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時計の長針がまた時刻の区切れを教えてくれた頃、人波が目に見えて動き始めた。僕はジュリアの手を握る。小さな手が小さな力を込めてくれたことを感じる。温かさが伝播するも6月の暑さと紛れて消えていく。
人の流れに離れることのないよう、寄り添って二人で歩く。その姿はまるで――。
「お父さんと娘みたいだね」
そんなふうに感じるのは僕の憧れを原因とする錯覚だと思ったのだが。陽日は僕の後ろからそう言った。
陛下は僕の服を指で摘んで付いて来ている。服装は陛下曰く雑誌の服装を真似ただけらしい。それが似合うのならば何も問題ないのだろうが、それが簡単にできる人種がいるのだろうか。目の前にいたらしい。
「僕には家族はいませんから」
「奇遇だね。ボクにもいないよ」
陛下の顔にどんな感情が浮かんでいるのか興味が湧いたが、僕は振り返らない。
「聖剣と何を話すつもりですか?」
人込みの中聞くのもどうかと思ったが人なんて案外他人に注意を向けていないものだ。
「敬語は嫌いなんだけどな」
「申し訳ありません」
「馬鹿にしてるのかい?」
陽日はゆっくりとため息を吐いた。
「単純な話、それが害悪ならしかるべき処置をする」
ただそれだけだよ、というように口を閉ざす。
害悪でなければ不干渉。あるいは害悪である場合と同じ処置を、いくらか楽にこなすことができるのだろう。
「何の話してるの?」
ジュリアは陽日の顔を眩しそうに見上げる。僕はその手を引いて無言で歩く。陽日の顔はジュリアの疑問を受けてどのような表情を浮かべているのか。
「楽しくない話だよ、ごめんね」
「お祭りなのに楽しくないの?」
「世界にはいろんな人がいるんだよ」
ジュリアは陽日の言葉に分かったのか分からなかったのか、何とも言えない声を上げる。あまり興味がないのかもしれない。まぁそれもそうだろう。学園祭なんかに来るのは僕ですら初めてなのだ。注意が他に散漫になるのも無理はない。
「学生以外にも屋台があるらしいし、たくさん食べ物があるだろうね」
気を取り直したように言う陽日にジュリアは目を輝かせた。
「たこ焼きとか焼きそばとか?」
「うん。わたがしやらリンゴ飴なんてのもあるかもしれないね」
「ホント?」
ジュリアは僕の手を引く。
「学園祭にそんなのあるのかな。まぁ探そうか」
僕はあまり期待を持たせないように、やんわりと伝える。
「彩華島には祭りが少ないから、学園祭も外部の出店が多いはずだよ」
陽日は気の利いた情報を教えてくれた。ちょっとしたイベントにかこつけて金を稼ごう、もとい楽しもうという人間が多いということだろう。人の流れから段々とフェードアウトすると、確かに校庭にはたくさんの店が見えた。朝の早く、開場されてすぐでは流石に人も少なく活気もないが、昼と後夜祭では賑やかな光景が見られるのだろう。ん? 後夜祭では生徒だけだから、店もなくなるのかな?
「まだお腹は空かないよね」
陽日の問いにジュリアは辺りを見回しながらも頷いた。空腹よりも珍しさからくる興味だろう。
「じゃあ、とりあえず回ろうか」
僕の手からジュリアの温かみが離れる。陽日とジュリアが手を結んで歩く様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。二人は仲良くはしゃいだ様子で足を進める。
僕はそれを後ろからぼんやりと見ていたかったのだけれど、二人の視線が僕を射抜いた。僕は足を前に
出す。僕は持てあました手をジーンズのポケットに入れる。
金色の目をして学園を覗きみても、聖剣らしいものが災いをもたらした様子はない。不思議に思ったのはなぜ人間と違うものが人間の中に自然に溶け込むことができるのか。
その疑問への解答は黒い目でも、金色の目でも見つけることのできない。
僕の疑問をよそに手の中の温かさはポケットの中でも消えることがなかった。




