動き
拠点を移して1日目でコリン、モーガン、ジェロームの3人組の方に動きがあった。
最初の集会で魔力を持つ住民の数が5000人で10人もいたんだ。
たまたま多かったのかと3人は思っていたようだが、それはその後も続いた。
黒い煙の情報はないが、潜在的にこの地域だけ多いのは異常だ。
ん?潜在的にと例えるのは正しいのかな。
黒い煙と何か関係でもあるのか…
ビードと僕も集会から漏れた人や、森の中に点々と散らばるように住んでいる家を訪ねていった。
家族全員を石板でチェック、人に知られていないような地下にある洞窟かトンネルについても聞きとりした。
11月も半ばに入り、細かいみぞれが降り始めた。
昼間はいいが夜になるとぐっと冷え込んでくる。
ビードが
「明日は久しぶりの休みだなぁ、ギンゴは何すんの?」
僕は
「すっかり忘れてた。特に何も予定ないなぁ。
身体なまってきてるから動かさないと、そろそろまずい。」
「なんだよ、信じられないくらい真面目じゃねーか。」
3カ月の訓練で言われた事が立証されれば誰だって続けるだろう。
「ビードも鬼みたいな教官にしごかれれば納得すると思うけどな。」
「鬼教官なら、あの女しか思いつかねぇけど。」
「シーラ教官知ってるの!?」
ビードは左手でハンドルを握って、右手で伸びてきたアゴひげをゴリゴリ触りながら、
「名前は忘れちまったけど、黒いロングヘアーのこんな目した。」
アゴにあてた手を目の端にもってくと指で目を引っ張った。
僕は久しぶりに大笑いした。
笑いすぎて涙が出た。
「ハハッうけ過ぎだろ。俺達全員で特訓受けたんだぜ。
3時間しか一緒じゃなかったけど、あんな横柄な奴とは二度と会いたくないね。」
「その横柄な人から3カ月訓練受けてたんだ。」
ビードはウヘーと言いながら最後にオェッと言った。
「よく生きてたな。」
その特訓のまんま教えるつもりはないけど、本当はヤナギやソルデアと、みんなに魔術の訓練をしたほうがいいんだろうと、初日以来ずっと思ってた。
そのために休みを返上させるのは難しいだろうな。
ビードと僕、ジョージナとヤナギの二組はとくに収穫はなかった。
ホテルに戻るとコリンがパソコンに向かいながらキーボードをピアノでも引くように打ち続けている。
しばらくすると、どこから持ってきたのか大きい画面のテレビスクリーンに地図が写しだされた。
ソルデアが戻ってきた僕とビードに
「コリンがね、今日までの魔力のある人物の居住地を地図上に赤いポツポツで映し出してる所。」
モーガンが
「コリン、ほんとスゲーよ、な。」
と、ビードと僕に自慢げに言う。
ヤナギとジョージナも戻ってきた。
コリンが
「これで今日までの成果だ、そらっ!」
最後にキーボードを叩くと赤い点が集まり、うっすら6分の1ほどの弧を描いている。
ジョージナが
「ドーナツのかけらみたいだわ。」
ボスが
「これから算出した中心部分は割り出せるか?」
コリンが
「ちょっとまって、やってみる。」
誤差はあるものの範囲が20キロ圏内に収まった。
ここに何かあれば、解決できるかもしれない。
ボスはソルデアに銀の支部に連絡して増援を頼んでくれと言い、保安官に直接電話して話している。
ソルデアは、銀の支部に連絡して、予測される円の続きの部分の住民に急ぎ警告するために増援を依頼した。
ボスは保安官との通話を終えると
「はやる気持ちはわかるが充分に準備して望みたい。ここまでよくやってくれた。
明日は充分休息して備えてくれ。」
ひとまず自分の部屋に戻ろうとしたらボスに呼びとめられた。
「ソルデア、ヤナギ、ギンゴちょっとまってくれ。」
ビードがじゃあな、と手を振った。
僕が無言で手だけあげると、ソルデアに耳を引っ張られた。
ガラスで囲まれたボスの部屋に入った。
ソルデアはボスの横のソファに座った。
ボスが
「多分、あの中心部分に何かある。
銃を持った相手なら、なんとかなるが魔力勝負になったら、とてもじゃないが太刀打ちできん。」
ヤナギが僕を見ながら
「調査しないと、今の段階では何とも言えませんね。」
ソルデアが
「今のまま、ビードとギンゴ、ヤナギとジョージナの二組で動いて大丈夫なのか聞いてるのよ。」
僕が
「魔力を使う何かか、誰かからビード守れるかって事ですか?」
ボスが即答した。
「そうだ。」
ソルデアが
「ボクが行こうか?」
ボスに聞く。
「否、ソルデアには銀の支部のパイプ役になって欲しい。
半年ほど前から魔力のある市民から、有能な人物を選抜しているが、ビードやジョージナは優秀なんだ。
万が一の事があったら本当に困る。」
ヤナギは時々前かがみになりながら、
「ギンゴとわたしでなら、充分戦えますよ。ご心配には及びません。」
静かに言った。
僕は、ヤナギの言葉を聞いて、どう返事したらいいかわからなくてソルデアを見た。
ソルデアも、その意図を計りかねているようだった。
ボスは厳しい顔をしていたが、ヤナギの一言で肩の力を抜いた。
「そうか、それなら今の状態で動いてもらって大丈夫なんだな。」
ヤナギが、はいと返事する。
ボスが少し笑いながら
「君達をどうやら見くびっていたようだ。申し訳ない。
それならいいんだ。呼びとめて悪かった。部屋に戻ってくれ。」
ボスに挨拶して部屋を後にした。
僕とソルデアはヤナギの背中を追った。




