魔物4.
ボスが沈痛な表情で病院から戻ってきた。
みんな多目的ルームに集められた。
「ジェロームは怪我の状態は軽い。
通常の検査で全く問題が無いのに本人の容態が不安定で、全身の石板で検査した所、魔力が極端に減少している事が判明した。」
コリンが
「ジェロームは魔術師じゃなくなってしまったって事?」
「全く無くなってしまったわけではなく、最初の数値より異常に低いという事だ。
銀の支部の検査員も体力が回復すれば、戻るだろうと話している。」
グスタボが立ちあがって
「それでは各部屋の魔力の痕跡が出ましたので報告します。」
大きな画面にホテルの平面図が写し出された。
入口は1階だけど反対側から見ると1階は3階に見える。
傾斜地を上手く利用して作られている。
地下1階にホテルの事務所や広いメインロビー、土産物などの売店が並んでる。
地下2階は機械室やクリーニングルームや倉庫。
1階と2階の景色の良い山側に客室やレストランがある。
レストランが角にあり廊下を隔てて、客室が並んでいる。
魔力の痕跡がレストラン窓からはじまり、廊下、最初の客室、ジェロームの部屋、5部屋は空室で、僕の部屋まで貫通して、ビードの部屋の壁付近で消えていた。
「この壁で消えているように見えますが、上部に抜けていってます。」
やはり僕の部屋まできていた。
僕は
「昨晩、実は身体に違和感があって目を覚ましました。」
ソルデアが
「大丈夫なの?」
「特に腕や背中の皮膚がチリチリしたんだけど、なんともないです。」
ビードが珍しく黙って下を向いている。
ボスがビードに
「ビード、何かあるんだろう。報告は義務だ。」
ビードは落ち着きなく口元に手をやると
「昨日、銀の支部の出張所に発注しておいた新しい指輪ができたもので、取りに行って。」
ボスの顔が怖い。
みんなビードがやらかした事が言う前にわかった。
「部屋で指輪をつけて、そのう、軽く使ってました。」
ボスが
「狭い空間で魔術の発動は禁止されている!
何か起きたらどうするつもりだっ!」
ビードが頭を下げて消えそうな声で
「すいません。後悔してます。」
僕が
「それってドアを開けた時、壁に向けて何か術を発動してたんだ?」
ビードは叱られた子供みたいな顔してる。
「さすがに、ギンゴが寝てるほうには向けてない。
窓に向かって、丸めた紙を動かしてただけだ。」
ボスがうなって電話をしはじめた。
「ティギー先生ですか?
先程はありがとうございます。ジャレッド・ドナヒューです。
お忙しい所申し訳ないのですが、病室のジェローム・ゴーウィンの手を確認していただけないでしょうか。彼は指輪をしてますか?」
確かに僕はいつも指輪ははめたままだ。
手入れは欠かさないが、いつもはめてた。
それは昨晩も変わりない。
「そうですか。何もしてないんですね。
いえ、大丈夫です。ありがとうございます。また伺います。」
通話を終わるとボスは押し黙った。
モーガンが
「どういう事ですか?
杖代りの指輪してるかどうかが、そんなに重要?」
グスタボが手をあげた。
「すいません。報告の続きをしてもよろしいでしょうか。
この魔力の痕跡は自然の魔力です。
近くに魔術師がいて操られているものではありません。」
モーガンが
「それと指輪に何か関連があるのかよ?」
イライラしてる。
グスタボは同じ調子のままで
「自然の魔力は魔術師に影響を受けやすいので、指輪をしてるだけで何らかの変化を生じるはずです。」
モーガンが
「誰かオレにも理解できるように通訳してくれよ。」
僕が
「自然の魔力は、指輪に触れたら吸収されたりするんだ。
魔力ボールと同じ。
ビードが丸めた紙を動かしてるだけで避けたのは、元々の目的以外に使われるのをさける、ため。」
僕は言ってる途中で口ごもってしまった。
グスタボが
「これは今の所の仮定でしかないですが、この自然魔力の集合体は、魔力のある人間から魔力を回収しようとしてるのではないかと思われます。」
訓練前に検査した時、僕の魔力は両手から一番出ていた。
その延長なのか腕も背中も微量だが出ていた。
だから腕や背中がチリチリしたんだ。
そして一番出ている手は、指輪があるから、あえて避けた。
ジェロームみたいに怪我しなかったのは、指輪があっただけなのか。
ボスが動いた。
注意喚起だけでは足りない。
杖の代わりとなる何かを付けていなくては魔物を避けられない。




