ex02 「酒と泪と男と女と部屋とワイシャツと私とポニーテールとシュシュと……な話 ~承ぐ(後編)~」
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次は明日(7/30)の12:00前後に
「男に食い物にされとるのに、一番は男からの扱いではない。じゃと……?」
「じゃあ、一番辛いこととはなんなのかしら?」
うまいことこっちの話にノってきてくれた二人が、なおも真剣な表情で聞いてきます。……ふみふみ、このままなら流されてくれるかな?
「はいです。……私のお知り合いのおねぇさん曰く、いっちゃんキツイのは、同じ女からの蔑みなんだそうですよ」
「女性からの……?」
百合沢さんの意外そうな顔を見ながら、私は続けます。
――風俗業に関わる人たちを一番に見下してくる相手。それは、その業界に一切関わることの無い人間なんだそうです。
実情を知らず、個人的な嫌悪感や倫理観、貞操観念だけで話す人たちこそが、実のところ一番酷く見下してくるんだそうです。
男性だと、そういう人ってあんまり居ませんよね。お客としてなり、仕事としてなり……なんやかんやで関わるヒトがほとんどです。
一方の女性はどうかというと、関わらない人は一生カスリもしませんし、むしろそういう女性の方が多数なんじゃないでしょうか?
そして……その、これもあくまで個人的な意見ですけど。
……女って、女同士でランク付けするのが大好きじゃないですか? 一見仲よさそうな友達同士でも、何かにつけてどっちが上かを競い合ってるようなトコありますよね。いわゆるスクールカーストみたいなのも、男の集団だけならあんまり生まれないんじゃって思いますもん。
そんな女からして、自分の身体を売り物にしているような女性って言うのは、そりゃもう簡単に見下せちゃえる存在なんですよねぇ。
同じ風俗関係の人たちですら、高級クラブのおねぇさんはキャバ嬢さんを下に見る雰囲気があります。そのキャバ嬢さんたちも、泡のお姫様方を見下してしまう時があるんだそうです。
普通の奥サマとかOLさんから、お水の仕事してる方への視線なんて……そんなの、言わずとも知れちゃいますよねぇ。
そんでもって、そんな女性からの意見で一番堪えるのが、一見こちらを気遣ってくるように見えて、その実見下してくる発言なんだそうです。
「カワイソウに」「辛いでしょう」「大変ね」なぁんて優しげな言葉を使っていても、その根っこにあるのは『上の立場に居る自分達が、貴女たちに優しくしてあげる』っていう感情。
そういうのが、一番辛くてやるせないんだそうです。
だって、あの人たちにも色んな事情があるんですもん。望むにせよ望まないにせよ、その世界でお金を稼ぐって決めてお仕事してるんですよ。そういうのを全部纏めて『貴女たちはカワイソウ』ってレッテル貼られちゃうのが、何より心にクるんですって。
「それは……。確かに、そうかもしれないですね……」
「……じゃの。何もわかっておらぬ部外者に、訳知り顔で口を出されるのは何よりアタマに来る。それは妾も覚えがあるのじゃ」
「でしょ? だから、部外者が安易に口出しちゃいけないんですよ」
よ~しよし。感情論でほだす作戦が上手くいったみたい。お二人とも、なにやら感じ入っちゃってるようです。
王女サマのご意見はなんとなくマトが外れてる気もしますけど、それでも二の足踏んでくれるなら万々歳なのです。
このまま畳み込んでしまおうと、私は最後のダメ押しをすることにしました。
「生きるのに苦しんでるヒトが居るなら、色んな角度から意見を取り入れた上で、じっくり考えていけば良いじゃないですか。なにも、今すぐ結論出すコトじゃないですよ」
「貴女の言う通りね。……私たち、少し先走りすぎていたかもしれないわ」
「うむ。コトが繊細だからこそ、慎重にあたらねばなぬのじゃな。今回は、絹川殿の言に一理あったということじゃ」
うむうむと頷きながら口にする王女サマ。そして私は、心の中でガッツポーズです。
何とかやりました。これで、ハインツさんにも怒られないで済みそうですょ。
しかし……その時の私は忘れていたのです。「やったか?」という台詞の持つ、圧倒的なフラグ力を。そしてこの二人の、予想を超えた明後日な方向への推進力というものを。
「それで、絹川さん。先ほどの話では、娼婦の組合の方がハインツさんを訊ねていらしたのでしょう? ということは、あの方が風俗業の政策にあたってらっしゃるの?」
「ん~、詳しいことは聞いてないからわかんにゃいですけど……多分そうじゃないですかねぇ。定期的に報告貰ってるみたいなコトも言ってましたし」
「そうですか……。ではやはり、ハインツさんにご助言いただくのが良いですねっ」
「そうじゃな。ヤツに頼るのは業腹じゃが、この場合は致し方あるまい。ハインツ卿に相談するとしよう」
「ほぃ? お二人とも……なにを?」
勢いよく立ち上がった二人に、私は目を丸くします。なに? 何が起こってるの?
「決まっているではないですか。この問題に関して、ハインツさんからご意見を頂くんです」
「ちょおっ! なんでそんな流れになってんスか!?」
「そっちこそ何を言うのじゃ、絹川殿。そちが言ったのじゃろう? 妾たちの考えだけではいかん、とな」
「多方面からの意見を取り入れた上で熟考すべきだ、と言ったのは貴女じゃないですか。ならこの場合、ハインツさんにお話を聞いてみるのが一番でしょう?」
「いや、確かに言いましたけど。それは、ゆっくり考えようってことでして……」
「じゃから。ゆっくりと考える為に、ハインツめの話を聞こうというのじゃ」
「ですわね。さぁ、善は急げです。ハインツさんの下へ向かいましょう!」
勢い良く号令をかけると、そのまま歩き出すお二人です。
あぅ……この展開は予想外でした。まさかここまで積極的に関わろうとするとは……。
適当にお茶を濁してしまえればそれでおっけ~と思っていたのに、かえって火に油を注いじゃったような気がします。
まったく、どうしてこうなった……。
とはいえここまできたら、私にゃ二人を止めることなどできません。
大人しく二人にドナドナされて、ハインツさんの執務室へ向かう廊下を進みます。
はぁ……。コレ、後で絶対怒られるだろうなぁ……。




