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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
一章~再会
32/75

23

「彰、俺たちにはやらなければならないことがある」


 そんなことを父親が幼い俺に言った。もう何年前のことだろうか。

 俺がおぼろげに覚え、美咲は完全に忘却した過去の出来事。終わってしまった出来事だった。


 父親と母親の失踪。それともう一人のいたはずの家族との別れ。


 昔の話だ。


「やらなければならないことって? お仕事?」


 今、思えば、両親は呪術師だったのだろう。


 その場所は祭壇前。

 交友関係には由利さんがいて、副担任の渡会先生もいた。



「大切なお仕事だよ。彰、お兄ちゃんなんだから美咲をちゃんと守るのよ」


 母親が微笑んで頭を撫でる。幼い俺はそれだけで安らいでいく。

 父親が脇の下に腕を入れて抱えあげた。


 温かさ。久しく感じていない親の温かさを俺は思い出した。


「あなた、今呪ったわね」

「……問題か?」

「子どもに掛けるものじゃないわ」


 父親が何をしたのか、俺にはわからない。ただ母親が咎めるようなそんな雰囲気があって、少し怖かった。


 この場面は俺と美咲が二人きりになる場面。


「こいつには仕事がある」

「流也、その仕事をなくすためにいなくなるんでしょう?」


 幼い子どもの声が父親に呼びかけた。


「万が一失敗したときのために、仕事は引き継がれなければ」

「記憶は封印しといたほうがいいかしら」


「彰を傷つけないで」

「彰だって血を分けた子どもさ。苦労を背負わせるのはしのびない」


 聖剣を幼くしたような声が俺を守ろうとしている。


「お姉ちゃん?」

「何?」

「僕は大丈夫だよ」


 俺はたどたどしい声で言った。それでも自信をこめて。


「僕も強くなるから」


 その次に俺が言ったはずの言葉は、今聞けば恐怖でしかなかった。


「由利お姉ちゃんだって殺しかけたんだよ」


 その意識の中には目の前のお姉ちゃんが止めなければ、由利さんを殺しきったはずだという無邪気な確信があった。


「あなた、人を造る(・・)才能はあってもまともに育てる才能はないわよね」

「知ってるか、こいつお前の子どもでもあるんだぜ」


 まるで他人事のように。


「彰、美咲を頼むわよ」

「家族ってのは守りあうもんだ。守るってのは傷つけないもんだ」


 二人が俺に確認して、母親が眠る美咲を俺に手渡した。幼い俺が美咲という、言ってみれば重い物体を持てることに


疑いはない様子だったし、俺もその重さを重いとは感じなかった。壊してしまうのではないかという恐怖だけがあるら


しかった。


「お姉ちゃん?」


 突然抱きしめてきた姉に俺は戸惑いの声を上げた。まだ名前も思い出せない。

 聖剣のほうが、当時の俺よりもよほど情緒が豊かだった。彼女は少なくとも俺を慈しんでいた。


「彰は優しいのよ。力の使い方は学ぶ必要はないわ」

「お前が守るか、――――?」


 名前が思い出せない。それだけが辛かった。


「お前には無理だ。お前だけではな。まったくあいつに似て責任感の強い女になったもんだ」

「ですから私ひとりでもできます」


 必死に俺を守ろうとしている。だけれど、両親が俺を守ろうとしていないわけではない。将来、襲い掛かるだろう【


何か】のために対策をしているだけ。


 昔の俺はぼんやりと話を聞いているだけ。今ならば分かる。両親の失踪には何か訳がある。


「平行線だ」


 父親はどこか遠くを見た。祭壇の上のほう、【何か】がいる方角。それから入り口のほう。


「土御門が怒り出すころだ。二人は放置、こいつは連れてく」


 父親がお姉ちゃんを指した。


「契約しておけ。お前らでもそれはできるはずだ」


 父親が取り出した十徳ナイフでお姉ちゃんは俺の指先を切った。俺は美咲のほうを見た。治してもらいたかったのだ




「我は神の権能を継ぐもの、新たな時代の礎となるもの」



 指先が湿った温かいもので包まれた。血液がなめとられる。



「汝の剣として、汝の力として尽くし、汝の求める世界を創造する」



 俺は世界なんていらないよ。今も昔も。



「汝の望みのままに顕現し、世界を救世する」



 幼い俺は唇を湿らせた。



「汝、我が誓いに応え、我が力を求めたまえ」



 言わなければならない言葉があったから、俺は口を開こうとしたのだった。


「……………」


「すまんな、記憶は封じた」


 本来、俺の記憶から失われた部分。俺の視界は固定され、意識は途切れているようだった。


「悪いな、彰。愛しているが優しくはなれないんだ」


「待って、私は絶対に彰を守るから」


 俺はその必死な叫びだけは聞き取れて、わずかにうなずいた。

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