遺産3.
ポツポツと小石が岩に当たる音がする。
時々、砂がサラサラと流れ落ちる。
目を開けたつもりだけど、真っ暗すぎて閉じているのと変わらない。
何重にもかけておいたシールドがあって、じかに岩に触ってる感触はない。
息はできるけど、手も足もびっしり岩で覆われていて、動かす事ができない。
「ヤナギ?」
近くにいないのか、気配もない。
さっき岩場の中で魔力を回復したから、当分シールドは持つだろうけど、こんな所に埋もれてしまって。
どれくらい気を失ってたろう。
時間の感覚もない。
柵の外のみんなはどうしたろう。
死ぬかも、じゃなく、限りなく死に近づいてる感じがした。
ヤナギが触った、あの半円の部分って何だったんだろうな。
死ぬ前に誰か教えてくれよ。
自分の呼吸が、まるで死のカウントダウンみたいに聞こえた。
ん?
『…んな………もちあげ……』
声がする。
まだまだ遠い。
もう一人いるみたいだけど低くて聞こえない。
救助の人か?
それなら僕の名前を呼んでくれるよな。
でも、黙ったままだと、発見されない。
「す、すいませーん。誰か助けてー。」
あんまり口も開けない。
狭い中で大声出して、自分の声で耳を塞ぎたくなる。
声が止まった。
空耳だったのかも。
僕は一人、笑った。
息をしてるくらいは平気だけど、笑うと腹が岩に当たる。
落石で頭を打って狂ってるのかもしれない。
涙が出た。
袖口で涙を拭く事すらできない。
この感情の起伏の激しさって、やばいな。
はぁーってため息ついた。
と、足音が近づいてきた。
『こっちだったよな。』
すごく近くで声がした。
男だ。
「ここです。岩の中に閉じ込められてます。助けてください。」
声が震えた。
『ちょっと待ってろよ。
お願いドゥーナン。』
『冗談でしょう?ただの岩なら、いくらでもくり抜くけど、中に人がいるのよ?』
何かのスイッチを入れる音が振動と一緒に伝わってきた。
『これだけ明るいなら大丈夫だよ。
見ろよ。
この落石の中で生きてるって奇跡だぜ?』
女性のほうが、ただこねるみたいにウーンと言ってる。
『岩は固いのよ?人間は柔らかいのよ?』
『そうだな。』
『プチッてなったらどうするの?』
それじゃ虫じゃないか、僕は人間だ。
『少しずつ削れば行けるって。』
うん、お願いします。
『プチッてなって足取れてたら、イヤーッ!』
想像しなくていいから。
『おいおい。俺からも頼むよ。助けてやってよ。』
『じゃ報酬は三倍もらうわ。』
やけに冷静だな。
『お、おぅ、払うって。』
「お願いします。助けて。」
最初の報酬いくらだったんだろう。
少しの沈黙の後、ブーンと音がした。
岩を動かす音が何度もする。
そんなに埋もれていたのか。
しばらくして右手が軽くなった。
「イヤーッ!手があるぅー」
「そりゃあるだろ。怪我してないか?」
僕は
「多分、動かしてみないとわからないけど、今のとこ、どこも痛くない。
ありがとう。」
「大体の場所はわかったから、もう少し我慢してくれ。」
ブーンと音を立てながら、見事に岩がえぐり取られていく。
頭の横が切り取られて、女性のヒールのあるブーツのつま先が見えた。
しばらくして背中が半分外に出た。
さっきまでの事を考えると、信じられないほどの状況だ。
「この岩の中で、よく押しつぶされないでいたな。
ここに住んでるってわけは無いだろ?
同業者みたいだけど、どちら様ですか。」
男のほうが、しゃがんで僕の顔をのぞきこんだ。
「シールドを何重にもかけたので。」
身体をよじって男を見上げた。
「うわっ!!!」
でかいゴーグルしてても、一目でわかる。
「何してんだよっ!キロエッ!」
うっわまた、まただよ。
キロエは手袋はめた手を口に当てると、思いっきり吹いた。
「プーーーッ、こいつギンゴだっ!ギンゴが岩に埋まってるっ!」
ワハハハハハッて笑って、そのまま後ろにひっくり返って笑ってる。
「何がおかしいんですの?手元狂いそう。」
狂わないで、お願いだから僕の左足を助けてください。
笑ってたキロエが立ち上がると、魔法で足の上の大岩を動かしてくれて、僕は外に出れた。
笑われた事と、これは別。何度か二人にお礼を言った。
「もう一人いるんだけど、お願いします。助けてやってください。」
頼んだ。
「あたりまえだろ。助ける。」
たまにキロエの言葉で泣きそうになる。
ヘルメットにゴーグル、防水の繋ぎを着たキロエと対照的に、黒のワンピースに編み上げブーツのドゥーナンは、あんまり納得していない。
「ね?ドゥーナン一人も二人も同じだろ?ドゥーナンなら、できる。ほら、やろう。」
「キロエ様、こういうの過重労働と言うのよ?
わたくしは、岩を掘り進めるだけに呼ばれてきたのです。」
「大丈夫だって、多少切れても治るから。」
いや、そこはできれば無傷で。
「キロエ様、あんまり思い出したくないけど来週、誕生日なの。
わたし綺麗な石、集めてるの、ご存じよね。」
「さ、探してみるよ。」
自分がかけたシールドの感覚でヤナギの大体の位置はわかる。
僕より、かなり天井に近い。
これ以上崩れてこないように、岩をキロエと一緒に取り除く。
ドゥーナンは離れていても、まるで発砲スチロールを切り取るように岩を削って行く。
ヤナギが見えてきた。
時々、ドゥーナンは
「ヤダァ、服ちぎれてます。血出てないよね?」
こっちがひやっとする事を平気で言った。
僕と違って上にいるんで、身体の大半が出た所で、魔力で岩から引きずり出して、開けた場所に降ろした。
キロエが
「なんか、コイツ発光してないか?」
ヤナギは息はあるけど意識がない。
僕が近づいて、揺り動かそうとすると
「ちょいまて、触んな。なんかすげー嫌な感じする。」
服のえり首を掴まれた。
キロエに
「そういや今、何時かわかる?」
「腹減ったのか?そろそろ昼だな。」
扉に飛びこんで1時間も経ってないのか。
僕はヤナギを観察しながら、キロエに煙から殺人、ここに至るまで、かいつまんで話した。
最初は大人しく聞いていたのに、扉にヤナギが入って行った所に差し掛かると、
「え?お前達、あの中走ってきたのか?」
ドゥーナンが少しのけぞるようにして、目を丸くしてる。
またキロエが笑いだした。
「ウハハハハハッ、こいつら、まじで狂ってるわ。アハハハハハハッ」
スゲーって言いながら、また笑って、
「やばい笑いすぎて、頭クラックラッする。」
ドゥーナンが
「コルムナの男の子が、なんで笑われてるのか困ってるわよ。」
ああ、そうだなとキロエは
「おまえ達が追いかけてた煙は、ドラキュラって言われてるモノなんだよ。」
「ドラキュラ?血を吸う?」
「ザイアムの周りにいた人間なら知ってるんだが、血を吸うんじゃなく、魔力を吸うから魔術を使えなくするドラキュラだな。」
特定の場を魔術師から守るために、魔方陣で呼びだすタイプの使い魔らしい。
「ふつーは、こんくらいのちっさいのしか呼びだせない。」
そう言うと親指と人差し指で丸を作った。
「それでも効果バツグンだから魔術師はふつーは近づかないのに。
あんなデカイのが、ウジャウジャわいた所を、しかも生きてる。クククッ」
肩を震わせて、ギャハハハッて、また笑った。
どうせ僕はふつーの奴じゃないさ。
ちょっと落ち着いたキロエがドゥーナンに
「ドゥーナン、ご亭主に定時連絡だ。ついでにギンゴの事も話して連絡してもらってくれ。」
「お仕事は、それで終わりですの?
外に出て連絡したら帰ってもよろしいの?」
「あー、連絡したら戻ってきて。ここ電波届かないから。」
「じゃランチ頂いてきますわ。
では、失礼致しますわね。」
そう言うとドゥーナンは、暗い通路を懐中電灯で照らしながら岩場とは思えない足取りで戻って行く。
キロエが後ろ姿を見ながら、
「どんな岩でも、くり抜いていけるんだ。スゲーだろ彼女。」
「さっきまで、ほんとに死ぬかもと思ってた。ドゥーナンさんのお陰です。」
「ミセスだよ。彼女の夫は金の者だから。
ちょっと借りたんだ。ここに来たかったからな。」




