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~転生男と召喚女の場合~

本日13、14話を投稿済みです。

お気をつけ下さい。

 薄暗い部屋の中に、一組の男女が腰掛けている。

 口を開いた少女の眼差しは、頼りないろうそくの灯りにも関わらず、くっきりと笑顔が浮かんでいる。


「それでそれで? それからどうなったんですか?」


「だから、それで終わりだよ。百合沢も宇佐美も頑張った、そんでみんなでヤツを倒した。以上、終わり」


「むぅ、そんなんじゃぜんぜん説明になってないですよぅ。もっとこう、血沸き肉踊るような戦いの描写は無いんです?」


「んなもん事細かに説明して、いったい誰が喜ぶって言うんだよ。俺の口から、ギャーとかグシャーとかって擬音を聞きたいのか?」


「いや、そこまで臨場感たっぷりにやれとは言いませんけど……。まったく、相変わらずてきとーなんですから」


 テーブルに身を乗り出して続きを促す少女に対し、男はあくまでも斜に構えた姿勢を崩そうとはしなかった。そんなぶっきらぼうとも言える態度にもかかわらず、少女は男を責めはしない。それは、今のこれこそが、自分達の正しい距離のあり方だと語っているようですらある。


 少女の姿を横目で見ていた男は、少しだけ気まずそうにあご先をさすると、思い出したかのように口を開いた。



「そういや、あれだな……、和泉。アイツが凄かったな」


「ほへぇ。どんな感じです?」


「なんというか、色々ピンチもあったわけだ。女神のヤツ、手から変な光線とか出してきたし、髪の毛ぐわーっとのばしたりとかな。けどそんな攻撃も、全部和泉が切り落としていくわけだよ」


「ぅおおっ! やっぱパリィは最強(さいつよ)なんスね!」


「後はアレだ、和泉必殺の『流水飛翔剣』とか言うヤツ。アレは凄かった」


「和泉君七十七の必殺剣の一つですよねっ。ってコトは『猛虎連山撃』とか『落葉ササメ切り』も繰り出したんですか?」


「それだよそれ。あと、女神の出してきた『次元断裂因果混沌波』を『明鏡止水の極み』ではじき返したのも流石だったな。そこから『ジャッジメント・ブルクラッシュ』に繋げる判断は、今までの経験を生かせたって感じだ」


「明鏡からのジャッジブルコンボですか……渋いトコついてきますねぇ。でも、それなら『カテナチオ☆ドリーム』の方がDPSダメージ・パー・セコンド(秒単位の平均ダメージ効率のこと)高い気もしますけど、そこは安定重視だったんでしょうか」


「最後の決戦だしな。その判断は、やはり、というべきだろう。だが、最後の最後で女神の出した『崩・全てを終焉に誘いしモノ』のことを考えれば、正しい判断だったと思うぞ。あの技を見た時、正直俺達は死を覚悟せざるを得なかったからな」


「ということは、出したんですね……。最終秘奥技の更に先を……」


「……あぁ。残る全ての力を使い切るほどの大技中の大技、『天に泉湧く御神(オンカミ)のレクイエム』。しかと見届けさせてもらった」


 そして二人は、いずこかで行われた壮絶な戦いに思いをはせ、しばし両目を閉じた。きっと今頃、二人の脳裏では、和泉と呼ばれた勇者の華麗にして苛烈極まる華々しい戦いの様子が思い浮かべられていることであろう。

 その、決して誰にも描写されることの無い戦いを制した勇者に、二人は心からの敬意を払っていた。


「……ハインツさん」


「……どうした?」


「適当言ったでしょ」


「バレたか」


「バレいでか」




「ま、それはそうとして。次、どうしましょうか? ハインツさん、もうあの国に戻るつもりは無いんでしょ?」


「そのつもりだ。日頃から、いつ俺が抜けても問題がないような体制は作ってたし、部下達に任せれば引継ぎも問題ないからな」


「にゃるひょろ……用意周到ですねぇ。んじゃ、さしあたって向かうのは魔族の森の方ですか?」


「いや、あちらも当分は動かないだろうからな。まずは近隣諸国を回って、女神の影響が抜け切った後のアルスラ教を見てまわるつもりだ」


「あぁ。確かに、いきなり思考誘導解かれたんじゃ、変な流れになってるかもしんないですもんねぇ」


 そう言うと少女は、壁にかけられていたこの世界の地図を広げ、一つひとつ読み上げながら街道をなぞる。



「今の時期だとこっちの山越えルートは厳しそうですし、東の海岸周りで抜けますか? それとも、一旦南に下って交易船を使うって方法もありますよねぇ」


 そのままあれこれと旅の予定を立て始める少女に対し、ハインツと呼ばれた男はどこか呆れたような顔をしている。浅く腰掛けなおした椅子の上で片胡坐をかき、テーブルの端に肘をついた。

 ハインツの立てたガタリという物音に、一瞬その顔を上げはすれど、またすぐに少女は机上の地図へと視線を戻す。この娘にしてみれば、このような行儀の悪さは慣れ親しんだものであるのだろう。


「……で、だ。絹川」


 名前を呼ばれた少女は、それでも地図をなぞる指を止めない。


「なんです? 今ちょい急がしいんスけど」


「ンなもん。急ぎでやる必要ねぇだろうが。それより、ちゃんとこっち見ろ」


「なんですか、もぅ。落ち着きの無いヒトですねぇ」


「お前にだけは言われたくねぇよ! じゃ無くてだな。……お前、いつまでこっちにいるつもりだ?」


「こっちって……、どっち?」


「とぼけんな。いつになったら元の世界に還るのかって聞いてんだよ!?」


 声を荒げて問いただすハインツに絹川はジトっとした視線を返し、そして唇を尖らせた。


「そんなに還って欲しいんですか? ……居なくなった方が良いです?」


「何もそこまで言ってねぇだろうが。……じゃなくてだな、既に女神の脅威は無くなったんだから、いつまでも俺に付き合う必要は無いだろうが」



 ハインツは言う。元々この世界に無理やり連れてこられただけの絹川が、これ以上この地に留まる必要は無いと。帰還を望めば、今すぐにでも送り返すことが可能であると説明した。

 それを聞いた絹川は、深い、深いため息をつき。そして答えた。


「あのねぇ、ハインツさん。私、あの時ちゃあんと言ったでしょ? 全部の結末を見届けて(・・・・・・・・・・)からじゃないと、あっちに戻るなんて出来ないって」


「いや、だから俺も言ってんだろ? もう女神は片付けたんだし――」


「いやいや、終わってませんよね。あの女神サマが起こした影響が、果たしてどれだけ世界を歪ませたのか。結末はまだまだ先じゃないですか。ハインツさんがやっちゃったことがどんな未来に繋がるのかも、ぜんぜんはっきりしてないデス。

 これから先、つじつま合わせなきゃならないことは、それこそ山ほど残ってますよ?」


「いやいやいやいや。ンなもん最後まで確認しようとしたら、それこそいつまでかかるか……」


「だ~か~ら~っ。全部! 最後まで! 見届けるって言ってるでしょ!!

 ……大丈夫ですよ。あっちに残してきた人たちの事は、あっちの私がヨロシクやってくれると思います。そりゃ友達に会えないのはちょっと寂しいですけど、あの子達もきっと賛成してくれます。なんったって、この私の友達ですからねぇ」


「だからって、お前……。それで良いのか?」


 なおもうじうじと言いよどむハインツに、絹川は笑いかける。まだ寒さの残る冬の寒さの中、それでも暖かく差し込む日差しのように、にっこりと笑いかけた。


「だいじょぶですよぅ。

 ……だって私、普通に幸せに生きていく人たちを、ゆっくり眺めて暮らすような。そんな生き方が大好きなんですから」





 しばらく後、人里離れたこの山小屋から、一組の男女が去っていった。

 何事かを言い争い、互いのスネを蹴りあいながら、それでも離れる事無く二人は去っていく。



 その後、この世界の歴史に、二人の姿が確認された記録は無かった。

 捻じ曲げられた歴史は、果たして元の流れに戻ったのか。

 あるべき姿を取り戻したのか。

 はたまたその歪みすらも、結局は歴史のつじつまの一つに過ぎないのか。


 確かな事は何も無く、それでも未来は、今日も明日も回り続けている。

以上をもちまして、つじつま本編を完結とさせて頂きます。


ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

積もる話はいくらでもございますが、

それは活動報告でさせて頂こうと思います。


本編はこれで終了ですが、今後も少しずつ、

ここまで語られなかった場面を、

引き続き番外編という形で投稿するつもりです。

(注、和泉氏の活躍要素は、多分ありません)


また、頂いていたご意見・ご感想も、

少しずつ返信させていただいております。

「まだ私に返事返ってきてないし!」

という方は、もうしばらくお待ちくださいませ。


評価・ブックマークをいただければ、

それが続編、更には次回作への励みに繋がります。

少しでもお時間があれば、もちょっと下にスクロールして、

ぽちぽちとお願いいたします。



最後になりましたが、

作者の拙い物語に、こんな所までお付き合い頂き、

本当に……本ッ当にありがとうございました。


いずれまた、どこかでお会いできますことを、心より願って、

おわりの挨拶とさせて頂きます。


明智

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