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僕は辿る  作者: 沖ノ灯
27/41

ここどこ?3.

市長は続けた。

「なぜアイガートマフ様を残して戻ってきたのかと、アシーンナ様に何度も責められた。

魔力を貯めるようにしつらえたものの、わたしでは作動などできない。

もしあのままアイガートマフ様が戻ってこないなら、見知らぬ星でわたし一人生きていく事になる。

そんな選択はできなかった。」

なぜかキロエはアシーンナ様が待ってると言った所で下を向いてしまった。

僕は

「確かアイガートマフ様と同時期にアシーンナ様は産まれ育ってますよね。

まだ生きてるの?」

市長は

「おそらく亡くなられているのだが、取り巻きが死の公表を恐れているのだ。

それもここまで深刻な事態を招いた一因なのだが。」

キロエがようやく口を開いた。

「そのアシーンナ様とやらが、暴走してるのか?」

市長が小刻みに震えている。

「空の穴が塞がり、アイガートマフ様が戻らないまま何年か経って、突然アシーンナ様は遷都をされた。

それまで、この地が首都だったのが、さらに西の地に土地を開いて城をおつくりになられた。」

僕たちより小さな市長がさらに小さくなったように見えた。

「わたしはホッとした。

だが、それは恐怖の時代のはじまりに過ぎなかったのだ。

人手不足を理由に各地の街から優秀な者を集め、首都であるアシーンナ様の元に使わせるようにと言われた。」

僕は

「軍隊を作って、ここを襲撃するつもりとか?」

市長は小さな子供のように首をふった。

「欲しいものがあるのなら、いくらでもアシーンナ様にお渡ししよう。

だが、欲しがっているのは、まぎれもなく人であったのだ。」

市長は頭を抱えた。

キロエが

「まさか、食ってるのか?」

市長はワナワナと震えている。

「わたしは、そんな噂は信じなかった。

いくらアシーンナ様とて、民を犠牲になさるような事はしないと信じていたのだ。

何回か優秀な者を選抜し見送り、便りがないのも忙しいのだと思いこんでいた。

いや、思いこもうと見てみぬふりをしていたのだ。

わたしの大切な息子を送るまではっ。」

泣き声って、種族が違ったとしても変わらないんだと思った。

突然、部屋の外から市長に駆け寄る小さな姿があった。

「おじいちゃんは悪くないの!悪いのは、悪いのは。」

二人は抱き合って泣いている。

「わたしはおまえから父親をおまえのお母さんから夫を奪ってしまった。

ラクトは、何一つ疑わなかった。

笑顔で旅立ってしまった。」

キロエはリュックから出したペットボトルの水を飲んでいた。

自分のを戻すと新しい水を出して、立ち上がると

「ヤナギが目覚めた。一緒に来い。」

と、僕に言った。

確かに市長と孫娘の泣いてる姿は見ていられない。




キロエが言ったとおり、ベッドの上でヤナギが上半身を起こしていた。

渡されたペットボトルを自分で開けて飲んでいる。

「俺はキロエだ。よろしくな。」

ヤナギは少しボーッとしながら頭を下げて挨拶してる。

そして血が渇いたようになってる自分の手を見た。

僕を見て

「あれは動いたのか?どうなったんだ?」

僕は呆れながら説明した。

ヤナギはベッドの上であぐらをかいて僕の話しを聞いていたが、両手で顔を覆って

「なんて愚かな事をしてしまったんだろう。」

ヤナギには騙されているから、この悔やんでる姿も僕の心には届かない。

キロエは壁にもたれかかりながら目を閉じている。

興味のない事には全く反応をしない。

ヤナギが見えてないみたいだ。


その時、リュックからガッガッと音がした。

キロエは

「あー忘れてたわ。」

と言いながらリュックの中からトランシーバーを取りだした。

チューナーを合わせていると、ドゥーナンの声が聞こえた。

『こちらドゥーナンこちらドゥーナン聞こえますう?どぞ。』

「こちらキロエ聞こえるよ。穴に入るなよ。どうぞ。」

『キロエ様どこにいるの?まさか穴から落ちたのですか?どぞ。』

「生きてるから心配しなくていいよ、ドゥーナン。どうぞ。」

『ギンゴ君、お父様心配してたわ。キロエ、ギンゴを頼む、ですって。どぞ。』

恥ずかしすぎて隠れたい。

キロエが頭を抱えてる。

「ドゥーナン。ありがとう。できるだけ早く戻るから。どうぞ。」

『ンフフフッ応援はいるの?どぞ。』

「暇そうならシータ呼んでくれますか?どうぞ。」

『了解。通信終わる。どぞどぞ。』

キロエがため息をついた。


僕は

「シータって誰?」

キロエは

「ドゥーナンあぁもう。約束したのにぃ。」

何か悶えてる。

父さんがキロエに何を頼むっていうんだ。

安全?死なないように?小学生かよ。

僕は何ひとつ聞いてない。

大人ってほんと嫌だ。

僕は聞こえないフリをして

「アシーンナ様の所いくよね。」

キロエは僕の服を掴むと、

「あぁ行くよ。わかったよ。

頼まれてたのも、もうどうでもいいよ。」

僕は掴まれた服を伸ばした。

「それで、シータって誰か教えてよ。」

キロエは

「会ってるよ。

東京のボロボロの倉庫の上、覚えてるだろ?」

倉庫の上ではキロエと対峙していた。

「だって、いたじゃん。」

キロエは楽しそうに微笑んでる。

「似てんだよ。

多少の擬態もできるけどな。

ラーメン屋の隣の席で食ってたのは、俺。

イタリアの時も、俺。

倉庫の時はアミグに殺されるかと思ったから仕組ませてもらったんだ。

はなからマトモに戦うつもりなんて、これっぽっちもなかったんだけど。

倉庫の上で会っていたのは、くるぞ。」

僕はとっさに身構えた。

何か来るっ!

残像のように見えた影が一人の男の形になった。

「アッハーキロエ様呼んだぁ?」

なぜかモデルみたいなポーズをとってる。

呼んで、すぐくるって、毎回驚かされる。

キロエに背格好は似てるけど、背筋がゾクゾクする感じで思い出した。

そっちのゾクゾクじゃなくて、まっいいや。

確かに倉庫の上で会ったのは、こっちだ。


「自己紹介くらいしろよ。シータ。」

「ワァ、ギンゴだぁ。久しぶり元気ぃ?

なんかおっきくなってるねぇ。」

僕は適当に挨拶した。

キロエが僕に近づくシータを手で押さえてる。

「こいつ、ギンゴがど真ん中の好みなんだよ。

シータに後ろ取られるなよ。」

キロエがシシッて笑った。

どう見ても女の子には見えないんだけど。

僕が見ていたからか、シータは

「オイラ、男だよ。

見せて欲しいならいつでもいいよぉ。」

言いながら舌で唇を舐めてる。

いやいや見たくない。

それに後ろを取られるなって言われても。

キロエが

「ほらっギンゴ困ってるだろ。

こいつは俺と同じで女性しかムラムラしないって。

呼んだのは、ギンゴと会わせるためじゃなく、パーティのためだ。」

シータは軽く飛んだ。

「ひゃあパーティだ。殺していいの?」

「いいよ。でも人じゃねぇし、本体は死んでると思う。」

シータは目がギラギラしてる。

「何それ超おもしろそうじゃん。

早く行こうよ。」

キロエが僕に向かって

「とんでもない相手だと思うけど、行きたいんだろ?」

「最終確認って言うなら、そうだ。」

キロエは少し目線をそらして

「だが、まじでやばい時は、逃げるからな。

今の所は信用してるが、あれが全部嘘って可能性はあるからな。

それと穴に変化がある時も同じだ。

シータの力を使わなくて済む事を祈るよ。」

そのシータはキロエの肩に手をかけて、舌を出してみてる。

犬みたいなやつだ。

しかもちょっと狂ってる。

「それと俺はタダで使われるってのが一番嫌いだ。

おまえの純粋な気持ちから外れるが、交換条件は出させてもらう。」

僕は、わかったと言った。

キロエはヤナギを僕の肩越しに見ると、

「アンタどうする?」

ヤナギは素早く立ち上がって

「お手伝いします。」

キロエは

「悪いけど守ってやるつもりはないから、やばいと思ったら逃げろよ。」

それを見ている僕にシータは

「ギンゴは別ぅ。オイラ死んでも守るから。」

なんかヘンな汗が出る。

喜んでいいのかな。

シータに近づくと犬みたいに舐められそうだ。

じゃ行くかとキロエが言って、市長がいた部屋に向かった。

廊下を歩きながらシータが周りを見回して

「ねぇねぇここどこ?

新しいテーマパークなのぉ?

よくできてるねぇ。」

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