中心へ1.
その日は全ての人員で、既に魔術師登録してある住民全員に注意喚起の電話に追われた。
漏れがあっては被害者が出てしまう怖れがあるので、連絡のつかない場合は訪問した。
季節限定の観光地で、それほど人口は多くないのは助かった。
コリンが出したドーナツ状の魔力を持つだろうと予測される場所の住民にも、できる限り急いで当たらなくてはならなかった。
中心部分に何かある事は、たやすく推測できるものの、そこに投入できる人員はなかったんだ。
ジェロームが来場者に対して言葉巧みに説明していたので、コリンとモーガンは、もう一人加えて欲しいとボスに願い出た。
ジョージアが話しの途中で志願した。
それでも手が足りないので、ヤナギとソルデアが組む事になった。
翌々日には、ビードと僕はドーナツの内側に訪問を始めた。
木々に囲まれた中にポツリポツリと離れて家が建っている。
地図を確認しなければ、迷ってしまう。
道路からは、木立の中に家があるなんて気づかないだろう。
夜になれば明かりが漏れて見えるかもしれない。
何軒か回って特に収穫はなかった。
このまま同じ作業が続けばいいと思ってた。
ビードは楽しそうに運転してた。
優秀なナビを操作しながら、鼻歌まじりに酸っぱくて固いグミをずっと噛んでる。
一個もらったけど指先がベタベタする。
もういらない。
車一台が通れる程度の道を入っていった。
雨が降ればドロドロになる道だ。
家の周りは車が5-6台詰めて置ける程度に開けていた。
古いトラックが1台停車してる。
二人とも車から降りて、玄関ドアに近づいていった。
「なんだか、人の気配がしないな。」
ビードが慎重に辺りを見回した。
僕は地図と住所があってるかどうか、支給品のノートパッドの画面で確認してた。
広くとってあるベランダのロッキングチェアが風に揺れている。
建物に近づいても部屋の中から音はしない。
ドアをノックしようとしたら
「おまえら、何もんだ?」
後ろを振り向こうとすると蹄鉄を上げる音がした。
「ゆっくりだ、両手はあげてもらおうか。」
こういう歓迎の仕方もある。
僕とビードは顔を見合わせて、ゆっくり両手をあげて振り向いた。
ノードパッド撃たれたら困るなって思った。
ビードが
「マイク・オコナーさん?俺達、警察の者です。」
「マイク・コナーだよ。Оは発音しない。バッジみせろ。」
「ほら、ここベルトに通してある。ライフル降ろしてください。」
僕に銃口が向けられる。
ビードがため息をつきながら、僕の上着をそっと開いた。
「随分、若いのが仕事してんだな。」
やっとライフル銃の蹄鉄が戻されて小脇に抱えられた。
10メートル離れていても、ライフルなら撃てるだろうな。
痩せていて、手入れしてないヒゲが伸び放題だ。
「こちらには、ご家族でお住まいですか?」
ビードは手早く終わらせたいらしい。
「女房はおととし死んだよ。
娘は街で仕事みつけて住みついてるから、たまにしか帰ってこない。」
ドアを開けて家の中に入っていく。
玄関の前に立っていると
「ほら入って来い。水くらい出すから。」
ビードは、ノートパッド型の石板のスイッチを入れた。
これに少しでも触れると、手から魔力が出ていれば反応する。
何度も繰り返しているから、寝ててもできるくらいの作業だ。。
コナーさんがテーブルに水の入ったグラスを二つ置いた。
「いつも飲んでる炭酸水しかなかった。」
手が空いたところにメモパッドを手渡した。
「名前の綴りは、これで合ってます?」
コナーさんが手に持った途端、ベルの音がした。
コリン達と違って、魔力を持つ住民は初めてだ。
これはすぐには帰れない。
僕はファイルの中から
「コナーさん、最近こんな獣は見た事ありませんか?」
魔力があれば、この写真に写った魔物も見えるだろう。
コナーさんは少し考えながら、あごヒゲを整えるようにこすった。
「1カ月前だったか、森の中で見かけたが、逃げてったよ。クマかなんかだろうと思ってたが。」
見えてる。
僕は、この家が表示されている地図をコナーさんに見せて、
「この獣どこで見たか地図を押さえてください。」
指で道をなぞりながら、考えて押された場所は、やはり予測してる中心部分方向に現れている。
ついでに、どこから現れて、どこに逃げていったかも確認した。
ビードはポケットの中から、魔力に反応しやすいスティックが並べられた箱を出した。
「コナーさん、あなたには力があります。この棒を順に触ってもらえますか?」
「なんだ?これに触ると何か起こるとでも言うのか?」
半笑いしてる。
つられて笑ったりできない。
金属の銅、銀、鉄、石、骨、木が数種類ずつ並んでいる。
木の比較的硬い木質の所を触ると、触っているだけなのに木が持ち上がる。
「うわっなんだこれは、おまえら妙なトリックで俺をだまそうとしてるだろう?」
ビードは静かに
「騙しても僕らなんの得にもならないので、そのスティクを手に持って。
そうだな、ソファのクッションに"動け"と念じてみてください。」
箱から木の棒を取り出してソファーのクッションに向けた。
難なくフワリと上がった。
コナーさんは表情を変えないで、クッションを上げたり下げたりしてた。
今まで、誰にも気づかれずに、この年齢まで来てしまった事のほうが不思議だ。
そのうち楽しそうに、クッション以外にも、アチコチに向けて持ち上げている。
「割れる物は、もっと練習した後にしましょうか。」
ビードが相手をしてる間に僕はノートパッドに記録をしていった。
「あんたたち、つまり俺は魔法使いだったってことか。」
「これは良い話しです。」
「じゃ悪い話もあるのか。」
「さっき見せた獣は、魔力がある者しか見えません。
それと、魔力のある者を選んで襲って殺しているんです。」
コナーさんは木の棒をビードが持つ箱に戻した。
「俺は襲われなかったぞ。
そこら辺にある木の棒を投げたくらいで逃げてったんだから。」
僕は、
「今、持ってたのは硬いタイプの木の棒です。
その人に合う物は、その人の魔力の力を強くできるんです。
コナーさんは棒を持っただけですが、魔力で攻撃してくると思ったのかもしれません。」
ビードが
「まだ、どういう獣かわかってないので、今度見かけても戦おうなんて思わずに逃げてくださいよ。」
僕は冊子を手渡した。
「せっかく力があるとわかったので、ここに行って術に磨きをかけてください。
それと、できる限り早く杖の代りの指輪やブレスレットを、ここでもらってください。」
コナーさんは
「そこらへんの木でいいんなら、自分で作ってもいいんだよな。」
ビードが
「僕達がしてるみたいな指輪なんで、こっちのほうがいいでしょ?
それにもっといろんな情報もありますので、出向いてください。」
「俺みたいなやつは他にもいるのか?」
「この町だけでも、もう何人も見つかってますので、登録すれば仲間にも会えます。」
僕は記録を済ませて、
「もう登録されますので賭博場には入れません。
こっそりでも賭けはしないほうがいい。」
コナーさんは使いこんだ丸テーブルを触りながら、
「俺のオヤジはカードの賭けで大儲けしたせいで、一番の親友に殺されたんだ。
賭けはしねえよ。」
ビードが
「それがいい。」
「そういや俺のじいさんは、よく木の棒切れで井戸の場所とか選んでいたが、遺伝してるって事か。」
僕は
「その可能性は高いですね。」
「じゃこのテーブルで賭けに勝ち続けた親父は運じゃなかったって。
親父はラッキーテーブルなんて言ってたが…」
僕はテーブルを見た。
おそらく樫の木でできている。
コナーさんに合ってる木の種類と同じだった。
「あんたら来るのがおせえよ。
もっと早くしってれば、オヤジだって良い事だけに使ったろうに。」
ビードが
「それなら、これをきっかけにして、どうか、その力を生かしてください。」
コナーさんは、
「ああ、そうだな。おやじの分も何かできる事をやれればいいな。」
独り言のようにつぶやいた。
ビードが帰り際に
「もう一つ聞かないと。
ここら辺で、洞窟とかトンネルなんかの地下にあるもので何か思いあたりませんか?」
初めての魔力保持者でうっかり聞くのを忘れてた。
ビードは思ったより、しっかりしてる。
コナーさんは、
「洞窟は聞いたことないが。」
頭に人差し指を向けると
「カッコウが掘った穴だかトンネルは、どこかにあるはずだ。」
ビードが
「その話し、もっと詳しく聞きたいんですが。」
「詳しくは知らねえ、じいさんの代の話しだし、小さい頃もしトンネルか何かみつけても絶対入るなって言われただけだしよ。」
僕達はコナーさんに感謝しながら後にした。
車に乗り込んで表の道路に出るところで、ボスに魔物が出現していた事と、カッコウの掘った何かについて報告して、次の訪問先に急いだ。




