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聖剣英雄(偽)譚  作者: 伽藍堂
一章~再会
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06

 2038年、9月30日。その日から様々なものが変わった。たとえば昔の常識的な世界ではありえなかったことが起こるようになった。だが実は人々が気付かなかっただけで、ありえないと思っていたことはそれまでもあったのかもしれない。その場合は、人間だけが変わったのだろう。


 どちらにせよ、人間の記した歴史上で最大と言ってもいい転換点だったに違いない。


 いくつかの国が滅び、何万もの人々が死んだ。共同体が壊れ、人間関係が崩れ、常識が崩れ、それらは時間を掛けて再構成された。



 初めに禁忌の柩、またはモノリスと呼ばれている物体があった。もちろん場所により誤差はあるが大抵が同じような意味合いの名前で呼ばれていた。


 それは世界中に無数にあり、長い間隠され管理されていた。監視されていたという表現の方が正しいかもしれない。


 なんにせよ人間の組織などがそれぞれ見守り、その行為によって人間を守っていた。彼らはそれが何なのか完璧に知ることがなくとも、それの危険性は理解していた。それが人間と関わってはいけないことも。


 何が発端だったのかは分からない。それが誰かの作為だったのか何かの事故だったのかは意味が無い。ただ結果としてモノリスは暴走した。人間の制御を外れたのだ。


 呪術のエネルギー源となる力が世界に溶けていった。


 そして数十人とも数百人ともいわれる最初の魔人、始祖と彼らの武器である魔剣が出現した。


 現れた彼らはあくまで人間だった。悪魔などではなく人間だった。さらに正確に表現するならば現れたのは始祖ではなく、その力。つまり普通に暮らしていた一般人が突如始祖として覚醒した。

 彼らは何かに突き動かされるように戦争を始めた。



 始祖同士で人智を越えた戦争を。その戦争は人類の歴史に残る最も凄惨なものだ。あるいは歴史をばらばらにしかけるほど過激なものだった。



 現代の兵器を使わない、あるいは多用しないという意味では原始的だった。全人類という基準からすれば近代兵器は多用されなかった。どこかの誰かが核戦争の次は殴り合いになると言ったらしかったが、核戦争の前に殴り合いの戦争は実現した。



 戦争に参加した人数は少なくて百万人。世界大戦と呼ばれる二つの戦争で何千万人もの人間が参加したことを考えれば異様に少なく思える。だが見ようによれば人類全体の戦争だったとも取れる。少なくともとは上限が分からないということだ。それはどこからを戦争の基準とするかにもよる問題だ。その時代に倫理や道徳が生きていたかは定かではない。



 その戦争の勝者たちは魔王と呼ばれた。もちろん勝者をことさらに求めようとするならばの話だ。当時の人々は勝者を望んだ。誰かを勝者として認めることで争うことをやめようとした。


 魔王の統治した世界は一時の平和に包まれた。朝目覚めれば記憶から消えている夢のように不確かで名残惜しいような平和だった。

 平和が終わるのは唐突ではなかった。魔王の君臨する世界がどこか歪みを抱えていることは誰の目にも明らかだったからだ。夢幻のような平和には同じく夢幻のような欠陥があった。


 魔王の戦争にはもちろん敗者がいる。勝者がいるならばの話だ。そしてその中には当然死者もいた。滅んだ始祖たちの勢力は他の勢力に取り込まれていき、いつの間にか馴染んでいった。


 問題になったのは、つまりは新たな惨劇の原因となったのは始祖の武器だった。


 魔剣の中には主人を失ったことで制御を失うものがあった。魔剣はそれこそ創作の世界に出てくる、いわゆる最強の兵器と言うべき代物だった。その力は主を失うことで確かに減少した。だが減少した、ただそれだけのことであり、その力が人間にとっての脅威として存在していることに変わりはなかった。


 魔王の世界の歪みが可視化し、より現実的な問題が可視化する前、神からの使いだったのか最初の聖人がおそらく初期の始祖と同じだけ、聖王と聖剣が現れた。


 戦争は始まらなかった。それに名前をつけるとするならば一種の殲滅戦だったからだ。殲滅されたのが少数。無条件降伏後、結果の決まり切った戦争裁判に掛けられたものが少数。人知れず失踪したのが多数。魔王は全てを静観した後、失踪した。


 全てが終わった時、地形が変わり、いくつもの都市が壊滅し、たくさんの人類が消滅した。公的な記録も残ることなく死者の総数も分からない。名も無い死者の為にいくつもの追悼の碑が建てられ、その前は涙を流す人々で埋まった。


 一連の事件は第三次世界大戦としてまとめられた。仮初めの平和の王は名前すらも記録に残らなかった。ただその一応の善政の記憶と圧倒的な武力だけが神話のように語られるだけだ。



 この50年で新しい人類は増えた。もちろん従来の人類も。そして戦争の痛みを知るものは減っていった。



 今ではモノリスはエネルギー源として使われている。非公式にセントラルタワーの中枢に存在し、電気や力を放出し続けている。一辺10メートルで継ぎ目の一つもない不気味な立方体。非公式とはいうもののそもそもモノリスの存在はその影響力とは裏腹に広まることがあまりなかった。だからこそ情報は統制され、制限され信憑性の限りなく低い都市伝説としてモノリスは知られている。知る人ぞ知る単なる噂として。禁忌の柩に触れるべからず。



 沈黙の訪れた室内で唐突にアニメソングが流れだす。生徒会長のメールの着信音だ。ちなみに電話の着信音は電車の案内の音声だ。

 メールの文面を見て生徒会長は呑気につぶやく。


「いやぁ優秀だなー」


 生徒会長はキーボードを緩やかに軽やかに叩く。のんびりとした動作に焦りがあるはずもない。


「彼女たち、僕がエロゲーして遊んでる間にこっちの仕事も済ましてくれたみたいで」


 ハハハと笑う生徒会長。

 対照的に三人の顔が曇る。同僚への不満を誤魔化すかのように三人はココアに手を伸ばした。

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