中心へ3.
グスタボがコリンの地図に届いた画像を合わせている。
思っていたより、小さい。
保安官が言ってた場所だ。
直径10メートルくらいの場所で異常な魔力数値が観測されている。
その周りに点々と柵らしきものが見える。
柵の直径は10キロだ。
僕はグスタボの近くにいって
「で、これを届けてくれたのは誰なのか、わかったの?」
小さい声で聞くと
「それがアミグ総括ではない金の誰かってだけしか。」
僕は
「信用はしてもいいんだよね?これ。」
グスタボは
「下りてきたものについて疑えるような立場じゃないです。」
ちょっと怒ってる。
僕は謝った。
もうコリン達も戻ってきてる。
ボスとビードはメモの弁護士についてコリンに調べてもらってる。
「ヘクター・ベンチュラ50歳、いくつかの企業の顧問弁護士をしてるようです。
すごい資産の会社が書かれているけど、どれも聞いた事ないな。
一番最近は、アワード商会、残余財産の移譲及び手続き業務となってる。」
ボスが
「会社をたたむ手伝いをしてるようだな。」
僕は、会社名をどっかで聞いたような気がしたけど、思い出せない。
コリンがキーボードを叩く手を止めた。
「このヘクター・ベンチュラって、おれたちと同じ魔術師だよ。」
ボスが
「ほぅそれなら話しが早そうじゃないか。」
ボスが直接電話すると、ヘクター・ベンチュラは知っていたかのように、
『すぐ伺います。1時間後でよろしいですか?』
と返事した。
こんな街から離れた場所に1時間で来れるって、どういう事なんだ。
ホテルの前に黒塗りのベントレーがきっかり55分後に止まった。
後部座席から190センチくらいの、ひょろりと痩せた男が降りてきた。
僕はボスやビードとロビーで待ち構えながら、よくできた骨董品みたいな人だと思った。
三つ揃いのベストに襟がついてる。
杖の代りの指輪はしてる。
ボスが
「時間きっちりですな。」
というと
「ええ時間にルーズでは顧客に逃げられてしまいますからね。」
声は低いが話しかたが年配の女性みたいだ。
ボスを見た後、僕をジッと見据えた。
「お父様はお元気ですか?
自分が若がえっている錯覚を起こしそうだ。ヒロム・アルゲント。」
不意打ちすぎる。
「なんで名前を。」
「お父様には、エルステッドには幾度となく痛くもない腹を探られた。
忘れろと言うほうが無理というものでは?」
ボスが僕の前に立った。
「わたしが呼びだしたのだ。
話しをすげ替えてもらっては困る。」
ヘクター・ベンチュラは両手を胸の前で組むと
「あぁそうでした。
教えたくないと言っても、どうやら無理そうですね。
でも、立たせたままで話すのは無粋でしょう?」
ビードがいまいましそうに
「こちらへどうぞ。」
先に立って案内した。
ホテルで録画ができる個室は事務室しかなかった。
なんとか反対側からしか見えないマジックミラーの間仕切りを設置して、グスタボが魔術の発動がないよう見張ってる。
少しでも、おかしな動きがあれば拘束しなくてはならない。
ヘクター・ベンチュラは座らされるパイプ椅子を見て
「もっとまともな椅子はないのか?」
ビードが
「発言は録画されている。独り言は命とりだぞ。」
僕は
「1時間でここに来るなんて、近くで仕事をなさっていたのですか?」
ヘクター・ベンチュラは
「ゲートは所定の場所でだけ開いているとは限らない。
その権限があれば、どこにでも開けられる。」
そう言うとフンッと嘲笑った。
「それで?こんな事を聞くために呼びだしたのかね?」
ビードが地図を出して
「こちらの所有者を教えてほしい。
言っておくが、これは殺人事件の捜査だ。」
ヘクター・ベンチュラは垂れてきた前髪を手で押さえると、ナイフで切れたように口が横に開き、整った歯を見せた。
「どうやら、こちらの捜査官は無知な方ばかりのようですね。
ここは今は三国連合のものです。
ご存じないとは、なんともお気の毒です。」
ビードが、
「なんだと?」
ボスがビードを制しながら
「ほぅそれでは以前の持ち主は、どなたかな?」
「賊の手で、この世を去りました。
あなたがたの、お仲間は、亡くなる時、その場にいたはずです。」
そう言って射るように僕を見た。
ソルデアとヤナギが戻ってきてヘクター・ベンチュラの話しを聞くとソルデアは
「ザイアムの財産管理してたってぇぇ?
あー顔見たかったぁぁ。」
と地団太踏んで悔しがった。
コリンが録画されている画像をソルデアに見せていた。
僕にソルデアは
「なんで銀の支部に連絡取らないんだよ。
こういう時、情報をもらうために、あいつら大ぜいで、すぐ終わる仕事してるんだ。」
責めた。
確かに到着までに1時間もあって、いつでも電話はできた。
話しを聞くために事務室に手を入れていて、ついでにグスタボが魔力の作動を見張ると言いだして、結構忙しかった。
ソルデアはチームの全員にザイアムについて、ざっくり説明した。
ミカエラの件は、彼女を守るために伏せられている。
その後、ソルデアは銀の支部に電話して
「アミグ総括に伝えてもらってるから、多分連絡がくると思うよ。」
僕は
「ザイアムが、なんでこんな森を持ち続けていたんだと思う?
それともザイアムが、煙を使って事件を起こしてるとか。」
ソルデアは
「何のために?産まれる前から?死んだ後も?
それよりバカゴはお父さんに連絡しろよ。」
僕は
「それこそなんで?」
年に1回会えればいいくらいの父親ってだけの人に、お父さんが探ってた人と会ったよって、どんな顔して連絡しろって言うんだ。
「絶対嫌だ。」
話しを変えなければ
「そういやヤナギはなんて?」
ソルデアが黙ったままで立ちあがった。
「ちょっと電話してくる。」
こういう時に、つくづく自分は単なる銀の者なんだと思い知らされる。
しかも1年目の若手でしかなくて、そんなに知り合いがいるわけでもない。
父や兄が金の役職にいるとしても頼れるわけじゃない。
それにしてもケヴィン・グレイのトンネルの話しは不思議だった。
ビードが
「なんかさ、俺達わざと遠回りさせられてるような気がしないか?」
僕はうなづきながら
「そこにあるのに、ちっとも手が届かない。」
ボスが電話を受けている。
「アミグ総括の許可が下りた。柵の中に入れるぞ。」
いつの間にかヤナギがいた。
手の届かない所にとうとう入る事ができる。




