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僕は辿る  作者: 沖ノ灯
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遺産2.

ヤナギは全速力で、どこかに向かっていく。

「ヤナギ待てっ!」

グスタボの言ってた2-300メートル内側に、もう到達する。

訓練したとおり、離れていても照準を合わせて、ヤナギをシールドで覆う。

自分も覆って、指輪の部分だけ残した。

これでシールドで覆いつつ、術も発動できる。

煙がヤナギに反応してモヤモヤ動きはじめた。

徐々に周りが濃くなっていく。

ヤナギは走りながら、術を発動するように手を動かしていた。

自分の周りに結界か?

守るだけで抜けていけると思ってるのか?

案の定、ヤナギの走る速度が落ちて、何か叫んでる。

この煙の弱点はなんだ。

まだ僕の所に煙はこない。

よし、この位置から

「バースト!」

炎を試した。

そこだけ丸く穴は開くが、効いてない。

周りに木が生えてるんだから、燃え移ったら自分の首を絞めかねない。

次、つぎっ!

「フリーズ!」

イイ感じに固まりになって落ちたが、地面に落ちて割れると煙が立ち上る。

くそっ。

氷がダメなら水も意味ない。

風で吹き飛ばせないか?

発動まで時間がかかる。外にいるのに煙がこっちに向かってきてる。

「うぅートルネイドォォ」

魔力を帯びてれば、巻かれてくれる。

だけど、ずっと巻き続けのは無理だ。

こっちの魔力が底をつけば終わり。

僕が煙を竜巻にしたら、またヤナギは走りだした。

「ヤナギ、行くなっ!」

くそぉ死にたいのか。

竜巻で濃くなった煙を見ていて、これを空間ごと包めないか?と思った。

シールドで覆った。

竜巻に勝てない。

魔力同士だから、相殺しあう。それなら、

「ミラー!」

直径1メートルくらいの煙玉ができた。

やったぁ!これなら行ける。

これでしばらくの時間稼ぎになる。

竜巻で煙を集めながら、ミラーで玉にする。

走りながら、トルネードで集めて、徐々に濃く、濃く、そしてミラー。

それでもキリが無かった。

ヤナギと僕めがけて、次から次へと集まってくる。

ヤナギの前方を見ると大きな岩場が見えた。

そこに向かってるのか?

後ろを振り返ると、岩場と門のちょうど真ん中にいる。

ヤナギはスピードを落とさず走っていく。

僕の後ろにも煙が来て囲まれてる。もう戻れない、進むしかない。

泣きたくなった。

なんで行くんだ?

気がつくと手に細かい傷ができて血がにじんでいた。

竜巻で操れていると思っていたけど、自分の周りに薄く漂う煙まで巻きとれていないんだ。

続けざまの発動と、傷で手がしびれてきた。

ここで倒れたら、ヤナギも僕も危ない。

それだけは、なんとか踏ん張らないと。

岩場に着いたヤナギが岩に沿って移動してる。

走るのに魔力を費やす余裕が無いから、さすがに息があがってきた。

ヤナギが岩場の影に隠れて見えない。

僕も岩場に着いた。

後ろから来てる煙を巻きながらミラーで包んだ。

その時、

「ギンゴ、こっちだっ!」

ヤナギが呼んだ。

赤く錆びた扉を開いて、その隙間から僕を呼んでる。

最後のミラーで包みこんで僕も扉の中に飛び込んだ。



呼吸を整えながら、ヤナギを見ると、僕以上に傷だらけだ。

「止まれって聞こえなかったのか?

ったく、死にたいのかよっ!」

ヤナギも息を弾ませながら、

「なんとしても手に入れなくてはならないからさ。」

はぁ?

「コルムナなら、やってくれる。そうだろう?」

うっすら笑ってやがる。

こいつ、本心から謝ってなかったか。

「現に、ここに入る事ができた。望みの半分まで到達した。」

僕は、しびれていた手が元に戻りつつあるのを感じた。

ここって一体。

息をする度に、魔力が回復していく。

この感じ、家で結界部屋から出た後に、看護婦さんに魔力回復のミストをしてもらってたのと似てる。

「ヤナギは、この場が何か知ってるのか?」

笑ってる。

「詳しくは知らないさ。でも誰も近づけない場所というのは、大抵、宝があるものさ。」

宝があるなら、ザイアムが放っておくはずないと思うんだけどな。

岩場はまるっぽくて、今いるトンネルもアールがついている。

ケヴィン・グレイが、この岩場を掘ったのか。

ヤナギの顔から笑いが消えて、後ずさって行く。

「何するつもりだ?」

「確かめるのさ。ここに隠された何かを。」

僕が詰め寄ると、

「ギンゴ、おまえは嫌いじゃない。

ソルデアの言う通り、バカだけど悪い奴じゃない。

だから殺したくはない。

俺に、これ以上近づくなっ!」

僕がミラーを発動する前に、両腕が固まって、勝手に手を握ってしまった。

「うわっ何するんだっ!」

ヤナギは冷酷な顔で

「腕を結界で押さえこんだ。

もう魔力を使う事はできない。

全身を押さえる事もできる。

それをすれば、おまえは死ぬ。」

僕がうなると、

「何でも持ってるコルムナにはわからないさ。

結界は刑務所で使われる術で、死刑執行だけに使われる特殊なものだ。

人を生かすためじゃない。

殺すために生きてきた、わかるか?この苦しさが。」

そう言うと歩きだした。

腕は動かないが、足は大丈夫だ、なら。

ヤナギが振り返って手を動かした。

僕は両足首が固まって、肩から転んだ。

「そこで転がって、俺が何を手にするか見てろ。」

「ヤナギィィィ!」

ヤナギが見えなくなって、僕はしゃくとり虫みたいに肩と膝で前進した。

見えた。ヤナギは真ん中のほうの壁を見てる。

「何があるか、わからないんだぞ?

どんなに危険なのか、リスクありすぎだよっ!」

ヤナギは、こっちを見る事なく、手を壁に当てた。

待つまでもなく、低い振動が始まった。

鼓膜が震えて、気持ち悪い。

ヤナギが頭を押さえて、しゃがみこんだ。

手は壁に当てたままだ。

「ヤナギ、やめろっ!手離せっ!」

ヤナギは何か叫んでる。

次の瞬間、岩が割れるようなピシッと言う音が何度もして地面がさらに揺れた。

僕の腕と足の結界が解けた。

ヤナギが地面に倒れこんでいる。

全体が揺れて、まともに歩けなくて、壁に手をつき、ヤナギに向かって歩き出した。

ヤナギの近くにきて壁を見ると、半円にくりぬかれた岩に見た事の無い文字が光り、ヤナギが手を当てていた場所が血に濡れて赤くなっていた。

キィーンと音が高まって、僕とヤナギのいる場所の足元の岩に、細かい亀裂が入った。

ヤナギは倒れたまま、気のせいか薄く光って見えた。

亀裂が広がって、揺れと一緒に足元がグズグスになっていく。

崩れるっ!今さら外には逃げられない。

僕は両手で急いで何度も何度もシールドをヤナギと僕にかけ続けた。

足元が轟音を立てて崩れて、僕は岩とともに落ちた。

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