中心へ2.
次の家庭の住民は若い夫婦で夜しか自宅にいない。
しばらく待っていると小さな子供と夫婦の3人で戻ってきた。
玄関に入るまでもなく、夫婦子供とも魔力はないので、ビードと僕は拠点のホテルに戻る事にした。
ラウンジを抜けて会議室に机が並んでる。
もうみんなは戻ってきていた。
ビードが
「ボス、あのトンネルの情報って信憑性ありますかね?」
ボスはグスタボと何か話し合っていた。
グスタボが
「この辺りの画像が明日には届くと思います。」
ボスはビードに
「裏をとれ、他にも信用できる証言をとってこい。」
続けてボスはみんなに
「集会は引き続き予定が詰まってる。
2組は中心部分で目撃情報と、トンネルについて探ってきて欲しい。以上だ。」
僕はグスタボに
「この場所って、魔力研究所で元々調査してたんだ?」
グスタボは首をかしげて、
「いいえ、出発する時に、そんな話全くありませんでした。」
どういう事だ?
「魔力研究所から画像が届くのじゃなくて、また別の部隊が動いてるって事か。」
グスタボは
「うーん、魔力研究所じゃないのだけ確かとしか、わたしは言えません。」
グスタボが困ってる。
僕は、そうか、と返事しながら、ふとアミグ総括が言った"把握できていない領域"を思い出した。
画像を送ってくれるのなら、合流して捜査に当たればいいはずなのに、それはしないって事なのか。
考え込んだ僕をビードが
「ほら、明日も早いから、さっさとメシ食おうぜ。」
翌日、ソルデアとヤナギが漏れた住民の訪問をする事になり、ビードと僕はひとまず地元の保安官事務所に行く事にした。
「カッコウのトンネルって、鳥の巣みたいなって意味かな。」
僕が何気なく言うとビードがグミを吹き出した。
「あ、そうか。コナーのおっさんが頭になんで指立てたか、わかってなかったのか。」
知らないと言いながら僕はビードが吹き出したグミを新聞紙をちぎって包んだ。
「お、センキュー。カッコウはおかしな奴って侮蔑の言葉だよ。」
へぇーと納得した僕に
「保安官事務所に着く前でよかったよ。」
ビードは苦笑いした。
まだ早い時間で、事務所の中は人が大勢いる。
ビードが
「所長はいますか?」
声を張ると、奥のほうで白い口髭を生やした男性が
「こっちだ。」
ベージュの制服の間を縫って歩いていく。
挨拶しつつも、視線が冷やかだ。
「お忙しい中、ありがとうございます。」
握手をして、
「いや観光客が大勢いる時のほうが忙しいんでね。
世の中の流れってのにも、こんな田舎にいようと受け止めなければならない事は承知してるさ。」
ビードと僕は感謝しますと言った。
これからも、感謝しますって、何度も言わなければならないんだ。
「入院した君らの仲間は気の毒だったな。で、何か欲しい情報でも?」
ビードは
「カッコウのトンネルです。ご存じでしょう?」
「ケヴィン・グレイのじいさんの話しなら誰でも知ってるさ。」
詳しく話してくれる人はいなかったけど。
保安官はカッコウとは言わなかった。
「ケヴィンのオヤジはゴールドラッシュで家族を残して一人で行ってしまい。
連絡が途絶えたんだ。」
ビードが
「それってカルフォルニアの?」
所長は
「1850年のじゃない。カナダのクロンクダイクの方だ。
ここらの冬場より、カナダの環境は過酷だ。
一攫千金を狙ったんだろうが、おそらく死んだんだと思うよ。」
僕が
「母親と子供だけで100年前か。」
所長が
「口に出せないくらい壮絶な人生だったろうな。
母親が死んだ後、ケヴィン・グレイは製材所で働いていたんだが、運の悪い事に頭にけがをした。
今で言えば脳に損傷を受けたんだろう。足が自由に動かなくなって杖をつかないと歩けなくなった。」
ビードが
「無職だ。」
所長が
「だが不思議な事に飢えたり金に困ってなかったんだ。」
ビードが
「誰か援助していたとか?」
所長は首を振って
「牧師でさえ生活に困るくらいだ。
そんな余裕なんて誰にもない。
かといって特に盗みが増えたなんてこともない。
だからケヴィン・グレイに会う度に、みんな聞くわけだよ。
どうして生活してるんだ?と。」
所長が真っ白の片眉をあげた。
「ケヴィン・グレイは、トンネルを掘って暮らしてる、と言ったんだ。」
ビードは
「誰かに頼まれてトンネル掘りをして、それで収入があったんですかね。」
所長はうんと返事して
「だからトンネル掘ったら石炭でもでるのかい?と聞いたんだ。
すると何も出なくても掘るだけでいいんだと言ったらしい。」
僕は
「おとぎ話しみたいですね。」
所長は
「ああ、当時はケヴィンの後をつけてトンネルの場所を探ろうとする奴や、もしかすると金でも埋まってるんじゃないかと色々憶測が流れた。
だが誰もトンネルの場所を探し出せなかった。
何年かして、ケヴィン・グレイは自分の家で死んでいた。」
所長は両手のひらを上にむけた。
「家の中は、ひどくみすぼらしかったが、ケヴィン・グレイの肌艶は若者のようだった、なんて話しも伝わってる。」
ビードは
「それでマイク・コナーは子供の時に、トンネルがあっても近づくなと言われていたんですね。」
「ああ、俺もオヤジにそんな話はされたがね。」
フッと笑って所長は椅子にもたれて、
「トンネルがどこかにあるのは知ってる。
でも詳しい場所を知ってる奴はいないさ。」
地図を引っ張りだすと
「ここがケヴィン・グレイの家だ。
トンネルがあるのは、おそらくこの辺りだろう。」
ドーナツの中心と限りなく近い。
「どういう事ですか?」
立ったままもどうにかしてほしい。
「そこは私有地なんだ。
15年くらい前に希少動植物でもいれば国定公園、それが無理でも州立公園にできるかもしれなかったのに、私有地だからって調査すらできなかった。
いつからかは知らないが、おそろしく高くて頑丈な柵が張り巡らされている。」
ビードが
「土地の持ち主は誰なんですか?
今回は殺人事件ですから、所長もよくわかってますよね。」
「わかっているから協力はするが、どっかの金持ちだって事しか聞いてない。
土地の管理を任されている弁護士の名前なら教えてやれるよ。」
そう言うと後ろのキャビネットからファイルを取りだし、デスクの上のメモに書きだした。
ビードはメモを受け取った。
所長はコーヒーのマグを持つと、
「できるだけ早く終わらせてくれ。
あちこちから煩く言われて、かなわんよ。」
車に戻って僕は
「私有地でも、そのトンネルにトニー・ブレッグマンが入ってったのかもしれないよね。
それなら僕達が入ったとしても何も問題ないよね。」
ビードは
「バッジ外していくって言うんなら俺は止めないよ。
でも相手さえわかってれば、問題ない。もうちょっと辛抱だ。」
ビードがボスに連絡すると、一旦戻ってくるように言われた。




