開いたら閉じる1.
僕は目を開いた。
まだ周りが、ぼんやりカスミがかって見えにくい。
くたびれたクマのぬいぐるみみたいに座ってる。
名前を呼ばれてるのは、わかるけど、全ての感覚が遠い。
何度かまばたきをして、やっと見えてきた。
ミカエラがいる?
僕は、別の意識に潜ってしまったのかと思って、がっかりした。
仕方なく、もう一度目をギュッと閉じた。
耳が水中で泳いでるような、反響した感じから、しっかり聞こえるようになってきた。
「さっき目開けたと思ったのに?
ね、ね、ギンゴしっかりして。」
キロエが
「ところで、君だれ?」
って言ってる。
何このやりとり。
僕は諦めて目を開けた。
きっとヘンな夢でも見てるんだ。
あーほら、ドラゴンのバリエスがいるし、しかも城の中のまんまで、過去見できっと僕の頭の中が壊れてるんだ。
で、笑った。
顔を覗き込んでいる3人が余計に深刻そうな表情に変わった。
「ね、ギンゴ大丈夫?頭でも打ったの?」
ミカエラがダウンジャケットの中に深いV開きのセーター着ていて胸の谷間が見たから、
「胸見えるって。」
って言ったら、いきなり両肩を押された。
僕はそのまま床に背中を打ちつけた。
前かがみでいたから後頭部は大丈夫だったけど、背中が痛い?あれ、まさか。
ミカエラが立ちあがって、すごい顔で見下ろしてる。
「もうっ!心配して、学校ぶっちぎって、こんな訳わかんないとこまで来たのにっ!
バッカじゃないの?だいっきらいっ。」
って言って泣きだした。
子供みたいに、うぇーんって泣いてる。
キロエがあたふたしながら、
「おぃギンゴ、何言ってるんだよ。
それに、泣くなって。」
シータが
「ねぇねぇ、この子ギンゴの恋人なのぉ?」
僕とミカエラは同時に
「違うっ!」
「すんごぃ息はぴったりでぇ、なんか妬けちゃうぅ。」
だから、否定しましたよ。
キロエが
「ああ、君が聖なる魔女か。
初めまして、俺はキロエだ。よろしくな。」
ミカエラがぐずぐずに泣きながら、
「ミカエラです。よろしくね。」
キロエが、またどっかから取りだしたティッシュを渡してる。
毎回マメだな。
「似てるって言えば、似てるかなぁ。雰囲気が。」
僕は、座りなおして、ミカエラに
「ごめん、過去見の続きかと思って。」
ミカエラは黙って小さく畳んだティッシュで、丁寧に涙を吸わせてる。
キロエが
「何言ってるんだ?」
僕に聞いた。
それで、さっきまでの状況を説明した。
手に張り付いたようになってる石のカケラを、すぐ捨てた。
ミカエラも泣きやんで、黙って聞いてる。
シータが
「ごめん、なんかぁ動きがあったなぁって思ったけど、そんな事なってたなんてぇ、飛べばよかったよねぇ。」
キロエは
「石を握って疑似体験って、それ過去見じゃなくて遺物見だろ?」
僕が判断つかずにいると
「過去見ができる奴は大勢いるけど、物を触って遺物見ができるなんて、ギンゴはアレだけど使い手を見るのは初めてだよ。」
これって僕の家系だけの事なのかな。
ま、キロエに話したところで悪用はしないよね。
「僕の家系では、時々いるんだ。
今は僕だけしかいないけど、亡くなったおじいさんが、その遺物見ができた人だった。」
ミカエラが
「ギンゴのお母さんに、遺物見?してて苦しそうなら、手順を教えてもらってたから、本当に良かった。」
いつのまに、そんな話に。
ミカエラに何されたかくらい、想像はつくけど。
キロエが
「そんな危険な術なのか?」
それも、簡単に返事できない。
「うーん、こんなにひどいのは、初めてだと思う。」
シータが
「ねぇねぇ、さっきぃオイラの身体に魔力が光って入ってきたのも、ギンゴの術なのぉ?」
「俺にも来たぞ、あれで魔方陣壊せたんだ。」
僕はミカエラを見て
「ミカエラの魔力ボール使ったんだ。」
ミカエラが驚いてる。
バリエスが
「ミカエラ様の魔力ボールは普通の人が使うと危険です。」
久しぶりにバリエスの響く声を聞いた。
ミカエラが
「えーっ、でもバリエス毎回1個普通に食べてるのに。」
キロエが
「大食いバリエスだからな。余裕だろ。」
「歴代の主様の中でも、質量ともに申し分ございません。」
そうか。
そういう事か。
「ミカエラの魔力ボール使った直後だから、こんなカケラ程度の石で、あれだけの遺物見ができてしまったのか。」
「ありうるな。一人で使わなくて良かったな。
あの時のヤナギになってたぞ。」
キロエは言いながら、笑ってる。
ああ、これでアシーンナの虚像も消えた。
見たくもない遺物見だったにしろ、アイガートマフ様のいない寂しさから精神を崩壊させていったアシーンナ様の暴走は、共感できないが、何が起きたのかわかった。
僕は少しシータに掴まりながら、立ちあがった。
キロエが
「市長のところに行って、街に寄って、んで帰ろうか。」
飛行の魔方陣に僕たち3人で乗って、ミカエラはバリエスにまたがって後ろについてくる。
シータが
「ねぇねぇミカエラとは、どうやって知り合ったの?」
僕が口ごもってるとキロエが笑って、
「それ、すんげー長い話しになるぞ。」
この戦いでは、キロエもそうだけど、シータの印象は一変した。
「僕はシータの事ヘンな奴だと思ってたけど、市長が言う通り、すごい魔術師だったんだね。」
言いながら謝った。
シータが、ひゃって叫んで、僕に背を向けてしまった。
なんか悪い事言ったのかな。
「ギンゴ、シータ恥ずかしがってるんだよ。
クレイジーに見せてるのは、シータの対人戦略なんだ。」
どういうこと?
「対人戦略?」
「シータは人が思う以上に…」
シータがキロエの口を塞いだ。
「だーっ狂ってる、でいいのぉ!それ以上言わないでっ!」
キロエは真っ赤になってるシータを見て笑ってる。
市長とヤナギが見えてきて、手を振りながら市長はエアなわとびするみたいに何度も飛んでいる。




