アシーンナ1.
僕とキロエがにらみ合ってると、パティナが
「あの聞いてください。
最後まで戦ってくださるのは、とってもありがたい事なんだけど、勝算はあるの?」
今の所は、僕がいかに早く動くかってだけだ。
市長は
「アシーンナ様は生きていない。
だから、虚像が武器を持って切りつけるというのが、ずっと引っかかってます。」
キロエが、
「刃物が動いてるのか。」
パティナが
「ギンゴさんの傷を見て思ったのは、刃物なら切り口が線になってるだろうに、ギザギザしてたの。
やっぱり石なんじゃないかしら。
刃物と違って石なら壊す方法あるから。」
キロエが
「そうだな、火と氷の温度差を使えば、石は、衝撃にもろくなるか。」
市長のほうにパティナが向いて
「それと、ジガー除けのモールフの木が役に立つんじゃないかと思うの。」
市長が
「おお確かに。あの木なら、一度や二度くらいなら切れずにすむ。」
キロエが
「それは、どこにある?」
市長は
「一旦、街に戻りましょう。
ジガー除けのモールフは街の周りの柵に使われている木ですから。
長達にも詳しく報告しなくてはならない。」
どうしたら、誰も傷つかずにすむのかを話し合ってる、みんなを見ていて、一人で行くって言ってしまった僕は、かなり悔いた。
キロエに自己満足と言われても、仕方ない。
興奮して、1の選択肢が無理なら、2でいいって独断するのは、だだっ子みたいだ。
街にもどって、モールフの製材所に連れていってもらった。
ジガーがいなくなっただけで、僕たちはどこでも歓迎してもらえた。
今後は、夜になっても柵の外に出られる。
水蒸気爆発を回避した話しは、長達には報告してたみたいだけど、他の住民には不安がるから、市長はあえて話さないようにしていた。
ずっと黙ってる僕にキロエが
「なんだよ。ギンゴが一番行きたいって言ってたんだから、もっと嬉しそうな顔しろよ。」
僕はキロエの顔が見れなくて
「子供みたいだったなと思って。」
口ごもった。
「オマエの正義感は父親譲りだから、俺は驚きはしないよ。
自分が負えばいいと思う、自己犠牲もさ。」
それもあるんだよ。
知らない事が多すぎる。
僕はキロエが凶悪な犯罪者だって、ずっと聞かされてきた。
父さんと知り合いだったなんて聞いた事もないし、アミグ総括がキロエを捕まえようとしてた事しか知らない。
「僕はキロエの事を全然知らないんだ。」
シータが
「キロエは、昔もこんなだったしぃ、ずっと変わらないけどねぇ。」
市長とパティナが、製材所の人達と一緒に、モールフで防具を作ってくれている。
ヤナギも、防具の組み立てを手伝っている。
キロエは材木置場の適当な木に座って、
「俺の家系は、ずっと時操りって言われて擁護を受けてきたけど、その実情は金庫番だったんだ。
そして聖なる魔女は、言わば金の卵を生むガチョウだ。
一番近くで見ていたからこそ、誰よりもこの状況を変えなくてはならないと代々の時操りは思っていたんだよ。
ザイアムの力が弱まって、俺は銀の者、そして金の者になって、銀の者を統括できるまでになった。
ちょうど、アノ騒動が起きた時期だよ。」
製材所の人が水を持ってきてくれて、お礼を言って水の入ったカップをもらった。
「最大の好機だと思ったさ。
これでザイアムの悪事を世間に晒してやるって。
俺に味方してくれる金の者もいたから、行けると思っちまったんだ、甘いだろ。」
キロエは夕暮れの空を見ている。
「事を起こす前に潰されて、してもいない罪をなすりつけられて、金の称号は剥奪、更迭された。
オマエの父親は最後まで、今でも味方でいてくれてる。」
シータがいつのまにか寝ている。
「だいたい、なんで金の者が二人もいるコルムナの家庭が、あんなに没落しているのか、おかしいと思わないのかよ。
ギンゴの父親は、俺の味方をしたせいで忙しいだけで実入りの薄い仕事をさせられている。
そのせいで、家族と一緒にいる時間すらなくなってるのは、全部俺のせいだ。
頼むから、エルステッドと向き合ってくれ。」
うたたねしてるシータにキロエはリュックからマフラーを出してかけてやっている。
「ギンゴが東京にいる時は、いっその事クーデターを起こして、三国連合をひっくり返してやろうと画策していた。
強そうな仲間を探してた。だからギンゴにも会いにいったんだ。
その裏で、ギンゴがミカエラと出会って、動き始めて、一番慌てたのはザイアム擁護派の金の者達なんだよ。」
そう言いながら、ゲンコツで僕の肩を押した。
「何も知らないコルムナの男の子が、真実を暴こうとしてるって、さ。
俺が一番やりたかった事を、オマエは一人でやってくれたんだ。」
キロエが笑ってる。
「僕が勝手に動いたせいで、ザイアムを殺してしまう事になったんじゃないか。
なんで笑ってられるんだよ。」
気づいたら涙が出ていた。
「俺は学んだんだ。
ザイアムを生かしたままなら、擁護派は諦めないって事を。
しかも奴も、それをわかってるから表には決して出てこない。
だから、あのタイミングでザイアムを殺した事は、後悔してない。
その代り命を奪った事の代償は一生背負っていくつもりだ。」
どっかから出したティッシュを何枚かくれた。
「表に出てこない奴だから、常に金の流れを徹底的に調べてた。
だから普通に調べた位では表れてこない様な、ザイアムの遺産も全て三国連合の国の資産になるようにした。
そしたら、どうよ。
もう犯罪者でもないし、金の者への復職も提示された。
それは性に合わねぇから断ってやった。金とか銀とか、もうどうでもいい。」
ハハハッと笑ってる。
気持ち悪い所が、全部繋がっていく。
「ああ、だから弁護士のヘクター・ベンチュラが、父さんの事言ってたんだ。」
キロエが
「そうそうギンゴの父親には、ヘクター・ベンチュラの弁護士事務所で管理してる会社の財務状況を引きだしの裏まで探ってもらったからな。
顧客情報は秘匿って相当怒ってたらしいから。
会ったんだ、ヘビみたいな奴だよな。」
ヘビか。
体温は低そうな男だったな。
「骨董品みたいって思ったよ。」
キロエが
「骨董品かぁ、それって案外言われて喜ぶと思うよ。」
そう言いながら声を上げて笑った。
たった半年か、そこら前の事なのに、なんて自分は考えなしなんだと思う。
パティナが腕にはめる防具を持ってきてくれた。
「どうしたの?叱られてるの?
できたから、合うかどうか試してみて。」
僕はティッシュで顔をこすりながら、ありがとうと言った。




