魔物偵察
平原の草むらに隠れて偵察を始めて5時間。未だに何も起きないのであった。
「2時間経過・・・・・・何も起きない・・・。」
綾太はゲッソリとした顔で言う。
綾太の盾は偵察の邪魔になるので宿に置いてきた。
朝の18時から張り込みを始めた三人はすでに疲労の限界を迎えたような顔であった。
「本当に怪しい行動をしている魔物なんているのかしら?」
ノエルが愚痴をこぼすと、ティーナの顔が急に険しくなった。
「静かにしてください。何か来ました。」
暗闇の中から小さな影が見える。小さな影が何者かと目を凝らした三人は驚愕した。
そこには、亜麻色の腰より少し長い髪の、ティーナと同じぐらいの幼い‘‘蝙蝠のような羽‘‘が背中から生えている少女が居た。
「吸血鬼ね。」
ノエルは見つからぬように静かに言った。
吸血鬼。あまり多くは存在しないが、他種族よりも戦闘力が高くて、暗闇の中でも視界がハッキリとしていたり、自らの羽を使って飛ぶことも可能。血も吸うことによって傷や体調などを癒す。
「今日もあんまり楽しくなかったの・・・。」
吸血鬼の少女は独りでに喋りだす。吸血鬼の少女は平原にポツンとある小さな岩に話しかけているのであった。
「やっぱり友達がたくさんいた方が楽しいのかなぁ。」
岩に話し続ける吸血鬼の少女が依頼の犯人だとわかった三人はこの場を去ろうとしたその時であった。綾太は足の痺れのせいで転んでしまった。
ドサッという音が静かな夜の平原に響く。
「誰ッ!?」
吸血鬼の少女こちらに猛スピードで接近してきた。
そして綾太の前まで来ると、倒れた綾太を見下しながら言った。
「君、見たよね?」
吸血鬼の少女の翡翠色の目は、嘘ついたら殺すと言わんばかりの威圧であった。
「み、見ました。」
綾太の声は動揺で震える。
吸血鬼の少女の威圧は増した。
「なら・・・・・・ここで死んでもらうね。」
吸血鬼の少女は手刀をゆっくりと上げた。
「見ちゃった君が悪いんだよ。」
そういって手刀を振り下げようとした瞬間、綾太はとっさに思いついた言葉を叫んだ。
「俺が友達になってやるッ!!」
吸血鬼の少女はピタリと止まり、ゆっくり手をもとの位置まで戻した。
しばらくの沈黙の後、吸血鬼の少女は震えた声で言った。
「ほ、本当に僕と友達になってくれるの?」
綾太は立ち上がり言った。
「あ、ああ。本当だ。」
さっきまで自分を殺そうとしていた吸血鬼の少女が急に弱弱しくなったため、綾太は少し驚く。
吸血鬼の少女は、涙を目に溜め、上目遣いで言った。
「本当に本当?嘘じゃない?」
「本当だ。」
綾太は微笑みながら答えた。
「ありがとう!君、名前は?」
吸血鬼の少女は綾太に抱き着いた。
「うぇ!?南川綾太だけど。」
抱き着かれた綾太は動揺のあまり変な声が出るが、直ぐに自分の名を言う。
抱き着いてきた吸血鬼の少女は抱き着きながらにっこりとした。
「僕はメリアラ・スメロ。メリーって呼んでね。」
「綾太!」
「綾太さん!」
メリアラが自己紹介をするとノエルとティーナが武器を構えながらこちらに向かってきた。
ノエルとティーナを見たメリアラは、威圧の籠った目を二人に向けた。
「綾太、下がってて。こいつらは僕が片付ける。」
「待った!待ってくれメリー!こいつらは俺の仲間だ!」
今にも飛び掛かりそうなメリアラを止める。
「仲間?ふーん、仲間ね。」
「そうそう。こっちのエルフがノエルで、こっちの幼女がティーナだ。二人共俺の旅の仲間だ。」
幼女と言う言葉に異議を申し立てようとするティーナだが、メリアラに遮られた。
「僕はメリアラ・スメロ。吸血鬼の真祖だよ。」
「「真祖!?」」
ノエルとティーナは驚く。
真祖。この世界の吸血鬼は、生まれながらの純粋な吸血鬼か、血を吸われてできた眷属の二種類しかいない。現在の真祖の数は3人である。
「詳しく言ったら、魔王軍幹部最強の吸血姫のメリアラだよ。」
綾太はとんでもない友達ができたと感じる瞬間であった。




