遺産1.
魔力を持った住民に対しての注意喚起は、ひとまず終わった。
コリンとモーガンはホテルに留まった。
ボスとビード、ジョージア、ヤナギ、ソルデアと僕の6人で車二台に分かれて、柵に向かった。
グスタボが少し遅れて機材と一緒に到着するはずだ。
GPSの画像で見えた通りに、幹線道路からわずかに道が伸びている。
しばらく進んでいくと、木々の間からも異常に高い柵が見えてきた。
軽く3メートルはある。
運転してるビードが
「これが、ぐるりと10キロ囲ってあるんだよな。」
僕は返事しながら、そこまで守らなければならない、大事なモノでもあるのかと思ってた。
でも、それと"とびきりの場所"が結びつかない。
柵の周りは、ちょうど車一台が走れるくらいは木が刈り取ってあった。
ジョージナが車から降りて、柵の辺りの地面を見ている。
「このタイヤ痕、まだ新しい。」
そう言いながら大きさ確認のための定規を置いてカメラで撮っている。
他のみんなは入口を探して別方向に歩いていった。
ジョージナ一人にはできないので、やる事を見てると、
「ね、ギンゴ。ソルデアってヤナギと付き合ってるの?」
へ?
「初めて聞いた。そうなの?」
ジョージナはカメラから顔を僕に向けて、
「あら、嫉妬するかと思ったのに、案外冷静ね。」
僕とソルデアを恋人か何かと思っていたのか?
「ソルデアとは友達だから、誰と付き合おうと嫉妬はしない。」
ジョージナは目を細めて
「ふぅーん、つまらない。」
つくづくジョージナの考えてる事は掴めない。
だいたい、ちょっとの事でキレて、さらに蹴ってくるような女性と付き合おうって思うか?
僕の中でソルデアは、触るな危険要注意と壊れ物注意が混在してる。
でも嫌いじゃない。時々すごく羨ましい。
ジョージナが
「最近、ちっともわたしと話してくれないのよね、ソルデア。」
みんなの方に二人で歩きだした。
「それでヤナギと付き合ってるって?」
ジョージナは立ち止まると
「その程度で、安易な憶測はしないわ。
わたし夜遅くホテルの書庫に行くんだけど、そこから駐車場がよく見えるのよ。
大抵、二人で車にいるのよね。」
それを見てるジョージナもどうかと思うけど。
彼女と話してて、いつも思う。
ジョージナって僕に何して欲しいんだろう。
「ソルデアに、ジョージナが淋しがってるって伝えればいいの?」
「え?やだ。そんな事ソルデアに望んでないわよ。
わたしだって分別はある。」
そう言うと足早にみんなに合流した。
わけわかんないや。
分度器で言えば35度くらい歩いて、入り口らしい部分に来た。
ボスが後から来るグスタボに位置を連絡してる。
ヤナギとソルデアが扉の構造を見ていた。
僕がビードの横で、二人を見てると振り返ったソルデアが
「何ボサッと見てんだよ、ギンゴ早く。」
なんでございましょう。
ソルデアから紙を見せられた。
アミグ総括から届いた書簡で、扉の解錠の仕方と書いてある。
「何これ。んー全て魔力で行う事。直接、手を触れてはならないって。」
ヤナギが
「このバラバラのパーツを動かして、生命の木のレリーフを完成させれば鍵が開く。」
僕が
「時間制限はないんだよね。」
ソルデアが僕を睨んで
「楽勝って?むかつく。」
全部で15個しかパーツはないんだから、両手でやれば。
「ほらできた。」
簡単だ。扉の内部で音がしてる。
ソルデアの無表情をよそに後ろでみんなが、おぉーと声を上げた。
細く扉が勝手に開いた。
指一本くらい開いた扉の間から流れ込んでくる空気がやけに重い。
「ちょっと、みんな離れたほうがいいかも。」
ヤナギがソルデアを引っ張りながら、
「ヤバイ、離れろ、みんなっ!」
僕は急いで扉を閉めた。
さっき動かしたレリーフが、ゆっくり元の位置に戻って行く。
ボスが
「なんだ?どういう状況か説明しろ。」
僕は言葉につまった。
上手く説明できないけど、
「空気が重い感じがしたんですが、とにかく柵の外と中は何かが違うって事です。」
ちょうどいいタイミングでグスタボが乗った車が到着した。
ボスや僕の説明でグスタボは
「それでは中を測定してみます。」
測定に少し時間がかかる。
周りは高い木ばかりだ。
僕は身体を慣らし始めた。
ビードが
「何すんだギンゴ。中に飛びこむつもりじゃないだろうな。」
僕は笑った。
「さすがにそこまでバカじゃないよ。」
助走をつけて木に足をかけて登った。
柵より、かなり上まで駆け上がり太そうな枝に乗った。
よく見える。
少し血の気が引いた。
柵の外より木はまばらにしか生えてないんだけど、その間を黒い煙がウヨウヨ漂っている。
指輪してれば、この中を抜けて行けると思うか?
答えはノーだ。
全員連れていけると思うか?
それも無理だ。
下でビードがさっきと同じ顔のままで、こっちを見上げてる。
ただ囲っただけじゃない。
ザイアムの家系で代々所有してきた、確実に何かある土地なんだ。
僕に好戦的な弁護士のヘクター・ベンチュラを甘く見ていた。
子供みたいに言い訳せずに、ソルデアの言ったとおり、父に連絡をとるべきだったんだ。
中に何があるか知ってるから、簡単に場所を教えた。
しかも三国連合にあっさり譲渡した。
入れるものなら入ってみろと言われているようだ。
手に負えるものじゃない。
いや、手に負えないから、そのままにしておいた。
僕は魔力を使いながら下りた。
みんなに、どうやって伝えよう。
ソルデアが黙ったままの僕に気づいた。
「ギンゴ?何か見えたか?」
みんなが僕を気遣うように見てる。
「黒い煙が数え切れないくらい、いる。」
ボスが
「柵があるから食い止めているのか?」
僕は
「そうかもしれない。でもわかりません。」
ビードが
「ボス撤退ですか?」
「いや、柵を乗り越えてくるのだとしたら、とっくに襲われているだろう。
グスタボが、計測を終わるまでは、踏ん張ろう。」
扉から離れて計測を続けた。
グスタボは
「柵から内側2-300メートル離れた辺りから円系に広く術が発動しています。」
魔方陣か。
発動してるとして、直径10キロあるんだぞ。どんだけの広さのなんだよ。
突然扉のほうで音がした。
振り返るとヤナギが扉を開けて、入って行く。
みんな口ぐちに、ヤナギを呼んだ。
僕はいち早く扉までいくと
「僕が行くっ!ヤナギを連れて戻るから、扉早く閉めてっ!」
ソルデアが、また泣きそうな顔をしてた。
僕は安心させるために親指を立てて精いっぱい笑った。




