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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
二章~狼
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 困ったことになった。一発目の銃弾は奇跡的にも俺の身を砕くことはなかった。ただそれだけのことで状況を楽観視することなどできない。


 三条さんは冷たい目で俺の動向を確認しているらしいし、仁の顔のセンサーも俺を監視するように点滅している。二階にいる二人組もこちらを見下ろしているようで誰が敵なのかも分からない。


 万一にも俺一人だけが彼らの敵だったとすると俺は生命活動の停止を余儀無くされるところだろう。


 まさかのバトルロイヤルだとしても素人高校生がどうしろと。捕虜の身が安全であると保証されているならば速やかに白旗を振りたい。


『万一彰さんがハブられてたら私はどうやって逃げましょう?』


 なるほどその場合は本当に孤立無援らしい。冗談じゃない。大体そこは嘘でも私だけは味方ですくらい言う場面だろう。そうやって土壇場で裏切られた時の絶望は計りしれないものだろうけど。


 現実問題三条さんに味方はいないだろう。というかいてはならない。俺個人としては彼女の味方になることもやぶさかでない。俺個人と三条朧として十何年間か生きていた少女の対等な関係ならば喜んで味方しよう。ただ狼と契約を交わした少女とは対等な関係を築けそうにもない。狼の味方になってはならない。


 俺みたいにソフィアにイタチを抱え込んだ人間が言うと理不尽なわがままのように聞こえる。


 ただこれらは人間とは本質的に異質なのだろう。これらは人間にあまりにも依存し過ぎている。人間よりも余程完成されているように見えるのにも関わらず、ちっぽけな人間を主人という名の管理装置として相互に縛りつける。

 俺は身に余る力に意識を割かれ悩みを抱える。抗い難い力への誘惑は俺の精神を蝕んでいるのかもしれない。


 俺は聖剣を仁に向け、出来るだけ高圧的に傲慢に高らかに言い放つ。


「状況を教えろ。いや教えてください」


 仁に頼んだのは知り合いだったからだ。ごついパワードスーツみたいのを着てこそいるが、それで人間性が変わるもんじゃないだろう。変わらないといいな。変わらないでいてください。

 高圧的な態度などどこ吹く風で俺は懇願した。高らかに格好良く言うなんて夢のまた夢の話だ。


 理想なんて上手くいくもんじゃない。上手くいくならば今日は平穏な睡眠時間に還元されているはずだからだ。


 やはり俺の平穏な生活への道筋はまちがっている。


 少なくとも化け物とエンカウントするのはRPGの中だけで十分だ。そんな俺の魂の叫びが聞こえたのだろうか。仁は頭を傾げた。顔がどちらを向いているかは分かるが目の焦点がどこに合っているのか分からず少し不気味だ。


「彰さんはどうするんすか?」


 マイクを通したせいかいつもとは微妙な差異が感じられるがよく耳にする声。口調も普段と違う様子がなく安らぎを覚える。だが質問に質問で返すのは失礼だろう。俺の出方次第ではどんな状況も起こり得るわけだけれど。


 ただ問題は俺が何をしたいかだ。


 正直に言おう。面倒臭い。死にたくない。逃げたい。


 ただ問題は仁に死んでもらうのは精神的な安寧を保つ上でまずい。ゲーセンの筐体に馬鹿正直に小銭を入れる時代は俺の中では終わったのだ。


 仁という一種のブラックカードを失うことは俺の金銭的にも大打撃となるだろう。それに三条朧が死んでしまうのも忍びない。美咲にも気のいい友人は必要だ。それも美咲を正しく見てくれる少女ならばなおさらだ。


 俺の理性は天使と悪魔に分かれて論争を始める。それから間もなく、ああ天使よ死んでしまうとは情けない。


 残念なことに俺の中で綺麗事を唱え、俺を陥れようとする連中が生き残る。仁と三条さんが傷つくことを肯としない耳当たりの良い言葉が脳裏を駆け巡る。まったく俺はそんなことを望んでいない。家に帰って寝たいだけだ。悪魔なんだからそんなお題目を唱えたところで極楽浄土にはいけないのに。


「誰も傷つくことのないように最善を尽くすよ」


 俺は掠れた喉を震わせて逃げ腰なそんなことを言った。聖剣なんていかにも勇者然とした刀を持っているのにまったく情けない。


 こんなことなら仁にでも譲渡して俺は浄土に至るのに。俺は感情の針が苛立ちと高揚で振れるのを感じる。そして俺の手を通じて何か温かいものに触れた。


『あなたの心のままに私は力を振るいましょう』


 ああそれならば俺の心のままに何もかもを救ってやろう。俺の心が救いたがっているのならば好きにやらせてもらうさ。救おうなんてことは思っていないけどな。


 俺は刀をしっかりと握り直す。決意を固めたところでそれに相応しい力がなければただの妄言だ。馬鹿みたいに力任せに刀を振るしかできない俺が痛々しい中二病野郎で終わらないためにもまず集中する。


 銃弾を食らえばまず即死。巫女服の少女の弓矢がヒットすれば体は灰になるだろう。仁に殴られれば骨がジャンク品になること請け合いだ。


「なぁどうすればいい?」


 声を出さず口と舌の動きで質問をする。その答えとしてか、俺の体の主導権が俺以外のなにかに渡されたことに気付いた。両手は刀をしっかりと握り、あまり気負った様子でなく刀を構えた。俺の体は俺の意志に関係なく自然に敵意を発散する。


『ただこれだけですよ』


 これで万事が上手くいくなんて風に言われても納得はいかないが、やれることは見つからない。要は死力を尽くして戦うだけなのだ。


 突如、視界に膜が張るような感覚を覚えた。といっても実際に膜が張られたわけではない。現に三条さんと仁それに謎の二人組ははっきりと見えている。つまり、これは体育館全体に結界が張られたのか。


 つい周囲を見渡すとステージの脇に佳奈がいるのを発見する。このすきを突かれれば俺は体育館に赤色のペイントを施すことになっただろうが皆良心的だったようだ。それとも単に俺が相手にされていないだけか。


 そうしているうちに唐突に視界が変化する。肌に感じる緊張感こそそのままだが体育館の人の多さから生まれる熱気のようなものは消え去った。眠りに落ちた人々も視界から消え去った。


 そこは広い空間で、最初はどこか分からず混乱した。その理由としては単純に視界に写る見知った建造物がセントラルタワーだけだったからだ。それからすぐに周囲の風景も体育の授業でよく見る風景と重なる。どうやらここは校庭の一角らしい。


 屋台の美味しそうな匂いが平和に俺の鼻をくすぐる。

 戸惑った様子の三人を見やる。謎の少女は勝手知ったるという空気を漂わせている。彼女の起こした現象か、佳奈が起こした現象か、もしくはそれ以外か。呪術的な効能であるということしか分からない。要は何も分かっていない。


 何はともあれ、ここは戦場で、最悪の場合、俺の死に場所だった。

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