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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
二章~狼
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36 ■

「ひゃは。狙いをつけたらもう終わりだぜ」


 朧の顔でそれは不愉快に言った。その目はオレを捉えていない。本当に癪に障る。腰に伸ばした手が装備の一つに触れたところで朧の蹴りが装甲に衝撃を伝えた。


 彰さんが何かを呟き、日本刀が発光する。彰さんの姿が何かに包まれた。

 オレは寝転がったままそれを見る。黒い大鎌が消え去ったのに気付く。オレはうめき声を上げて自らの無力さを噛みしめる。本当に嫌いだ。心臓がうるさいくらいに激しく動き、責めたてる。朧を守るのはオレだと激しく主張する。


 あの気のいい先輩はオレよりも余程強い人間だ。


 この国の神の子孫はオレの主としていずれ君臨するだろう。


 名前も覚えることのできない友人はオレの親しい友人だ。それこそ命を賭けるほどに。彼女が名前を失った理由の一端は確かに自分にあるのだ。そしてそれを誰が忘れてもオレだけは絶対に忘れてはならない。


 オレは一つの単純な事実に気付いていた。それは彼女が人の身に過ぎた力を得て、さらには彼女自身の名前を取り戻したことだ。


 彼女の名前は神隠しにあって、得体のしれない何者かに奪われたものだ。そんな名前が都合良く返ってくるものなのか? ふざけた話だ。気持ちの悪い。誰かに上手に操られたような気分だ。


 オレの手は先程取ろうとした装備にやっと届いた。それを腰から抜いても何ら変哲のない金属性の棒に過ぎない。流石に使い方も碌に知らない道具で喧嘩なんてしに来るもんじゃねえな。そんなことを思いながら半ば焼け糞で力を入れる。電気を誘導して回路を作動させる。振動するような音をセンサーが捉える。機器類はそれが正常に作動したことをしつこく主張するが、どうにも信用できない。地面に触れさせると土が煙を立てて穴を空けた。


 日本軍と神祇庁の技術部の共同開発らしいが、はっきり言って欠陥品だ。元々オレのような電気系統に作用する能力を持つ人間にしか扱えないのだから。最終目的が一般人にも使えるようにすることだと聞いたが、その時もオレほど楽には使えないだろう。オレという発電機はこの呪装機甲を完成させる一つのパーツとして組み込まれているようなものだ。


 呪装機甲四八式、通称迅雷(仁頼)。文字通り仁くんが頼りなんだよ、と技術者は繰り返していた。単なる駄洒落だ。それらしく聞こえるから問題はないけど。

 試作機という事実に相応しく、武装はまだまだ調整が必要。一緒に渡されたロケットランチャーは引き金を引くまでもなく故障しているのが分かるように煙が出ていた。


 オレは背中に空いた手を伸ばす。そこにはサブマシンガンがある。システム的な要素が全くないそれはオレが使うように調整されておらず単なるサブアームに過ぎない。

 呪装機甲はあくまで人間の格闘技術を戦争に活かそうというコンセプトだ。だからこそ拳の装甲は厚く機動力は十二分に確保されている。もちろん単なる鉛玉程度で穴が空くような柔な作りではない。


 オレはサブマシンガンを構える。狙う先は朧。迅雷が細かく角度を指示し、命に別状がないように狙いを定めていく。

 魔銃が断ち切られた。不愉快な笑い声がオレの脳を揺さ振る。引き金を引けない。狙っていた魔の銃は空気に溶けるように消えていった。そこからの思考は一時途切れる。


 そうして何か朧が呟いた。その体をエネルギーが貫いた。容赦の欠けらもなく朧は欠けらになって消えた。彰さんもその爆発に弾き飛ばされる。爆心地の少女は見事に四散した。

 そう見事に跡形もなく朧は死んだ。


「ひゃひゃひゃ、あの小娘契約違反しやがった」


 狼は悠然と現れた。その足元に朧の着ていた制服の欠けらがあった。それを狼は丁寧に踏み躙った。意図的にその存在を擦りつぶそうとでもするように。

 彰さんは流石に気絶したらしい。迅雷はそう判断する。だが当然そんなことはどうでもよく。狼の大きな顔面にモーターを唸りのように響かせてメインアームを突き刺したところで思考は回復する。


「ガキがっ」


 赤熱した刀身は狼の筋肉を焦がしながら千切った。オレの放出した電流はそのまま狼を地に縛りつける。その苦しげな顔面に二太刀目を斬り込もうとスラスターを噴かせた瞬間、目の前にいた朧はオレに銃口を突き付けた。


 目の前に存在していた朧は……オレを殺そうとねらった。


 一度死んだ少女は涙を流しながらオレの装甲に弾丸を埋め込み、オレの一太刀はそんな彼女の腕を焼き斬った。


 無意識に迅雷に急制動をかけ、離脱する。メインアームの火雷(ホノイカズチ)の剣は確かに少女の肉を焼いた感覚を伝え、装甲に甚大な被害を被ったと迅雷は主張する。


 もうそろそろオレも限界だ。もとより彰さんに大鎌で刺されたことや貫通した銃弾などの痛みは脳神経ごと誤魔化している。脳をただの演算処理のコンピューターとして扱い、痛みを感じるプログラムを動作しないようにしている。だがそろそろ限界だ。俺の生命活動は誤魔化しきれない不調を各々の神経で訴えている。


 迅雷が力を失っていく。エネルギーが不足していると喚きたてる。


 勝手にシステムダウンしてるんじゃねえよ、迅雷。


 呼吸の激しくなっているのを聞いた。舌に血の味がする。勝手にバグってんじゃねえぞ、オレの頭。勝手に死んでくんじゃねえぞ、三条朧。やっと名前覚えたんだから。


 痛い。暗い。眠い。二つのシステムは静かにブラックアウトしていく。オレの電気信号は言葉を失った。

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