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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第一章  自称、紳士的なハズだったオッサンが本性現すまでの一部始終
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05  『キマシの塔でも建設してんのか?』

 俺が絹川 小友理を最初の相手に選んだのは、実に消極的な理由からである。


 近衛団長をも蹴散らしたという和泉は後回し。まともに会話が成立しなさそうな宇佐美も除外した。

 できれば最初は、冷静に話をしたいと思っていたので百合沢を相手に選びたかったのだが。……何故かいつまでたっても宇佐美の部屋から出てこないので後回しにする。

 こんな夜中まで何やってんだコイツ等。キマシの塔でも建設してんのか?


 と言うワケで、残った絹川の部屋を訪ねることにした。

 初対面の時には、コイツ俺を怖がっていたからなぁ。まともな話ができるかはわからん。だが、他と別行動しているのは好都合だ。



 不可視の魔法で身を包み、目標のバルコニーに飛び移る。垓下に歩哨の兵士が見えるが、俺に気が付いた様子はない。どうやら誰にも気付かれずに侵入できそうだ。


 室内を窺うと、まだ寝てはいないようだ。机に向かって何やらしている。

 気づかれぬように室内を魔力の膜で覆う。これで、内側の物音が外に漏れることもなくなった。


 さて、コイツはどんな反応をしてくれるだろうか。




「夜分に失礼する。絹川 小友理さんで間違いないな?」


 物音1つ立てずに部屋に入り、確認の意味も込めて声をかける。ビクっという音が聞こえそうな程に、腰掛けていた椅子から飛び上がって驚いてくれた。リアクション良いなコイツ。


「えっ? あっ、リーゼン伯爵。 えっ、なんで?」


 おぅおぅ、面白いくらいにキョどってる。まぁ考えてみれば、夜中によく知らんオッサンが自分の部屋に忍び込んできたんだからな。この反応も無理もない。

 字面だけなら完全に犯罪者だ。


 ……とはいえ、少しは落ち着いてもらわんとな。文字通りの意味で、話にならん。



「無礼は詫びさせて頂こう。どうしても話しておきたいことがあったのでな。申し訳ないが、しばし時間をいただきたい」


「話って言われても。あの、明日とかじゃダメなんですか?」


「すまぬがそこまで悠長にしておられんのだ。それに、余人を交えぬ場所でとなると、日中はなかなかに難しい」


「わかり……ました。でもっ! そこから近づかないでください。大声を出します」


「よかろう。それが望みならば。私とて、貴女に危害を加えるつもりはないのだ」


 …………今のところは、だけどな。

 何にせよ会話に応じてくれるようで結構だ。


「それでは、まずはこちらの質問に答えてもらいたい」




 それからしばらく一問一答の時間を続ける。最初こそ緊張と不安で挙動がおかしかったが、他愛ない質問を混ぜたことで随分と素直に答えてくれるようになった。


「それでは、お主と和泉少年達とでは、特に親しい間柄というわけではなかったのだな?」


「ですね。あの3人は、……なんというか目立ってましたから。それで私でも名前くらいは知っていたってだけです」


「そうは言うが、同じ場所で学問に勤しんでいたのであろう? 高校……、とか言ったか」


「いくら同じ学校って言っても、全校生徒800以上ですからね。よほどの有名人が相手でもなきゃ、他所のクラスの人のことなんて知りませんよ」


「なるほどな。……なんにせよ納得だ。いや、なに。初めて会った時に、お主と3人の間に壁のような物を感じたのだよ。それで少し気にかかっておった」


 全校生徒800人ということは1学年が270程度。1クラス40人としても7クラスはある。そこそこ大きな学校だ。あの魔法によって召喚されたのなら、コイツ等が元居た場所は、俺が生前暮らしていた場所とそう違いはないはずだ。あそこはそこそこの人口を抱えた都市だった。その規模の高校があってもおかしくはない。


 勇者の過剰戦力の理由が、召喚魔法以外の何かで呼び出されたせいであると言う可能性も考えたのだが、ここまでの話からするとそれも無さそうだ。

 あの魔法で召喚されたという前提に、間違いはないのか……。



「まぁ良かろう。それで和泉君たちは有名人という事だったが。それはやはり、何か武道で高名だったということだろうか?」


「そこまではちょっと。でも運動部には所属してるらしいです。確か……テニスです。あっ。えっと……。

 向こうの世界の競技なんですけど、こう、小さな球を棒で叩き合うといいますか」


 そう言いつつテニスの素振りを実演してくれる。

 いや、知ってる俺だからラケット振ってるんだってわかってやれるが、他の奴らにゃ妙な踊りにしか見えんぞ、それ。



「あぁ、わかったから座りなさい。とにかく、彼らとお主は友人でもなんでもない関係。たまたま同じ場所にいたために召喚されただけの間柄である。

 ……そういうことなのだな?」


「そういうこと……になりますかね。別に嫌いなわけじゃないですけど、特に好きというわけでもないですし」


 勇者の謎に関してはわからずじまいだが、有意義な話が聞けた。

 こりゃますますもって自分の判断を褒めたくなるな。コイツを最初の相手に選んだのは大正解だったようだ。




「ふむ……。では、お主には今この場で聞いておこう。お主は、この世界で何を望むかね?」


「なに、って。えっ、私がですか?」


「そうだ。お主はこの世界で何をしたい。いやむしろ、なにかこの世界でやりたいことはあるかね?」


「私は、勇者として呼び出されたんですよね。だから、その、悪い人たちをどうにかするのが————」


「そうではない。呼び出した我々の望みではなく、お主自身の望みを聞いておるのだ」


「私が、何がしたいか……」


 絹川は顔を伏せなにやら考え込みはじめた。無理もない。急に求められてここに来たというのに、今度は逆のことを聞かれたんだからな。



「お主たちはこの世界の事情に巻き込まれた、いわば被害者であろう。正確には違うが誘拐といっても良い事態なのだよ。そうである以上、私としてはお主の望みに全面的に協力するつもりでおるのだ」


「それって……。もしも、私が帰りたいといったら?」


「もちろんすぐに帰還させよう。お主がその意思を表明さえしてくれれば、準備は私が全て引き受ける」


 よ~しよし。もう一息だな。もうちょい畳み掛ければ、コイツは帰還に同意してくれるだろう。



「アナタはどうお考えなのですか? 私たちが元の世界に帰ることに」


「むろん賛成だ。たとえ勇者といえども、魔族の討伐などという危険の伴う行為を、軍人以外に任せるのは間違っているとは思わんかね。しかもお主たちは、元はただの学生だったというではないか」


「でも、それだけの力を持っていますよ?」


「たとえ為す能力を持つからといって、必ずしもそれを実行せねばならないわけではなかろう」


「それって無責任じゃないですか?」


「良いかね? 力の有無が、責任の有無に直結するわけではないのだよ。しかもお主たちの力は、いわば無理やり押し付けられたようなものだ。そこに責任を論じるほうが間違っておる」


「私たちがそうすることを、望んでいる人がいてもですか」


「それは一部の者たちだけだ。誰もがお主たちに、勇者であることを強要しようとしているのではないのだよ」


「……アナタは、望んでいない、と」


「私は、この世界の事はこの世界の人々の手によって為されるべきだと思っておる。

 それは決して、異邦人であるお主たちに押し付けてよいものではない」


「だから、私たちに帰って欲しい?」


「お主たちが望むのならば、であるがな。

 それに、もしも帰還を望むならば早ければ早いほうが良い。詳しくは省くが、あの術式はそういうものなのだよ」


「…………なるほど。そういうことですか」



 納得したようにうなづいている。会話の途中から、目の前の少女が纏う空気が少しだけ変わっていた。

 なんだ? 私が召喚に反対していたというのは既に誰かから聞いているかもしれんが、例えば政治工作を疑われたとしても、それはそれで問題ない流れのはずだが。


 内心の疑念を無表情に押し込めていた俺の前で、絹川はゆっくりと立ち上がる。そして、俺から少しだけ距離をとった。


「そうやって私たちを追い返すのが、アナタの。魔族としての希望なんですね?」

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