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僕は辿る  作者: 沖ノ灯
33/41

ハマるって3.

腕の怪我の手当てをしてもらう間、問いかけても返事がなくて、僕は目を見開いたまま震えていたらしい。

後から聞いたんで、覚えてないんだ。

なんて、役立たず。

あんなに訓練したのに。

城の近くで待機してた市長の孫娘のパティナの所に、シータの術で移動していた。

パティナの知らない間に、シータは魔方陣の金属プレートをパティナの服のポケットに滑り込ませていたんだ。

アシーンナ様の小刀は、僕の左腕を切りつけていた。

それほど深く傷つかなくて済んだのは、僕の様子に気づいたキロエが、いつもみたいに襟首を掴んでくれて、それを見たシータが反応してくれたからだ。

あの大岩に挟まれた時も、無傷だったのに、シールドもミラーも全く役に立たなかった。

それはショックだったけど、

気づいた時、腕は応急処置されてたのに、キロエとシータに挟まれるみたいに抱かれてて、

そっちのがショックって言うか、凹んだ。

心配してくれてるのは、ありがたいなとは思うけどさ。


もう何回目かわからない、

「大丈夫か?ギンゴ?」

って言うキロエにうなづいた。

スボンが濡れてないのが救いだよ、まったく。

しかし、

「シールドもミラーもしてたのに、切られた。」

市長が

「一体どんな術なのか、本当に申し訳ない。」

キロエが

「いや、油断してたコイツが悪いから、それはいいんだ市長。

昔、聞いた事があるんだが、特別な鋳造方法で打たれた刃物には魔力が乗るらしいよ。」

市長が

「金属自体、それほど作れる技術はないんです。

コレと交換に、ずいぶん刃物は地球から買って持ってきたけど。」

そう言うと市長は地面の石を拾った。

シータが

「それ石だよぉ?錬金術みたいだねぇ。」

市長が

「地球では金は希少みたいですが、ここは、ほとんどの石に金が含まれてるんです。」

キロエが

「そうか刃物じゃなくて石かもしれないな。」

市長が思い出したように

「アシーンナ様はアイガートマフ様から、いくつか石を贈られています。

魔力が込められるものかどうかは覚えてませんが。

キロエさん、もし見つけたら壊してください。」

キロエが

「壊す必要あるのか?珍しい石なんだろ。」

市長が

「アシーンナ様の事です。どんな事を仕込んでいるか。

もうアシーンナ様には昔の面影はないのでしょう。」

城の上には黒雲が立ち込めて、ピンポイントに雨が降り始めた。

パティナが

「真っ白な煙が出てきたわ。もしかして、湯気なの?」

キロエが

「そうだな。これで異常な爆発は起こらない。」

市長が

「本当にありがとうございました。」

言い終わって、また飛びあがってる。


でも、僕を攻撃したアシーンナ様の虚像は残ってる。

「アシーンナ様を、あのまま残して行かないよね?」

僕は、みんなに言った。

キロエが

「シールドもミラーも効かないんだ。ギンゴ、切られたんだぞ?」

シータが、

「重なってるパイみたいな魔方陣で気づかなかったんだけど、一個起動してる魔方陣があるんだ。」

びっくりするぐらい大人しい話しかたをした。

「だから、それ壊せば、消えると思う。」

キロエが

「シータ、もういい。もう充分なはずだ。」

僕は切られた腕より、このまま帰るほうがよっぽど辛かった。

「まだ穴は塞がってないんだよね。」

キロエが僕に背を向けたまま、

「ああほとんど大きさは変わってない。でもいつ変化が起きるかは未知数だ。」

アシーンナ様の早い、あの動きがわかっているなら、きっともっと上手くやれるはずなんだ。

「今度は、うまくやれると思うから。」

キロエが振り向いた。

「ギンゴ、オマエの自己満足で、全員が危険に陥る可能性があるの、わかって言ってるのか?」

僕は返事できなかった。それなら、

「じゃ僕一人で行くから。」

キロエに服を掴まれて、

「コノヤロー!本気で言ってんのかっ!」

シータがキロエの腕を、やめてって言いながら、ほどこうとしてる。

「僕一人でも、やれる自信がある。」

首がつまって喋りにくいけど、これは譲れない。

「なんでもかんでも一人ひとり言うなっ!

いつもオマエ一人で切りぬけてきたと思ってんのかよっ!」

違う。

ギリギリの所で、いつも誰か助けてくれる。

「オマエ、本気で死にたいのかよ?

なんで俺が助けてると思ってんだよ?」

「コルムナだから?」

シータが悲しそうに

「コルムナじゃなくてもキロエは助けてるよ。」

キロエが僕の服を離した。

「俺一人で、できない事でも、オマエとならできる気がする。

だから必ず助ける。

死ぬかもしれない状況で、一人で行かせない。」

なんだよ、そのかいかぶり。

この程度の僕に何ができるって言うんだ。

シータが

「キロエはギンゴが次世代のエースだと思ってんだよぉ。」

僕は

「エースなんかじゃない。」

キロエがシータに向かって、

「ほらコイツ、俺の気持ちなんてこれっぽっちも解ってないんだぜ。」

キロエが僕の耳を引っ張ると

「謙虚は美徳だが、単に誉めてるのとは違うんだよ。」

シータが

「キロエ、お願い。一回だけアシーンナにチャレンジさせてよぉ。」

キロエは

「シータ、オマエまで。

軽くて怪我か、悪くすれば、まじで死ぬかもなんだぞ?」

「ねぇギンゴはオイラが守るからぁ。もちろんキロエも守るよぉ。」

キロエは黙ってる。

市長もパティナも何も言わない。

ヤナギは、ずっと大人しいままだ。

しばらくして、キロエはフッて笑った。

「いいよ。ギンゴ、戻ったら俺の下で働いてもらうからな。」

え?

「銀の者だよ、僕は。」

「俺は元は金の者だった。

ザイアム討伐で、今は金の者以上に権限がある。

アミグなんて、一瞬で黙らせてやるからな。」

はぁぁぁぁ?

「いいよ、好きなだけ戦わせてやるよ。

そのかわり、戻って働くんだから、ぜってー死ぬなよ。

貸しだからな。」

なんだよ、貸しって。

シータが嬉しそうに手と足を動かしながら

「キロエと一緒だと楽しいよぉ。

ギンゴも絶対ハマるって。」

いや、ここでの話しと戻ってからの仕事と、関係無いだろ。

ハマってないし、ハマりたくもない。



でもアシーンナは倒したい。

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