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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
二章~狼
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 僕は戦闘要員ではないのだから校庭にまで連れ出されたのは予想外だった。ジュリアを体育館に置き去りにしてしまったことに気付いてブルーになる。全てが終わるまでせめて大人しく寝ていて欲しいけれど。


 僕は遠距離攻撃を行う女子二人組の動向だけを確認して射線に入らないよう気を付けて隠れていた。


 呪装機甲の少年も滝峰彰も近距離で殴り合うタイプらしい。射撃手二人の中間という位置で三条朧に接近しようとする呪装機甲の少年を陽日は敵視していない。


 梓弓は三条朧に狙いを付けるばかりだ。ついでに言えば少年は三条朧を守ろうとする意志が見え隠れしているし、滝峰彰には誰を守ろうなんて意志は見て取れない。どうにもただ流されただけのように見える。

 それが悪いとは言わないが何も考えず殺し合いに参加できる時点で精神的な歪みを予想できる。


 滝峰彰の戦闘への介入はほとんど一瞬のことで、その攻防で少年二人の命運は断たれたと僕は思った。


 そんなとき身を切るような風が吹いたと思えば魔剣が戦場に現れた。少年二人の少し上に浮いた獣は鎌風を呼ぶ。鎌鼬というのはもっと大人しい化け物かと思いきや期待を裏切られる。


 少し離れたところで眺める僕でさえ足を取られるような暴風に、体重も軽ければ筋力も低いだろう少女二人が堪えられる道理はなかった。現に二人ともの足は宙に浮いた。


 それを見れば僕はもう走るしかない。覚悟の欠けらもなくとも少女一人のクッション程度にならばなれると自負する今日この頃。天皇陛下やら呪術師の代表的な側面があろうとも陽日は単なる女子高生に過ぎない。それは僕の腕に掛かった重さが物語っていた。


「すまない」


 それは僕の言うべきセリフに思えた。

 これほどまでに自分の無力さを実感したのは初めてだ。それは僕の成長だろう。僕は二十代も後半に入る頃だというのにやっと自分の弱さを後悔した。僕は事実を事実として受け止め、それを改善すべき点として認める。僕は自分以外の何かを特別に守ろうと少しだけ思えた。


「ごめんな」


 僕の口から漏れでた声に陽日は目を細めた。僕は逃げるように黒い瞳を獣二頭の闘争にやる。


「どうすればいい?」


 陽日の口がそう動いたのは目の端で判別できた。鼓膜がその音を感じて震えるのも判る。ただその弱気で年相応な言葉が意味を結ぶには少しラグが必要だった。そして肩書きは意味を失う。


「やるべきことをやればいい」


. 僕は意味のない称号に再び彼女を押し込めた。それが生き残るための近道に見えたからだ。


「それもそうだね」


 彼女の瞳に痛ましい義務感が宿るのを僕は見ていた。見ていることは辛かったが目を反らすことはできなかった。彼女の選択にも立場にも責任は取れないが、せめて見守ることはできる。大人と子供の差を実感する。


 立ち上がった彼女の背中はその虚飾に相応しい力強さを纏っている。


 獣の一頭が消えた。

 白銀の体毛の美しい狼は煙のように立ち消えた。そしてそれを追って風の衣を纏うイタチも姿を消す。


 科学と呪術の結晶のような兵器が砕ける音が聞こえた。


 黒い大鎌は装甲を貫く。そして鮮血を散らす。

 装甲を二度貫通した弾丸は重力に引かれ、音もなく墜落した。

 三つの叫びはそのままエネルギーと変化した。そのエネルギーは現実に破壊をもたらす。


 大鎌と刀には血が滴る。普通の学生服はところどころ裂け、赤黒い染みが付いている。真っ黒な瞳には苛烈な感情が渦を巻いていた。


 その姿はまさに魔王と呼ぶに相応しい。刀には真っ白の光、大鎌には暗い闇が絡みつく。どちらも背筋に冷たいものを抱かせる力があった。


 穴の空いた装甲にはエネルギーが充填される。電力は回路を焼き切ることなく空気中でスパークを起こした。緑色の光を保っていたセンサー類などの光は危険色の赤を明滅させる。モーターが獣のような唸りを上げる。


 白銀の拳銃はいつの間にやらパーツが増えた。


 片手で持てる大きさを超え、特殊部隊が扱うような自動小銃。さらにそれに様々なオプションパーツが追加されていく。拳銃だった頃の特徴を鑑みれば弾数が増えることは一発一発の威力が低下することにほかならない。


 ただその銃身が発する圧力はその考察がただの願望でしかないことを痛感させる。それを手に持つのがどこにでもいそうな少女であることがまた不気味だ。まさしくセーラー服となんちゃら。


 怪物がそこにはいる。


 僕の腕時計が悲鳴のように甲高い音を上げた。時刻は五時。時計の針はやけに震えていて見にくいと思ったが、それは単に僕の体が震えていただけらしい。


 日はまだ沈む様子はない。夜はまだ遠い。


 後一時間がタイムリミットだな、と判断する。それ以上長引けば、一人の脱落が決定する。

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