ヤナギ
ヤナギが部屋のドアを開けたのを見て、僕とソルデアはヤナギの部屋になだれこんだ。
「君達は一体なにを…」
とヤナギを言いかけるのを僕はシッと黙らせて、ソルデアは入ってきたドアを音を立てずに閉めた。
ソルデアがポケットから消音の魔方陣の小さな金属プレートを出して床に落とした。
「何するつもりだ?」
ヤナギがベッドによろけるように腰掛けた。
「それ、そのまんまヤナギさんに返すよ。」
僕は、ボスに嘘をついたような気分だった。
ソルデアが
「部屋の音が外に漏れないように魔方陣張っただけだよ。
一度三人で話す必要はあると思ってたし、良い機会だ。」
僕は部屋の椅子に腰かけて、ソルデアにも勧めた。
「ボスに、なんであんな安心させるような事、言うんですか?
相手が一体なんなのかも、全くわかってない状況で。」
ヤナギが少し笑った。
「わたしが、ギンゴ、君の事知らないとでも思ってるのか?」
ソルデアは僕から椅子を、わざわざ離して座ると、
「ギンゴがコルムナだからって言ってるの?」
ヤナギがソルデアに向かってうなづく。
「君の噂は、それこそ三国連合の誰もが知ってる。
つい何カ月か前の事件の事だって。」
僕の目を見て、ヤナギは言葉を止めた。
ソルデアがいつになくゆっくりと低い声で
「なんのためにギンゴがザイアムに会いにいったか知ってるのかよ?」
ソルデアが膝の上に置いた手を握り締めるのが見えた。
ヤナギにもソルデアが怒っているのは伝わったんだろう。
「く、詳しくは知らない。噂でしかないから。」
僕は、あの時の記憶がぐるぐる蘇ってきて、胸が苦しくなった。
ソルデアがこれ以上怒らなくてすむように、声を絞り出した。
「いいんだソルデア、どんな伝わり方しようと、どうすることもできない。」
ソルデアが涙目で
「ギンゴ!バカッ!」
そう言うと握ったままで腕を叩いた。イタイ。
僕はひと呼吸置いて、
「あの時は、ザイアムが一番欲しがってる情報と交換に、友達を助ける石をもらいに行ったんだ。」
ソルデアが
「ハッ最高にバカゴだったよ!」
シーブルーが手に入る確証なんてなかったし、キロエがいなかったらと思うと、本当の所どうなっていたかわからない。
ヤナギが
「それでもギンゴはコルムナなんだろう?」
僕は諦めて笑った。
そう、コルムナだからって、何度言われただろう。
ソルデアが
「コルムナだって、死ぬよ。どんなに魔術を上手く扱えたって、ボクたちと同じ人間だ。それに、」
僕とヤナギがソルデアの次の言葉を待つ。
ソルデアは
「こいつは怖ろしくバカなんだよ。」
ソルデアに言われると、そうかもと思うけど、違うちがう。
僕は口をとがらせて
「あれから少しは頑張って、賢くなってるよ。」
言い終わらないうちに、言葉尻にかぶせるように
「ったくビードといいコンビだよ。バカコンビ。」
ヤナギが、また身体を前かがみにして、
「イタタ、君達は何しに部屋に来たんだ。」
ソルデアが
「え?どこか痛いの?」
「ジョージナと組むようになって、毎日胃が痛むんだ。」
ソルデアが
「なんで言わないんだよ。医者には行ったの?」
ヤナギがテーブルのポーチに胃薬があると言って、ソルデアがポーチから小さいボトルを出して手渡している。
僕は部屋に設置されている湯沸かしにミネラルウォーターを注いでスイッチを入れた。
ヤナギがぬるま湯で薬を飲みこむと、
「どうせ煙の正体なんて掴めないし、魔力をもつ住民に対する注意喚起しかできないんだ。」
吐き捨てるように言った。
「わたしの結界は範囲は限られているから、拘束した状態でなければ捕捉はできない。
しかも形が定まった対象しか、成功していない。
よせ集めの素人集団に、魔物を捕獲しろ、正体を探れなんて所詮無理だ。
元々、無理を承知で集められているとすれば、調査しているという事実だけで充分なはずだ。」
ソルデアが
「だからボスがチーム内の犠牲者は出させないと?」
ヤナギはそうだと返事した。
でもアミグ総括は仲間を見殺しにはできないと言った。
注意喚起だけで犠牲者が出ないとは言いきれない。
黒い煙を、そのままにし続ける事はできないはずだ。
しかも正体ははっきりしてないけど、確実に近づいている。
調査の事実だけが必要なら、ここで止めたってよくなってしまう。
僕は
「でもヤナギさん、言ってる事矛盾してるよ。
僕が呼ばれた理由が消えている。僕はコルムナなんだよね。」
ヤナギは自虐的に笑うと
「お飾りか、もしくは君一人で倒してくれると思われてるんじゃないか?」
ソルデアが立ちあがり、乾いた音がして僕は顔を上げた。
ヤナギを叩いた。
「アンタそれでも銀の者なのかっ!」
僕は立ち上がって、ソルデアの細い腕を引きよせた。
「止めても行くようなバカなんだ。
ギンゴが、一人で倒せなかったら、どうなるのか。
倒せなかったら逃げると思う?ひどいよ。」
ソルデアが悲しんでいるのを見ながら、僕はひどく冷静だった。
そりゃ何か起きた時のために、あんなにキツイ訓練も必要だったよなぁって、まるで他人事みたいに思ってた。
飾りか、確かに騒ぎを起こしたコルムナに相応しい。
一人で戦わせたとしても、コルムナならやってくれる。
もし死んだとしても問題ない。騒ぎを起こすようなコルムナなんだから。
そうだ。また一人で行けばいい。
そして全部一人で背負えばいい。
僕に何かあれば、他の誰かが来るだろう。
他の誰かって…
僕は頬と胃を押さえてるヤナギと悔しそうなソルデアに
「ほんとはさ、この3人でチームのみんなの魔術訓練つけてやろうよって相談しようと思ってたんだ。
それに、僕は飾りだろうと、一人で倒せと言われても、他の誰もやれないなら、行くよ。」
ヤナギが僕の顔を驚いたように見つめた。
ソルデアは
「全然、成長してないじゃないか。」
しばらくしてヤナギが、
「さっき言った事、許してくれないか?
どうかしてた。すまない。」
そう言いながら、立ちあがって日本式の挨拶より深く頭を下げたままになって動かなくなった。
僕は突然のヤナギの変化に固まってしまった。
ソルデアが僕の右手とヤナギの右手を引っ張って、握手させた。
「ボクもごめん。3人で仲良くしようよ。」
って笑った。
一番怒ってたと思ってたんだけど。
ソルデアには、いつも驚かされる。




