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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
一章~再会
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17

 目が覚めて最初に気がついたことは腹が減っているということ。つまりそれだけ時間が経ったということ。窓の外から覗く外は暗い。時間が正確にどれだけ経っているのかは分からないが、夜であることは確かだ。



 ここはどこだろうか? 清潔な部屋、恐らく病室だろう。


 起き上がってみると目から冷たいものがこぼれ落ちた。



 月光の差しこむ白い室内。俺のベッドの脇には最強の剣が眠っている。


 それは人の姿をしていた。だが不思議なことに俺は彼女を聖剣だと確信できた。


 使い手の黒人男性を失い、人型の本来の姿なのだ。



 いつも目にする学生服を身に纏っているのにも関わらずとても遠い存在に感じる。目の前にいるのが嘘のようだ。月の光を浴びる彼女の横顔はまるで作られたように美しい。


 何気無くに伸ばした手が彼女の艶やかな金髪に触る。頬に触れる。血が通っているのを感じて意外に思った。


 契約だと彼女は言っていた。俺は何を代償に何を獲得したのだろう。契約と取引がイコールでないことに気付いて俺は苦笑した。どうして何かを失わなければ何かを得ることのできないと思ったのだろう。そもそも俺は何も得ていないのかもしれないじゃないか。


 いくら考えても答えは見つからない。考えることがよい結果をうむわけではない。



 彼女の白磁のような肌が動いた。瞼が震える。ゆっくりと持ち上げられた瞼の奥に覗く瞳。俺は彼女の頬に当てたままの指先を離すことさえ忘れて、見入っていた。


 きれいだ、と思って、気付いたときにはそれを素直に口に出していた。

 白磁の肌に朱が混じる。



「手を離してください」



 空気の振動が耳に伝わり、脳内で意味を結ぶ。

 俺は無言で指を離した。


「久しぶりです、あるいはこんばんは、それか早いお目覚めということでおはようございます、どれがいいのでしょうか? それはともかく、私が聖剣です。これからよろしくお願いしますよ」


 彼女は首を傾げながら不思議そうに不思議なことを言った。


「どうしてはじめましてがないんだ?」

「それはもう、ほらさっき話しましたし、夢の中で」



 細かいことはいいか。大体夢の中で会うというのも聖剣という存在も冗談のような話だ。だがそんなことよりも大切なことがある。冗談では済まされないことを確認しなければならない。


「美咲がどうなったか知ってるか?」


 彼女は安心させるような微笑みを見せる。


「死ぬことはないですよ。まだ眠ってますがすぐに起きると思います」

「病室がどこか分かるか?」

「廊下に出て右の突き当たりです」


 俺はベッドを軋ませて立ち上がる。体のいたるところが痛む。包帯が巻かれ血が滲んでいる。アドレナリンとかそういう類の脳内麻薬の力を思い知った。


「お前は来ないのか?」

「私一応監視されているみたいなのであまり動きたくないんです」


 とてもあの化け物の一人だとは思えない態度だと思った。そしてここに至って美咲を傷つけたのが聖剣でもあることを思い出した。俺は彼女とこの部屋にいることで安心すら覚えていたというのに。


 もしや俺は恐怖を失ったのかもしれない。それが代償か成長かの判別はできなかった。






――――――――――――――――――






 彼女の言う通り美咲の容体は安定していた。呼吸器と点滴の管がついて痛ましい姿だったが生きている。ただそれだけで十分だった。安らかな寝息はいつも通りの聞き馴れたもの。


「目が覚めたんだね」


 佳奈の手には包帯が巻かれている。由利さんの手に巻かれていたのとよく似ていた。


「後は美咲ちゃんが起きるのを待つだけかな……」


 佳奈の言葉を最後に、しばらくの無言が続く。

 俺はただただ美咲の眠りを感じている。確かにここに生命があることを感じていた。

 佳奈は壁際の椅子で困ったように包帯を触っていた。


「悪いな。お前の拳銃失くした」


 FN Five-seveNを落としたのは事実で申し訳無いと思ったのも事実だ。だが謝罪は沈黙を埋めるためのもので、尋ねるべきことを先延ばしにするためのものだった。俺の手は困ったように美咲の髪を梳いている。


「いいよ。そんなことは……気にしなくて」


 佳奈は俺が問いかけるのを待っている。俺の心が先に進もうと決意するのを彼女はただ待ち望んでいる。

 知りたいが知りたくなかった。佳奈は答えてくれるのだろうか。答えてくれなくていい。俺と美咲には関係のないことだからと、いつもの優しい声音と、いつもとは違う優しさで断ってくれないだろうか。


「どうせ聞かないといけないことだよ」


 佳奈は宙を見つめ、冷たく俺の逃げ道を閉ざした。そしてゆっくりとしっかりと目を閉じて、逃げちゃ駄目だ、と呟いた。言い聞かせるように呟いた。


「どういうことなんだ?」


 俺の質問は閉ざされた逃げ道を必死で探すようだった。ここで佳奈が静かに拳銃の入手手段を語ってくれれば、静かに笑い合えたのだ。この島では銃刀法なんてあってないようなものなのか、と笑えたのかもしれない。


 佳奈も俺の質問の狡さに気付いたのか、意地悪な質問だね、と微笑んで尋ね返した。


「何について聞きたいの? 呪術師のこと? 二本の剣のこと? それとも彰君がこれからどうなるのか? どうせ聞かなきゃいけない話なんだから順番を決めて欲しいな」


 美咲の髪の毛はさらさらと俺の手から滑り落ちた。

 どれも知りたくないよ。

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