あがる2.
1時間くらい飛んだだろうか。
最初に降り立った市長の街と比べると周辺は何も無い。
なだらかな草地が続く中に、所々林がある。
白い石で組み上げられた、美しいフォルムの城が表れた。
高さはそれほど高くない。
城壁と等間隔にならぶ円柱形の砦が波打つドレスの裾のようだ。
馬蹄形の回廊が見える。
市長は手を止めて立ち上がると
「わたしもはじめて見た。
アシーンナ様は、各地の長すら寄せ付けなかった。
狙いを知れば当然の事なのだろうけれど。」
シータが
「その先に何人か固まってるねぇ。」
僕が
「どこ?まだ見えないけど。」
キロエが身体をあちこち伸ばしながら立ち上がった。
「見えてるんじゃなくて、わずかな魔力を感じ取ってるんだ。」
シータは嬉しそうに
「城からは、もっとやっばいニオイがするんだよぉ。」
キロエが市長に
「ここは元々どんな土地だった?」
「上質な石がとれる石切り場だったのだが、城を建てるためにとり尽くしてしまった。」
キロエがシータに
「土地に細工はしてないか?」
シータは両手で、楕円を描くようにして
「ここの場所はふつーになんもない。
えっとねぇ、城は底が深いよぉ。
一ついい事はねぇ、魔力少ないねぇ。」
市長も立ち上がる。
「わたしは人の中や魔力そのものは見えるのだが、城からは魔力の輝きは見えないな。」
市長は魔方陣を操作する孫娘のパティナに、なるべく低く飛べと言った。
僕はキロエに
「シータって魔力感知できるの?すごいじゃん。」
「んー魔力感知って言うと、ギンゴの作ったのの魔術師バージョンみたいだけど、ちょっと違うんだよな。
市長のとも違う。」
シータが近づいてきて
「オイラのはねぇ。発動する可能性のある魔術にぃ限定されちゃうんだよぉ。
ヤバい感じのするのだけって感じぃ。」
便利なんだろうけど、万能ってわけでもなさそうだ。
シータが人が集まってると言う場所と市長が他の街の長と約束していた場所は同じだったようだ。
市長が魔方陣の端に寄って、手を振っている。
地面に着くと市長と同じような風貌の長達が集まってる。
市長は何か挨拶するとぴょんと飛んだ。
続いて長達も飛んでいる。
あれは正式な挨拶だったらしい。
シータが
「たのしそうだねぇ。」
羨ましそうに言った。
市長が各地の長達と話しているとキロエはヤナギから魔方陣の法典をもらって読んでいる。
「見たこともない魔方陣が…ん?」
ヤナギも
「使い方の訳まではしてないので、意味不明のものが多いです。」
市長が振り向いた。
「全員一致です。アシーンナ様の討伐をどうかお願いします。」
長達も例のおじぎをしはじめた。
キロエが
「市長、やめさせてくれ。
それより、この城について詳しく知る者はいないのか?」
市長が話してる。
「討伐が決まったので、兵士達に知らせなくてはなりません。
兵士の隊長がいるので、なんだって?」
長の一人が何か早口で話してる。
「うんん…、どうやらアシーンナ様は各地から来た者に何か歓迎の舞踊を見せるようだ。」
舞踏?もう死んでるのに、どうやって。
「それは毎回変わるらしいが、決して最後まで見てはならない、と。」
キロエが
「この魔方陣の、喜びや悲しみ、横へ足で移動ってのは踊りの手順って訳か。」
市長が
「そうです。アシーンナ様は魔方陣で、そこにいなくても歌や踊りを繰り返し演じられるような全く新しい魔方陣をいくつも作り、それを複雑に組み上げる事をなさっていた。」
僕が
「魔方陣は、その場にいる人の魔力を吸収して発動するんだよね。」
市長とキロエがうなづく。
「だから、僕らみたいに魔力の強い者が行けば。」
キロエが
「とんでもない術が発動してしまう可能性があるな。」
市長が、こちらのやりとりを長達に説明してる。
キロエが何か考えてる。
シータが
「死のダンスだねぇ。ウフゥちょっと見てみたいけどぉ。」
笑ってる。
キロエが
「市長、すばらしい城だけど、壊してもいい?」
市長の口が開いたままになって、僕達に返事する前に長達に伝えた。
いきなり長達は立ち上がり、市長と抱き合っている。
市長は振り返って、いずまいをただすと、
「アシーンナ様の残した物は素晴らしいけれど、この城は我々にとって悲しみの象徴でしかなくなってしまいました。
跡かたもなく壊していただいて結構です。」
市長たちは城に残った兵士達に連絡する手段を相談していた。
そして兵士達が来てくれれば、さらに詳しい城の様子と情報が得られるだろう。
各地の長達とともについてきた連れの者が城に隠れるように移動して兵士に伝えていく。
一人また一人と兵士が集まってきた。
みんな長達から話しを聞くと、うなだれたように納得していた。
城の警護隊長が来たが、市長は、
「どうやらジガーが大量に放たれているようだから、安全な場所に移動しよう。」
僕が
「兵士達も連れていって大丈夫なんですか?」
「どうしてこうなったのか、兵士達にもわかってないようなんだが、取り巻きの連中はすでに城にいない。」
キロエが
「それは、逃げたって事なのか?」
「逃げた形跡はない。それなら兵士も気づくでしょう。」
全員で一番近くの街に着いた。
ものすごく静かで夕方なのに全部の家に明かりはない。
僕が
「市長の街と全く雰囲気が違いますね。」
「ここは一番近いから、特に大勢が城に行っているのです。」
という事は、もう生きていないんだ。
どうして、こんな事できるんだ。
キロエが
「それより、ジガーって一体なんなんだ?」
市長が
「アシーンナ様が魔力回収のために作った獣です。」
孫娘が魔方陣の法典の中からジガーについて書かれているページを開いてみせてくれた。
黒い煙で赤い目が二つ。
そして爪があった。
まさか、
「これってドラキュラに似てるけど、僕らが追いかけている魔物かもしれない。」
キロエが
「ドラキュラは、柵で囲った中で見てるよな。
あれは魔方陣の周囲しか沸かないし、目も爪も無い。
どうやってこんなに広い範囲を動いてるんだ?」
市長は
「詳しい事はアシーンナ様しかわからないのです。
ただ、魔力のある者をみつけたら、どこまでも追いかけていく。」
トニー・ブレッグマンを殺したのはジガーで間違いない。
じゃホテルでジェロームを襲ったのは、なんなんだ?
「ジガーって1種類だけ?」
市長が驚いて
「よくわかりましたね。もう一ついます。
帯のようにジガーが連なったような形ですが目も爪もなく、こちらは弱い。」
僕は、
「地球に、ジガーと帯のようなジガー、両方ともいるんだ。」
市長が
「魔力を追いかけて、あの穴に入ってしまったとすれば…」
キロエが
「どうしたら倒せるんだ?」
市長は
「動きを封じて、目と目の間を狙って打てば倒せます。
昼間は見えるが、夜は無理です。
発動させた魔方陣がどこかにあるはずで、それが動き続けているからジガーが発生し続けています。
元の魔方陣を壊さない限り、全てのジガーは消えません。」
シータが
「フウッ気分が上がってきたぁ。」
僕と逆なのは言うまでもない。




