアを開けようと伸びていた手がピタリと止まる。


 そうやって人の親切にいちいち何かを返そうとしなくていいのに。世の中、giveアンドtakeだけじゃないと思うし。この前の時もそうだった。別に俺はさ、何かを返してほしくてやってる訳じゃないんだよ、葉月さん(見返り求める奴はそりゃいるだろうけどね)。


 この人は他人に借りを作りたくないのか、それとも素直に甘える事ができない人なのか。いや、両方か。優しさや親切を素直に受け取る事が怖いのかもしれない。自分も何かを返さなきゃって。もう、返さない自分はダメとまで思っていそうだ。本当に生き辛そうな人。でも彼女にはそれが当たり前だから自分で自分を生き辛くしていることに、きっと気付いてないんだろうな。


 お礼なんていいと言ったけれど、煮え切らない感じの彼女に俺は内心で息を吐く。


 もう……、仕方ないなぁ。


 俺は「あ……」と言い忘れたことがあったように呟いてから、再び彼女に振り向いて、ゆっくりと言葉を発した。


「あのさ……」


 俺が声をかけると「なーに?」と可愛らしく首を傾げる。この台詞、別に気に入っている訳じゃないけど――、


「また俺のお願い一個聞いてくれない?」


 一呼吸置いてから言うと、彼女はピタリと一瞬固まってから、その内容について聞いてきた。


「……お願いって?」


 俺のお願いを聞くことで彼女の気が済むなら、と思って言ったはいいものの、その内容を考えていなかった事に今更気付く。


 どうしよ……。彼女の負担にならない程度のお願いって何だ?


「んー、えっとねぇ……」


 彼女が待っていてくれてるのをいいことに、そのまま何がいいかと考える。――けど、全然浮かばない。


「じゃあ……、次までに考えておくからさ、また俺と会って?」


 あんまり待たせるのも悪いと思って、そう言うと


「それってもう、一つのお願いだよね」


 と言われた。


「あ、ほんとだ」


 気付かなかった自分が間抜けすぎて笑える。


「じゃあ、俺のお願い。次もまた会ってください」


 俺は向き直り、改めて頭を下げながらお願いしてみると、彼女からは以外とあっさりOKが出た。


「やった、ありがと!」


 俺は気分よく、じゃあねと言って彼女の家を出る。柄にもなく浮き足立っている自分が気持ち悪い。




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