ここどこ?2.
兵士達の短い槍で突かれながら、キロエと僕とヤナギは檻に入れられた。
手で動かしても根元が動くくらいの弱い作りの檻で、やろうと思えば簡単に壊して逃げられる。
乗り心地の悪い荷台の上の低い檻で、座るしかできない。
「こんな扱いしなくていいのに。」
と僕が言うと
「歩く手間が省けていいじゃんか。」
キロエは目を閉じている。
住民は人間にすごく似てる。
ただ小指は短くない。
楽器は僕達人間より、上手いだろうなと思ってみてた。
それと耳が見当たらない。
髪の毛に隠れてるのかな。
簡単な作りの小屋だったのが、しっかり作られた家になり、石で造られた広い敷地の邸宅が並ぶようになっていった。
結局、どこもこういう差が生じてしまうんだろうな。
邸宅の一つに連れていかれて、広くて手入れされた庭で、檻を乗せた荷車は止まった。
開かれて、兵士が槍の柄のほうを地面に落して鳴らしてる。
「出ろって事だよね。」
ヤナギを引きずりだすのを手伝いながら、外に出ると、シワシワの顔の住民が一人近づいてくる。
「コンバンワ、コンバンワ。」
言葉が通じる?
「アー、ゲンキデス。ゲンキデス。」
キロエが
「確かに元気そうだな。」
つぶやいた。
僕が
「挨拶してるんだよ。こんばんわ。」
シワシワ住民はぴょんぴょんと何度が飛びあがった。
「アーコンバンワ、ワタシゲンキ!」
喜んでるっぽい。
僕はキロエを触って
「元気。」
自分を触り
「元気。」
ヤナギに触れて
「元気じゃない。」
シワシワ住民は
「アーワカッタ。」
兵士に何か話してる。
二人の兵士が近づいてきて、ヤナギの肩と足を持ってくれた。
シワシワ住民が
「ツイテキテ、ツイテキテ。」
僕は楽しくなってきたけど、キロエは不機嫌な顔してる。
いつも笑ってるわけでもないんだな。
ヤナギは静かな部屋の清潔そうなベッドに寝かされた。
シワシワ住民が
「ココ、シズカ。」
僕はキロエに
「寝かせておくだけでいいのかな。」
うなづいてる。
「ワレワレ、ハナス。」
シワシワ住民が
「ツイテキテ、ツイテキテ。」
僕が後ろについていくと、キロエはヤナギをめんどうそうに見ていたのに部屋を見回していて、しばらくしてついてきた。
連れていかれた部屋は豪華な作りだった。
美しい装飾や色をつけた家具が置かれ、壁には彫刻が掛けられている。
テーブルに色とりどりの食べ物が並んでる。
僕が感嘆の声をあげるとキロエが腕を引っ張った。
さっきから顔が、やけに怖い。
「絶対、この星の食べ物、口に入れるんじゃないぞ。」
「え、こんなに美味しそうなのに。」
キロエはリュックの中から、完全栄養食品のクッキーを一個だすと僕に投げた。
「腹減ったなら、これ食ってろ。
水ならまだあるから、飲み物も飲むんじゃねぇ。」
親切にしてくれてるのに、僕はムッとした。
シワシワ住民は、そのやりとりを見ていて
「さすがに、地球人は賢い。
それなら、わざわざここに連れてきた理由もご存じですかな。」
流暢に話した。
僕が驚いていると、シワシワ住民は誰か呼んだ。
何人かの住民が、テーブルの上の食べ物を持ち運んでいき、広いテーブルも運んでいった。
キロエがシワシワ住民を睨みつけながら
「ヤナギに何かしようと企んでいるなら、やめたほうがいい。
頼まれても受けるかどうかは、聞いてからだ。
戻れないから、ここにいるんじゃない。」
シワシワ住民は
「それなら、なぜ戻らなかった?」
僕が
「畑にいたら、小さな子供がジガーが来ると教えてくれました。
僕達が襲われないようにしてくれたんだ。
善い心があるから、檻に入られても来たんです、だよね?」
キロエは
「どんな獣だろうと、たとえ一人だとしても全滅できるだろうがな。」
リュックを床に降ろして、椅子にすわると、
「こちらは、敬意を払ってる。
後は、そちらの出方次第だ。」
シワシワ住民はキロエと向かい合わせで、椅子に座った。
シワシワ住民は椅子の肘かけの部分に手を置き、
「それでは、せめて話しだけでも聞いてくれるか。
どこから話していけばいいか。
わたしはこの町の市長です。
全ての発端は、長生きできる者と、そうでない者がいる事から始まる。
そしてあなたがたが使えるように、わたしたちも魔法を使う。」
キロエは
「それはわかってる。
畑にいた時に、意識を失ってる仲間を魔法で持ちあげても、ここの住民は驚きもしなかった。」
市長はうなづいた。
「わたしが長生きできる者として産まれ、まだ幼かった頃は、あなたがたのような使い手が、それは大勢いた。」
キロエは僕を見て、市長を見た。
「ふむ市長は人を見ただけで、どれくらいの魔法使いなのかわかるのか。」
「わたしは大して魔法は使えない。
が、魔力が見えてしまうのですよ。
そちらの若者も、あなたも、怖ろしいほどの魔術師だ。
だが、あちらで寝ている男は、大した事はない。
しかもひどく弱っている。
あなたが出している糸も見えるが、何してるのかなんて問い詰めはしない。」
キロエが、ばつが悪そうに手を動かしている。
「このわたしが、見えてしまう者がいた事が、今思うと不幸の始まりだったのだ。」
市長は話しながら、肩を落としていく。
「さっしは付くだろうが、この世界は長生きできる者が治めていく、暗黙の決まりがある。
つまり魔力の強い者で長生きできる者こそ、みなの尊敬を集めるのだ。」
という事は、あれはここの人が作ったものなのか?
「わたしが産まれる前から、アイガートマフ様がこの地を治めていた。
人格者であり、博識で、魔力だけに頼らなければ生きていけない世界にならないようにと、それは民衆の支えになるような方だった。
同じころ現れたのが、アシーンナ様で、気性が荒い女性であったが、なぜかアイガートマフ様とは深い愛情で結ばれていた。
そして、わたしが幼い頃に、空に向かって登って行く光を見てしまった。」
僕が
「それって魔力?」
「そのとおり。長命の者は少ないので、アイガートマフ様とも近しくできた。
わたしは後先考えず、自分が見た事を、得意げに話してしまった。」
最初の頃は、その事実も特に何かを意味するものではなかった。
しかし何十年か経つうちに、この地の人達にとって思いもしない形で、それは表れていく。
「魔術の使い手で、素晴らしい輝きを見せる者が少なくなっていった。
長年アイガートマフ様の下で働いていた人が亡くなる時に立ち会って、またも見てしまった。
亡くなった後に、身体から魔力が帯のように連なって、空のほうに登っていくのを。」
当然、空に何があるのか調べる事になった。
「空を浮遊できる魔方陣でアイガートマフ様とわたしは魔力の行き先を追った。
それがあの空に開いた穴だった。」
キロエが
「それじゃ元々そこに溜まっていたのか?」
「岩の中に魔力の光は入っていくので、それを追うように上へ上へと掘っていくと、外に出た途端、もう魔力の行き先はわからなかったのだ。
それで仕方なく、溜めておくように入れ物を作ったまでだ。」
キロエが
「ひとまず溜めて、戻す方法を探していたって事か。」
市長はそのつもりだった、と答えた。
僕は
「もしかして、ここで方法を探すのじゃなく、僕たちの地球で探したの?
だから言葉が喋れるの?」
市長はうなづいた。
「こちらより文明が進んでいるのは、火を見るより明らかだった。
そして、わたしが魔力を持つ者が見えて、地球に住む者と姿、形が似ていたから紛れて方法を探ったのだ。
だが魔力を意図して盗むような者はいなかったし、魔力の無い者を魔術師にする方法など、いくら探してもなかった。」
ただし、行き来できないと、方法が見つかった時に困る。
「それでアイガートマフ様は、溜まった魔力で、地球とわたしたちのアイガー星とを繋ぐ術を作っておいたのだ。」
すごい人だ。
キロエが
「わからないな。起動できるスイッチ、なんで地球側に仕掛けた?
こっちに作らなきゃ意味ないだろう?」
市長は
「アイガートマフ様は地球で消息を絶ってしまったのだよ。
穴が見る間に小さくなっていくのに、いつまで待っても戻ってこないから、わたしは一足先に浮遊の魔方陣をを使い戻ったのだ。
もしあの方が戻りたいと思うなら、いつでも戻ってこれるはずだから。」
キロエは
「生きてると思うか?そのアイガートマフ様は。」
「わたしは何十年も待って、もう余命いくばくもない年寄りになった。
わたしが死ぬくらいの年齢なのだ。もうお隠れになってしまっただろう。」
僕とキロエはため息ついた。
「んで、俺達に何しろって言うんだよ?
魔力を戻せなんて頼まれても無理だぜ?」
「アイガートマフ様が生きていると、いつか戻ってくると思って待ってるお方がいるのだ。
アシーンナ様は今も待ち続けている。」




