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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
最終章  『排他的観念への包括性の同調及び協調による、パラダイム・シフトの肯定と否定』
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14(最終章 終)  『未来に向かう準備 ~召喚女の場合~』

本日、既に13話を投稿済みです。

お間違えの無いようにお気をつけ下さい

 そして時は過ぎて、明くる日の正午過ぎです。王城の小部屋で、私たち異世界組四人が、揃ってハインツさんを待っていました。不敵に笑う和泉君。決意で顔を堅くする百合沢さん。そしてそんな二人に隠れるように、どこかオドオドとこちらを見つめる宇佐美さん。そして私は、いつもどおりに。


 ここに来る前に、王サマや王女サマを始めとしたこのお城の人たちには、きちんとお別れを済ませております。本来ならば、国を挙げての送還式となるはずだったらしいのですが、事情が事情ですのでこちらからお断りしました。

 ハインツさんのことを詳しく説明するわけにも行きませんので、次元の狭間に残った邪神を討伐する為に、自分たちの力でこの世界から居なくなるという設定です。



 待つことしばし。石畳の上をコツコツと踏みつける音がして、ハインツさんがやってきました。そのお顔はいつもの三倍増しでおっかなく、これまで以上に緊張しているのがわかります。


「……良いのか?」


「あぁ。正直オッサンには、これまで随分迷惑かけた。最後くらい恩を返させてくれよ、なぁ?」


「本当のことを言えば、名残惜しくはあります。でも、引き伸ばせばそれだけ辛くなりそうですから」


 挨拶も交わさず問いかけたハインツさんに、和泉君たちが答えます。そして、二人の影に居た宇佐美さんも口を開きました。


「私は……正直まだ良くわかってないの。これまでの日々も、どこか夢の中だったような気がするから。でもね、それでも。ヒロ君とミカちゃんと一緒に、私も頑張る」


 少しだけ驚いたようなハインツさんの顔は、きっと最後の最後になって、初めてまともに宇佐美さんと話をしたから。彼女の話し方はどことなく幼く、これまで聞いたどんな時よりも小さくて、それでいてしっかりとした強い意志を感じさせるものです。これが、宇佐美さん本来の姿なんでしょう。


 ハインツさんは一つ頷き、私たちに向かって口を開きます。




「それでは諸君。……これより勇者送還の儀を執り行う。それはそのまま、あの邪神との最後の戦いが始まるという事だ。女神を騙っていたあの存在が、果たしてどれほどの力を持っているか、正直なところは未知数だ。世界の壁を越えるだけの力を持ち、数え切れぬほどの長い時を生きてきたであろうあの神は、想像を絶するほどの強大な敵であろうことに間違いはない」


「そんな相手と、私たちはこれから戦いに行くんですね……」


「大丈夫だぜ美香子。今まで、俺達みんなで挑戦して、出来なかったことなんかないだろ?」


 少しだけ震えた百合沢さんの肩に手を置き、和泉はにっかりと笑いました。なんなんでしょうねぇ、ここに来てのそのイケメンオーラは。ハインツさんも小声で「そう。そういう根拠の無い自信こそ、お前達には相応しい」なぁんて台詞をのたまっておられます。

 でもぶっちゃけ、少なくともこの世界に来てからは、上手くいったコトの方が少なくありません? まぁ、水差すようなことはいいませんけどね。エアリーダー小友理ですから。



「彼の言うとおりだ、百合沢君。たとえどれほど強大な相手であろうと、君達が本当の意味で力を合わせれば、打ち倒せぬ何者も存在しない。それに、この私も及ばずながら全力を出させてもらうつもりだ」


「でも、ミカちゃんの心配もわかる。相手は、私たちにスキルを与えた本人なんだもん。私たちの力が通用するのかなぁ……?」


「確かに心配はあるだろう。だが君達の力は、なにも完全に無から与えられたものではないと考えているのだよ。君達の中には、そのスキルの源となる何かが存在していた。ヤツは、その種を実現できるまでに呼び覚ましたに過ぎないのだと、私は思っているのだよ」


 なおも不安の色を隠せない宇佐美さんに、ハインツさんは私たち一人ひとりを指差しながら続けます。


「自分の大切なものを護りたいと思っていた和泉君には『絶対防御』の力が。百合沢君の、先を見据えて生きていたいという思いが『未来視』に、それぞれ昇華されたのではないだろうか?」


 和泉君、百合沢さんと来て、宇佐美さんを差したまま、ハインツさんの動きは止まります。その論理で言えば、宇佐美さんにも『時間停止』というスキルを生み出すだけの思いが隠されていたのでしょう。……例えば、いつまでもこのままの三人で居続けたいというような思いが。まぁ、彼女の根っこまで知りうるような関係を築けなかった私とハインツさんには、想像することくらいしかできないのですけれど。



 案の定、ハインツさんは『時間停止』のスキルが生まれた理由を口に出来ません。このままほっとくのもアレですし、当然次は私の番のはず。敢えてワクテカしながら続きを促します。


「ねぇ、ねぇ。ハインツさん。私は? 私にはどんな思いがあったんでしょ?」


「知るか。どうせデバガメ根性が長じてそうなったとか、そんなんじゃねぇのか?」


 なんたるシツレイ! でもま、少なくとも宇佐美さんの深層を暴露しちゃいそうな空気は変わりましたから、甘んじて受け入れてあげましょう。それにきっと、この人は私の中にも、ナニカの種が埋まっていることに気づいてくれているのでしょうから。




「さて、そろそろ頃合いだ。皆、心の準備は良いか?」


 それぞれの仕草で頷いた一同は、地面に描かれた魔法陣へと足を踏み入れます。いよいよ、最後の戦いが始まる……というところで、立ち止まったままの私にハインツさんが気づきました。


「何やってんだ絹川。置いていくぞ?」


「あ、はい。そうしてくださいな。最初っからそのつもりでしたから」


「はぁ? どういう事だよ、お前」


「……んとですね、ハインツさん。今からやるのって、あの女神とのマジヤバ級のガチバトルなんですよね? そんなとこに私なんぞを連れてってどうするつもりなんです。足手まといにすらなりません、瞬コロされちゃいますよ、私」


「いや、だからそれはちゃんと――」


「いいえ、ハインツさん。その余裕が命取りになるかもしれませんわ」


 突然の展開にうろたえるハインツさんに、百合沢さんが口を挟みます。


「それによ、世界を超えるだけでも魔力を使うんだろ? だったら、戦力外の絹川は置いていくのが正解だと思うぜ」


「誰かを庇いながらというのは、いくらオジさんでも、少し厳しいと思う」


 渋面を崩さないハインツさんに、和泉君や宇佐美さんまでもが援護射撃をしてくれました。多分ですけど、効率の面で言えば私を置いていくのが正しいということを、ハインツさんも理解しているのでしょう。それでもすんなりと納得できないのは、私を一人この場に置いていく事への不安からでしょうか? この人の過去を思えば、世界の壁を越えるこの魔法を使うとき、身近な誰かを残していくことに懸念があるのも無理はありません。

 ってもどうせホントの所は、自分の立ててた予定が崩れちゃったから、ちょいと拗ねてるだけなんでしょうけどねぇ。



「ハインツさん、大丈夫ですよ。私はちゃあんと待ってますから。一応これでも勇者の端くれですからねぇ、お留守番くらいはきっちりやってのけますって。

 それに、私は……全部の結末を見届けてからじゃないと、あっちに戻るなんて出来ないのですょ」


「……他の皆も、それで良いのか?」


 ちょっとだけぼかした私の物言いに、ため息混じりに溢したハインツさんに対し、和泉君たちは揃って頷きます。そして最後に百合沢さんが応えました。


「それが彼女の、絹川さんの決断だというのなら、私は受け入れます。……私には、選べなかった道ですから。

 だから、待っている絹川さんのためにも、私たちは必ず勝ちましょう!」


 強く言い切った彼女の言葉に、皆が大きく頷きました。私はそれを見て確信します。この人たちなら、きっと、大丈夫。


「――みんなっ! その……。色々大変だと思うけど、頑張って下さい。私じゃこれくらいしか言えないですけど、それでもずっと応援してますからねっ!!」


 我慢できずに口をついてしまった私の言葉に、百合沢さんは私に駆け寄り、一度だけ、この手をぎゅっと握り締めます。少しぼやけてしまった視界で、それでもわたしは泣き笑いの彼女の顔を視界に焼き付けました。……二度と、忘れないように。




 魔方陣から薄緑色のボヤっとした光が出始め、やがて身体全体を包み込みます。強い光に思わず瞬きをしてしまったその次には、既にみんな旅立っていました。


「いってらっしゃい……」


 薄暗い部屋を照らしていた、どこか惹きつけられる光が消えてしまった後も、私は。

 今もなおこの手に残った、大切な友達の温もりを抱きしめながら、ずっと、その場に立ち続けていました。


「…………さようなら」

お待たせいたしました。

いよいよ、女神との直接対決の火蓋が切って落とされました!

いかなる壮絶な戦闘が行われるのか、どうぞ刮目くださいませっ!



本日は、あと一話投稿予定です。

15話投稿予定 20:00前後

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