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小屋

 タイトルを少し変更しました、三話の後書きを修正しました。短編はそのままです、お見苦しいところを見せてしまい誠にすみませんでした。

 

 ガバリと俺は起き上がった、体中が泥だらけで痛いし寒いしでガクガクと震える。ゆっくりと体を動かして四足で立ち上がるとすぐそばの木に体を預ける。夢の内容を思い出そうとするが、変な夢だったのは覚えているが何故か肝心の内容が全く思い出せない。


 夢にしては妙に印象に残った、キャベツの夢と違い思い出そうとすると頭が痛くなる、自分のことを思い出そうとするとき時と同じ症状だ、狸になり始めの頃どうでもいいと思いながらもちょくちょく思い出そうとする度にこの頭痛に見舞われた。


 そしてどうでもよくなるのだ、思い出そうとする気力を失いどうでもいいやと感じる。今この瞬間もその思考はどうでもいいと思っているのだ……。


 気味の悪さは前々から感じているがどうにもならない、もしかしたらこの症状は俺が狸になった理由の一つなのかもしれない、その考えさえ余り長くは続かない、すぐに別の考えに移るのだ。腹が減った……、腹が減って死にそうだ。


 俺は木から立ち上がり周りを見る、空がある……、太陽は昇っていないが見渡す限り青空が広がっている。ここは谷の底のハズなのにどうしてだ? ここはさっきの光の先なのか? だとしたら何故今はどうもない? さっきまで近づく度に全身が震え上がり、背筋が凍るような気分になっていたのに何故今はそんなことが始めからなかったように普通の状態なんだ。


 わからん、全くもってわからん。さらに周囲を見渡すと大量の巨木が生えておりそこら中に伸び広がっている。葉で辺りの光を遮り木々の間はとても暗い。その中にひっそりと佇む木の小屋があった。


 何故こんなところに小屋が? 幻覚か? 寒さと体の痛みで俺の頭がパァになったか?


 ともかく小屋に近づいてみる、小屋には窓はなく木の扉が一つ付いているだけだ。


 扉に耳を近づけて音がしないか調べる、ギイィ……。うぇ!? 近づき過ぎて扉に寄りかかって開けてしまったか……? 


 小屋の中は暗いが狸なので暗闇の中でもよく見える、小屋の中は沢山の木製の棚があり物置といったような感じだ。……誰もいないよな? いないんだよな? いないなら別に入ってもいよな? ここの物少し拝借しても別に怒られないよな?


 さっき休んだばかりだが体中が傷だらけで酷く冷えている、おまけに腹ペコだ。棚に食べ物がないか探す、勿論大きくなってはいるがタヌキなので手は届かない、ぶつかって開けてみる事にした。


 近くの棚にぶつかって棚を開けようと、ドシン、ゴン、ゴン、と、ぶつかっていると。


 コロン、コロンと棚の上から何やら落ちてきた。


 なんだこれ瓢箪ヒョウタン? 落ちてきた衝撃で蓋が抜けたのか中に入っていたらしい小さな赤色の丸薬のようなものが散らばって木の床に転がってゆく。慌てて散らばった丸薬を集めて瓢箪の近くまで口で銜えて運ぶ。最後の一粒を瓢箪まで運んでいるその途中、ぬるりと丸薬が俺の口に入り込んでしまった。


 口に入った丸薬は俺の唾液で溶け、鼻孔に香ばしい香りが突き抜け、思わず飲み込んでしまった。なんだこれは!? 美味すぎる!! 俺はさっきまで集めていた赤い丸薬を次々と口の中に放り込む、さっきは一瞬で飲み込んだが、噛めばコリリと炒ったナッツのような感触が伝わってきてその度に口に広がるまるで様々な木の実を一度に食べて全ての木の実の味がそれぞれ邪魔せずに調和するような……、そんな味だ!! ああなんてことだ、食べ始めているのにさらに腹がへっていくかのようだ!


 食べては口に放り込み、食べては口に放り込む、ちょうど腹が減っていたこともあって尚のこと美味しく感じる、一度に口に放り込むなんて勿体無いことはせずに一粒ずつ味わって食べる。


 ――至福の時、今この時を指し示す言葉にこれほど似合う言葉があろうことか……。テレビ番組の料理で喧しいほどに、「美味い! 美味い!」を連呼する芸能人がいて、俺は今まで本当に美味い物を食べたら言葉で美味いと表したくなるものだとばかりに思っていたがアレは嘘だ。


 本当に美味いものを食べるとき、人は一心不乱に食べ続ける。今の俺はこの赤い小さな粒を食べ続けるのみ、そこに口で一々口で表す余裕などかった。


 ……気が付くと食べ終えていた、瓢箪に残っていた赤い玉も食べ尽した。あまりに美味すぎたのだ。あの赤い丸薬は俺が今まで食べてきたどの食べ物よりも美味かった、人間だった頃の料理、狸になってからの食事……、それらの食べてきた物を全て便所の糞と吐き捨てて言っても大げさでは決してない。


 ただ香りや味がよかっただけではないことに食べる途中で気が付いたのだ……、まるで体が際も欲するように感じた、食えども、食えども、体が求める。生き物として食事はミナこうであればいいのに。


 それほどまでにこの丸薬は美味かった、こんな美味さ初めてだ。


 もうないのか? まだあってもいいハズだ。 


 俺は瓢箪が入ってないか見るため棚にぶつかり棚を開けようとする、すると棚がドスンと倒れて、扉が外れる。俺は扉のなくなった棚の中を見るが瓢箪はどこにもない。


 がっかりだ……。まぁ、惜しい気もするがないものは仕方ない。


 瓢箪はなかったが棚の中には色々な物が入っており見るだけでも面白い。透明な液体が入った龍をかたどった小瓶、大量の巻物、水晶玉、大きな鏡、壺、その他沢山がギッシリと詰め込まれていた。


 俺はその中にある巻物が気になった。咥えて棚から出して巻物の紐を解いて手で押さえつけながら開いてみる。するとそこには見たこともない文字が書かれていた。


 何語だ、英語でもないしどっちかというと漢字に近いような……、何々……、内丹術ね……。なんだそりゃ。

んで、何々……、呼吸法の工夫か……、ふむ……ふむむ!?


 読める……読めるぞ! 何でか知らんが読める! 今さら別に知らん文字が読めるようになっていても驚かんぞ、狸になってるからな。読めるならラッキーだと思うぐらいだ。便利な能力だ、俺の中学時代にこんな能力があればよかったのに……、そうすりゃ後々英語に苦労することもなく……。


 ……よそう、今は巻物の事だけ考えよう。


 しばらく巻物を読んでいるとだんだんとそれに書かれる意味が分かってきた。内容は何かの修行方法らしく、不老への至り方や精神がどうたらこうたら、煉丹術の心得、神通力、あとが長たらしい後書きのようなもの、そこは殆ど執筆者の自慢話で読む気にはならない。


 こんなところだ、んで表紙にはでかでかと筆で、「仙術」と書かれている。


 つまりこれは仙人の術か……、仙人ね……、西遊記を昔読んだことがあるからだいたいわかるが、ここの棚のは全部そうゆう仙人関係の巻物なのか? 


 いや、待てよ? 西遊記とゆえば孫悟空が天界で悪さしてなんか偉い人がいないうちにその人が作った不老不死になる金丹(または仙丹)を盗み食べた話があった。もしかしてさっき俺が食べたのって……。


 まさかな……、いやそんなまさか……、馬鹿馬鹿しい、そんな簡単に不老不死になれるはずないだろう。もし不老不死なら今頃俺の体の傷は全て治って痛くな……、痛くない? 棚に置いてある鏡を見ると俺の傷はすべて消えていた。嘘だろう……。


 俺は慌てて煉丹術について書かれた巻物を探す。これじゃない……、これも違う……、あった! その巻物は煉丹術について詳しく書かれた巻物だった。金丹、または仙丹について調べてみると巻物の最後のところに書かれていた。


 ふむふむ、金丹を作り出すことに成功したが、ある程度の治癒力はあるが不死になることは不可能だった……。だが不老になることには成功ね……、なるほど、なるほど。


 つまり全部食べた俺は確実に不老になってると……、マジで!? 傷も治ってるしここに書かれてることが嘘じゃないなら……ここにある巻物に書かれてることは全部本当って事だよな?


 つまりこの小屋の中は宝の山じゃねぇか!? しかも仙術! 仙術ならあの有名な神通力についても書いてあるかもしれない!! 西遊記ファンの俺には堪らない!! 是非とも覚えてみなければ!! イヤッフー!!


 

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