果実
俺、現在絶賛逃亡中! マジ死ぬ。隣にいる相棒一匹と死にも狂いで森の木々を避けながら巨大鳥から猛スピードで逃げている。
「グァー!! グァーー!!」
と、俺のすぐ上からカラスのような大きな鳴き声が聴こえたかと思うと、バサァ、バサァ、と巨大な鳥が急降下して俺の横のブラザーをそのデカイ爪でガッシリと掴むと再び上昇して、天高く舞上がった。
空から「キュイーーーィ!!」と相棒二号の悲鳴が聴こえたが、知らん!! あれだ! あの悲鳴は、「俺に構わず先には行け! ここは俺が食い止める!!」って叫びに決まっている!
未だに「キュイー! キュイーー!!」と聴こえるが、「何をモタモタしている!早く行け!!」みたいなニュアンスに違いない!恩に着るぜ! 相棒二号! お前のことは忘れない!
俺は感謝の言葉を彼(あるいは彼女)に心の中で贈りながら、猛スピードで森林を駆けるのだった。
遡ること数日前、ある日を境に俺達に食事を与えてくれた大狸が洞窟に帰らなくなった。多分だが、死んだか、子育ての期間が済んだのだろう。せめて、狩りの仕方とか教えて欲しかったが、いなくなったモノはしょうがない。俺達の中でも一番先に生まれたらしい、俺たちの中で最も大きな狸が「キュイーン!」と鳴くと、他の狸ブラザーズが、皆コクコクと頷き始めた。
なに!? なんか突然、意志疎通し始めたよ、ブラザー達!? 意味が分からない俺は、何となく、兄弟達のように頷く。俺だけ疎外感が凄い、例えるならば学校の修学旅行でテーマパークを、一緒に友人と廻ろうとして声をかけると、「ゴメン! 俺部の奴らと廻るんで! じゃーな!」と、言われて一人でブラブラと大きなテーマパークを廻るような、、そんな時に感じる疎外感のようなだ。
別にそんな目に遭ったこと無いがな。まぁ、だいたいそんな感じの疎外感を感じながら、俺達より少し大きくて体格のいい、リーダーっぽい狸を頷きながら見ていると、彼(あるいは彼女)は洞窟の出入り口の穴に向かってゆっくりと進んで行く。すると、他の狸ブラザー達もリーダーに付き従うように、ゾロゾロとついていく。俺も彼等に連れ添うように洞窟の出入り口へと向かう。
洞窟の外は、様々な木々が生えれ伸びる広大な森だった。大森林だなこりゃ、空を見上げると木々の間から綺麗な三日月が見える、俺がその光景をジッとしばらく見つめていると、またもやリーダーが。
「キュイキュイー! キューイ! キュキュキューイ!」
と、鳴く。それに反応するように「「「「キューイ!」」」」と鳴くブラザー達。ホント何なの? なんで俺も同じ狸なのになぜだ? ブラザー達は鳴き声を上げた後に二匹で組みを作り始めた。俺にも当然一匹の少し小柄なブラザーが寄ってきて、よろしくと言うかのように、「キュイーン」と鳴いてきた。コイツと組めばいいのか? 他のブラザーは組んだそばから森を駆けていく、巣立つってことなのか? そういう習性なのかもしれないな……。
何となくだが、さっきのブラザーの鳴き声は、「さらばだ! いつの日かまた会おう!」的な鳴き声だったのかもな、うむ! そうに違いない。俺は横にいるブラザーに……、いや、これからの相棒に向かって、これからよろしくな! の意味を込めて、「キューーン!」と鳴き返した。するとは相棒は嬉しそうに尻尾を振るのだった。これからコイツといる時間は多いだろうから仲良くしないとな。
俺と相棒は森のなかで食料を探すべく二匹でゆっくりと歩いていると、木にたわわに実ったおいしそうな赤色の果実を見つけた。俺は木によじ登って、その赤い果実をいくつも下に落とした。「キュイ! キュイ!」と 、相棒は下でうまそうに果実を齧っている……、うまそうに食いやがって、俺も下に降りて果実にありつこうとしたその瞬間――、ガサガサと茂みの中から別れたハズの俺のブラザー達が現れた。
「キュイ……、キュキュキュイ!!」
と、大きな鳴き声を上げて俺の果実を素早く奪い取りやがった。いきなりなにしやがんだコイツら! 見ると、相棒の果実も奪われている。コイツら……、いくら兄弟とはいえ……、許せん!!
「キュイイィ!」と俺は威嚇をすると奴らは同じように「キュイイイイイ!」「キュイイイイ!!」と威嚇し返してきた。数は二対二! 相棒! この身の程知らずどもにどちらのほうが上なのか教えてやろうぜ! と相棒をチラリと見ると……。脱兎の如く逃げていた……、狸なのに脱兎、これ如何に!? 待ってくれよ相棒! なぜ逃げる!? 俺一匹じゃ勝てないじゃないか!
前を見ると既にアイツらは臨戦態勢で前のめりの状態で毛を逆立てている……。俺がこうなれば俺が取れる手段は二つのみ! 一、アイツらに一匹で挑む。二、相棒と同じく脱兎の如く逃げる。当然俺は後者を選ぶね! 一匹で勝てるか馬鹿らしい! 返り討ちに遭うのが関の山だろうな! だから俺もクールに逃げるぜ! 待ってくれ相棒! と、俺は相棒を追って逃げていった。
無事果実を奪った二匹の狸は、やっと飯にありつけるとばかりに互いに目配せをしてニヤリとした、目の前の赤い果実は瑞々しい色合いではないか。早く食べようとばかりに二匹は地面に置いた果実に口を近づけてその鋭く並んだ歯を立ててシャクシャクと齧り付く、美味しい果実を食べ終えた二匹はしばらくここで休もうと果実のなる木の下でぺたり伏せた、地面に伏せて休むことで他の生き物の足音をいち早く察知できる、動物の知恵だ。
「キュイ……」と狸の片割れが「お休みと……」と言うように、もう一匹に小さく鳴いて体を丸めて寝転がった、「キュイィ……」と、もう一匹も返すように小さく鳴いて、やがて彼(あるいは彼女)も同じように寝転がった。
だが、彼らが次に目覚めることは二度とないだろう。なぜならば、彼らが足音を察知できる地上ではなく木の上からゆっくりと迫る黒い影がいるからだ、彼らは不注意過ぎた、彼らが食べた果実が実る木があるということは、当然それを食べる生き物がいるのだ。
何も彼らだけが木の実を食べるワケではない……、彼ら以外にも多くの生き物が腹を減らせばここにくる。彼らは本当に運がなかった、なにせ黒い影は果実よりも血の滴る頭の柔らかいピンク色の肉方が大好きだったからだ。影は今日の狩りで獲物を見つけられずに、しょうがなく果実を食べにきたのだったが、なんと! 果実の木の下に美味しそうな獲物が二匹もいるじゃないか! しかも両方とも眠っている、絶好のチャンスだ!
影は地面に音もたてずに地面にフワリと着地すると、己の得物である大きな嘴で二匹の頭を順番に素早く貫く。ビクリと狸達の体は痙攣を起こすが、影の鋭い嘴はそんな狸の頭を何度も何度も貫く、やがて二匹はピクリとも動かなくなった。
動かなくなった獲物の頭に影は鋭い嘴を奥深くにまで差し込み柔らかい肉……脳を嘴に咥えて上に向いて舌に脳が少しの間くっつくがすぐに喉を通っていく。うまい……、やはりどんな獲物も頭の肉は柔らかくてうまい、だが……、コイツの頭の肉はなんだ!? とんでもなく美味いではないか! 今まで食べてきたどんな獲物の頭よりも濃厚でまろやかな味ではないか! 影はしばらくの間ゆっくりと、味わうように獲物の脳を啜るように飲み込むように食べていた、彼には歯が無いため、獲物の脳は最高の御馳走だ、しかも二匹いたおかげで明日の朝もこの頭の肉を食べれるのだ。
しかし足りない! もっとこの味を味わってみたい!! 明日からはこの獲物と同じ奴らを見つけて食べよう! 何としてでも探し出してみせる! 影は獲物の脳を食べ終えると、食べていないもう片方の体を爪で掴み影は大きな翼を広げて空高く……、飛んだ。
月の光はその影を照らす、その影は巨大な鳥だった。