開いたら閉じる2.
キロエが市長にアシーンナ様の魔方陣を破壊した説明をした。
話しの途中で、少し遅れて到着したバリエスに乗ったミカエラを見て市長が
「おおおーっなんという光。
まぶしすぎて、よくお顔が見えません。」
あのしゃがんで両手をあげる挨拶をミカエラにしている。
そんなに魔力あるんだ。
市長の能力が少し羨ましくなる。
ミカエラとバリエスも挨拶して市長はさらに
「このような賢い竜を使役されるとは、すばらしい。」
絶賛してる。
ミカエラは笑顔で応じてる。
このやりとりを離れて見ていてキロエが
「ギンゴ、オマエ彼女にお礼言ったか?」
言ってない。
黙っていると、
「他の人には、礼儀正しいのに、なんで彼女にだけ失礼なんだ?」
「そんなつもりは…」
「自覚ないのか。フム、よくわかったよ。
お礼は言え。特別に心をこめて言うんだ、これは命令だ。」
いきなり上司かよ。
言うよ、いつか。
この後、街に戻って長達に報告した。
みんな静かに喜んでくれた。
隊長は、明日にも死者の埋葬を始めると話していた。
パティナが市長と抱き合って泣きだして、僕も泣いてしまった。
でも、本当なら、もっとずっと早くに来たかった。
そうすれば…。
もうやめよう時間は巻き戻せないから。
あの丁寧なお辞儀を出会う住民に毎回されて、僕たちはおおいに困って、早々に穴にもどる事にした。
キロエは長達に何か、お土産をもらっていた。
さようなら。
アイガー星のみんな。
もう二度と会う事はないだろう。
飛行の魔方陣に乗って、市長やパティナが見えなくなるまで手を振った。
戻る時にキロエが
「あ、ヤナギだけ一人で飛行の魔方陣ね。」
僕が、なんでと聞くと、キロエは
「穴に入ればわかるよ。」
と言った。
穴は少し小さくなったように見えたが、変わらず開いてる。
最初にミカエラ、次に僕たち、最後にヤナギが穴をくぐった。
途端に穴が縮みはじめた。
僕やミカエラが驚いてると
「ヤナギが術を発動したんだから、これはヤナギが移動するための穴なんだよ。」
「じゃヤナギが戻らなければ、ずっと開いてた?」
「死ななきゃ閉じない。」
「だから市長を守らせて、危ない時は後方に下がらせたのか。」
キロエはシータをチラリと見て、
「ま、そういう事だな。」
穴は、ゆっくりと閉じた。
キロエが、異常な魔力は消えたから、誰かに調査させると話していた。
ドゥーナンが掘ったトンネルを歩いて、出口に着くと、いつから待機してたのかボスやビード、そしてジョージナと、ソルデアがいた。
もみくちゃにされながらビードに
「ギンゴくっせぇ、まずホテルに戻って風呂だな。」
って言われた。
門を開けてドラキュラの群れに飛びこんで3日経っていた。
いつのまにかミカエラはバリエスの姿を消していた。
ヤナギだけはアミグ総括の命令で、銀の者達に拘束されてしまった。
後日、証言を求められる事になるんだろう。
11月も終わりに近づいて、色づいた葉もすっかり落ちてしまった。
時々、薄い灰色の空から風に吹かれて、みぞれのような白いものが見える。
ホテルに戻って、まずバスタブに浸かった。
部屋を出ると、服を着替えて、髭のないさっぱりした顔のキロエが待ち構えてた。
ついて来いって言われて後を行くと、ロビーでミカエラがソルデアと楽しそうに話してる。
ソルデアが
「ミカエラ試験が近いから寮にもどるんだって。」
キロエが無言のまま、目だけで言えっていってる。
「来てくれて、ありがとうございました。」
ミカエラは、片足をプラプラ揺らしながら
「ギンゴに電話した前後から、すごく気持ちがザワザワしてたんだけど、実はそれだけじゃないの。
来たのは。」
そう言うと、バリエスが姿を現す。
「4日前の夜だったと思うんだけど、頭の中に、ギンゴを助けてあげてって誰かの声がして。」
「ミカエラ様から相談を受けて、聞き流せばよろしいと進言しましたら、私にも語りかけてきました。」
ソルデアが、キモッて言ってる。
キロエが
「ギンゴといると飽きねぇな。
もちろん知らない人物なんだよな?」
ミカエラは僕の顔は見ない。
「知らない。男か女かも、よくわからない声なの。
昨日の夜なんて、ひっきりなしに話しかけてきて、どこに行けとか、トンネルの場所とか、もう眠れる状態じゃなかったから、誰にも言わずに寮を出てソルデアにだけは会って来たんだけど。
きっと戻ったら叱られるし、試験受けられないかも。」
そこまで早口で言うと僕のほうを向いて
「だから、ギンゴのためだけって訳じゃないから。」
ミカエラが夜に電話してきた時は、逆にミカエラの精神状態が心配だったけど、もっと強烈なストーカーがいるって事か。
「僕に直に言わないのは、なんか理由でもあるのかな。」
ソルデアが
「ギンゴがニブすぎて聞きとれないんじゃない?」
返す言葉もない。
キロエが
「おっけ、一つは解決できる。パトーオス島の高次元魔術学院でいいんだよな。」
ミカエラが丸い目で返事してる。
キロエはスマホを取りだすと電話しはじめた。
「えっと出席番号と名前。」
「2年5―Cのミカエラ・ボッシュです。」
「聞こえた?そう、よろしくお願いします。」
僕たちが見守る中、電話の相手と話してる。
スマホの通話を終わると、
「不問になったから大丈夫。
一応、近親者の急な問題発生のため欠席で担任にも通達してくれる。
書類は必ず出してって、わかるよね。」
ミカエラが手を上げて喜んでる。
なんでだろ、ここに僕はいなくていいと思う。
ソルデアはキロエを穴が開きそうな勢いで見てた。
僕はミカエラに
「もう声はしないの?」
「しなーい。お願いされたから大変な思いで頑張ったのに、お礼くらい言いなさいよって思うけど。」
キロエが名刺を出すと、何か書き込んで
「もし、また困った事があれば電話か、なるべくならメールして。
ケーキ食べたいとかは、なしだぞ。」
ミカエラがケーキで笑って、良い返事をしてる。
キロエって、こんな奴だったっけ。




