11+0.25 『Another view ~噛み合わない二人~』
現在、私こと絹川小友理は、ここナザン地方を治める領主様の元へと向かっています。
宇佐美さんの消息については、こないだのお話の翌日にははっきりさせることが出来ました。ハインツさんの予想通り、彼女は領主様のところにお世話になっていたようなのです。
それを知った百合沢さんたちは一も二もなく駆けつけようとしたのですが、いくら勇者だからといって領主の館にアポ無しで押しかける訳にも行きませんからねぇ。きちんと文書で宇佐美さんのことを訊ねて、彼女の方から会っても良いとお返事が来るまでは、逸る気持ちを抑えながら大人しくしていたのでした。まぁ、領主様への連絡も、宇佐美さんとのやり取りも、全部ハインツさんがやってくれたのですけども。
そして今日、ようやく宇佐美さんと直接お話できるというワケです。
彼女が何を思ってこんな事を始めたのか、その真意はどこにあるのか……様々な疑問に対する答えがようやく明らかとなるでしょう。これまで秘密裏に動いていた私達と宇佐美さんが、始めて互いの主張をぶつけ合うのです。つまり今日これから、決戦とも言うべき大事なイベントが待ち構えているのですっ!
「なぁ絹川。まだ着かねぇのかよ? 例の領主様のお屋敷とやらには」
だというのに、なぁんで私は和泉君と二人で行動しなきゃならんのでしょうねぇ。
「それ、さっきも答えましたよねぇ、このペースで行けばあと30分くらいですよって。もう忘れちゃったんですか?」
「憶えてるよ、ちょっと確認しただけじゃんか。……ったく、走りゃ二時間は前に着いてるってのに、トロくさい馬車なんか使わせやがって」
「私がそんなスピードで走れるわけないでしょ。バカですか? バカなんですね?」
「馬鹿とか言うな! ってかさ、そもそもなんで美香子たちと別行動なんだよ。オレだって梓の顔見なきゃ安心できねぇんだぞ?」
「和泉君、アナタまだその次元で話してんです? 昨日ちゃんと打ち合わせしたでしょ」
そうです。現在の私たちは、ハインツさんたちとは完全に別行動で、領主様のお屋敷に向かっているのでした。
ちなみに移動手段の馬車は私が運転しています。こないだの旅行の最中ちょこちょこと教えてもらった成果ですね。……どうでも良いですけど、馬車の場合も「運転」で良いんですかねぇ? 「操縦」って言った方があってるのかな。でも操縦だともっとこぅ、機械ちっくな乗り物じゃなきゃダメな気もしますねぇ。
まぁなんにせよ、今一緒に居るのは私と和泉君の二人だけ。この場に居ないハインツさんと百合沢さんは、呼び出しに応じてくれた宇佐美さんとの面会に備えているはずなのです。
農業改革なんて大それた企みを実行した宇佐美さんと、協力者となっているであろう領主様。二人を別々に説得することが、彼女の計画に対する私達の作戦です。
領主様のお屋敷からちょっと離れた場所に宇佐美さんを呼び出し、その隙に別働隊が領主様のお屋敷を訪問。宇佐美さんの方にはこの世界にちょっかいかけるのを止めるように諭し、同時に領主様へも宇佐美さんの計画から手を引くようにお願いします。
彼女の説得が上手くいっても、領主様が計画を遂行してしまえば元も子もない。領主様が手を引くことを決めても、宇佐美さんが諦めなければ、また別の地域で同じことを始めるかもしれない。中枢を担う二人共を止めなければ、彼女の計画を阻止することは出来ないのです。
けれど、宇佐美さんに対する説得の材料と、領主様に対するそれとでは、中身も意味も違います。特に宇佐美さんに対して行う話の中には、この世界の住民である領主様へは聞かせられない内容も含まれる。である以上、私たちは別々に彼女達へ対処しなければならなかったのです。まぁ、同時に行おうというのは、日程やなんかの都合上ってトコもあるんですけど。
……というお話は、宇佐美さんの消息が確定する以前から何度も話し合って決めたことですし、この人も当然判ってると思ってたんですけどねぇ。
「いや、それにしてもさ。梓の説得にオレとお前が行っても良かったじゃんか? それとか、ハインツのオッサンとお前が領主のところに行くってのでも――」
「領主様の説得にハインツさんが行くのはアリですけど、アナタと百合沢さんが宇佐美さんの方に回るのは危ういです。彼女の考えがわからない今、宇佐美さんに近しい貴方達二人も取り込まれる恐れがあるでしょ。絶対丸め込まれない自信でもあるんですか?」
「そりゃ……。まぁ、ないけどさ」
それに、宇佐美さんがこの二人に黙って遂行してたってトコも気になります。この世界に来て、そう時間の経っていないうちから始めていたこの計画を、仲の良いはずの二人にすら秘密にしてた。……もしかすると彼女の中では、和泉君も百合沢さんも、信頼できる相手ではなかったのかもしれない。
この脳みそお花畑の男はどうでも良いですけど、小さな頃からずっと仲良しだった百合沢さんがそのことを知ってしまったら、きっと激しく動揺してしまうでしょう。頭の回転の速い百合沢さんのことです、何かの拍子に宇佐美さんの考えに気づいてしまうかもしれません。
そんな事態にならないように話を誘導しながら宇佐美さんを説得し、更に万が一の時、衝動で動いてしまうかもしれない百合沢さんを押さえつけられるような人なんて、私達の中じゃハインツさん以外に居ませんモノねぇ。
「あと、私が宇佐美さんトコに行くのはもっと却下。もし荒事にでもなっちゃったら、私なんかコンマ以下のスピードでずたぼろになりますよ?」
「梓がオレ達と戦うなんてあるわけないだろっ!」
「絶対? 万に一つも可能性ありません? きっと大丈夫なはず~なんて曖昧な確立に、私の身の安全をベットするつもりですか? もしもの時は末代まで祟りますよ?」
「わ、わかったよ……。まぁ、あれだけ会いたがってる美香子に我慢させる訳にもいかねぇもんな」
あららあっさり納得。このヒトはこのヒトなりに、宇佐美さんの行動に思うところでもあるんでしょうかねぇ。
まぁなんにせよ、もう一つの組み合わせである、百合沢さんと私が領主様のところに行くって選択を主張しなかったところは評価してあげましょう。なんだかんだで女の子に嫌な思いをさせない辺りが、このヒトの主人公気質ってヤツなんでしょうねぇ。……だからこそ、宇佐美さんの説得にはあたらせらんないんですけども。
「にしても……。お前なんか機嫌悪くない? さっきからすっげぇ、言葉キツい気がすんだけど」
アンタと二人で行動してるからに決まってるでしょ! なにが悲しゅうて信用の置けないヤツに身辺警護任せなきゃならないんですか。安全安心なお城の中でもなきゃ、アナタみたいな女子のおシリ追っかけるのが第一みたいな男と二人っきりなんてカンベンなんですよ。
なにが「おっかしいなぁ、女の子ってオレと二人っきりを喜ぶはずだけど」ですか。誰も彼もが自分に好意的だなんて、そんな腐れた幻想は誰かにぶち殺されれば良いのです。
前言撤回。コイツ、女の子に嫌な思いをさせないんじゃない。女子は自分に好意を向けてるって前提で物事考えてるだけだ。その範疇でなら格好良いトコも見せられるし気配りも出来るけど、そこから外れた価値観では物事考えられないヤツです。まったく……よくもまぁこんな薄い人格でリア充気取ってられたモノです。ちょっとスポーツ優秀だからって、こんなんがモテるのは私には納得いきませんねぇ。……やっぱ顔か? ただしイケメンに限るってヤツなのか?
御者席に一人座りつつ、後ろの荷物は無視するコトに決めました。まったく、この組み合わせで行動しなきゃなんないことに、不満があるのはこっちだってんですよっ!
そんな私の気も知らず、荷物こと和泉君は、おかまいなしに話しかけてきます。
「そりゃそうとお前、ハインツのオッサンの話、アレ全部理解してるわけ? まぁ、俺達がこの世界にとってあんま良くないってコトは納得できたんだけど、梓のやってるのが悪い事だってのはイマイチわかんねぇんだよな。それに、今の状況がほとんど詰んでるってのも良くわからん」
「ちょっと、ソレ本気で言ってます? アナタ成績良い設定じゃなかったんですか? そもそもだったらなんで、この作戦に協力してんですか」
「設定とか言うなよ。こんなん勉強とは関係ないっての。
……ってか、俺が協力する気になったのは、美香子が賛成してたからだしな。それにメリッサも、なんだかんだで梓のに責任感じちゃってたじゃんか。二人見てたら何とかしてやりたいって思うだろ、ふつう」
「だからって…………。あぁ、もう良いです。まだ少し時間もありますから、もっぺん説明したげます。言っても、私だってハインツさんほど上手く説明できないトコあるんですから、ちゃんと自分の頭でも考えてくださいよ?」
そう前置きして、私は話し始めます。
どれだけ頼りにならなくても、今の味方はこの人しかいないんです。大人の、そして恐らくはハインツさんと同程度には政治的に頭の回るであろう領主様を説得する。そんなの、私一人じゃあんまりにも荷が重い。
いざという時、躊躇なく動いてもらう為に、和泉君にもきちんと覚悟完了してもらう必要があります。ちなみに私は出来てます。
私はハインツさんのお話を思い出しつつ、出来る限り噛み砕いて話し始めました。
――しっかしホント、私、このヒトとゼッタイ合わない。
と言うワケで、絹川さん視点でございます。
一応、本編の続きには間違いないのですが、
いつもとは別の視点でございますので、
話数は11+0,25。
つまり、11,25話と言う事でお願いいたします。




