ウルムの町へ
エトゥン村を出てしばらくたった。三回目の休憩からまた歩き出したとき、ノエルが質問してきた。
「そういえば貴方って不思議な名前をしてたわよね?何だったかしら、確かミナミってついてた気が?」
「南川綾太、南川でも綾太でも好きな方で呼んでくれて構わない。」
綾太が自己紹介をするとノエルも自己紹介を始めた。
「じゃあ綾太って呼ばせてもらうわ。私はノエル・ルーフェス、呼びやすい方で呼んでくれてかまわないわ、ちなみにエルフ族の新米魔物ハンターよ。」
今さらな自己紹介を済ませると町が見えてきた。
「あそこがウルムの町よ、とりあえず昼御飯食べに行きましょ。」
ウルムの町は石畳の街並みで昼なのに市場は盛り上がっていた。
食事処を探していると、綾太が一軒小さな喫茶店のような店を見つけた。
「ノエル、あそこの店にしよう。」
「いいわね、あそこは混んでなさそうだし。」
ノエルは少し失礼なことを言ったが、二人で店に向かった。
そして綾太が店のドアを開けようとした瞬間、ドアが内側から勢いよく開けられた。
「こんなまずい飯食ってられるか!!」
鎧を着た無精ひげの男が怒りで声を挙げながら店から出て行った。
「なんだ、感じの悪い客だな。」
そう言って男が出てきた店の中に入って行った。
「なんだよこれ?」
入った店はめちゃくちゃになっていた。さっきの男が暴れたのだろう。
そんな荒れた店の中に一人佇んでいた。
「いらっしゃいませお客様。申し訳ないのですが当店は現状とても営業できる状態ではないので、お引き取りください。」
銀髪赤目の小柄な少女が静かに言った。
「ノエル、昼飯食べるの遅くなるけどいい?」
「私もそのつもりよ。」
二人は現場を見たときから片付けを手伝うこと決めていたのか、綾太が確認をとると直ぐに二人は動き出した。
綾太は破壊された机や椅子など大きく危険な物の撤去を始めた。ノエルは銀髪の少女へと店で何が起きたか質問していた。
「ねぇ君、怪我はない?ここでいったい何があったの?」
「怪我はありません。先程のお客様は、私の料理が口に合わかったようで、怒られて暴れられたのです。」
「そんなの無茶苦茶じゃない!」
「でも私の料理が口に合わなかったのは事実です。」
そんなやり取りをしていると片づけをしていた綾太から声がかかった。
「詳しいことは片づけが終わってからにしよう。」
「そうね、こんな状態だと落ち着かないものね。」
そう言ってノエルと銀髪の少女は綾太と片づけを始めた。
片づけを始めて約1時間、細かなところは終わっていないが、大まかなところはそれなりに綺麗になった。
片づけが終わり最初に話し出したのはノエルだった。
「さて詳しいこと話してもらうわよ。」
「わかりました。片づけを手伝ってもらった借りもありますし。」
そう言って銀髪の少女は語りだした。
「見てわかる通り、私の店は先程のお客様に暴れられましたが、過去にも数回ありました。」
綾太とノエルは前にもこんなことがあったのかと驚いた表情をしている。
「もともとこの店は母のもので、母が2年前に他界したため私が引き継ぐことになりました。」
するとノエルが一つ質問をした。
「お父さんは代わりにお店をやらなかったの?」
すると銀髪の少女は少しうつむき悲しそうな顔で答えた。
「父は母より先に死にました。」
ノエルは失言だったことに気づき、直ぐに謝った。
「ごめんなさい。」
「いいですよ別に。話しを戻します。たまに母の手伝いはしてはいましたが、私は全くの素人で今もあまり成長していないため、美味しい料理が出せずにいるということです。」
思った以上に暗い話しに重い空気になっていたが、銀髪の少女は口を開いた。
「今日はうちの店では何も出せません。明日の昼に来ていただければ営業再開できるますので、よろしければまたのご来店を。」
そう言われた綾太とノエルは店を出た。
ノエルは心配していたが、綾太は心配以外にも別の考えが頭にあった。