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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第五章  発達途上世界での破壊的生産活動の可能性と未来選択
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01  『笑い飛ばしてやれよ。指差してな』

 絹川辺りが修学旅行だなどと言っていた数十日の旅路から戻って五日余りが過ぎた。


 学を修めるって程たいした事はやっちゃいないが、見聞を広げたという意味では、修学と称することもあながち間違いではないのかとも思う。この世界における自分達の存在を見つめなおす良い機会になったことは確かだろうし、その手のイベントに付きもののあれこれが無かったとは言い切れないのだ。


 とはいえ、これ以上ダラダラした日々を遅らせるわけにはいかない。和泉にせよ百合沢にせよ、その人となりについて今まで以上に良くわかることが出来た。謎生物宇佐美に関して警戒のレベルを三つくらい引き上げるべきだということを体感できたのも大きいのだ。

 女神を僭称するあの存在が、現時点でどれくらいの影響を及ぼしているか。大まかな予想を立てられるくらいには現状という物について理解ができたのは、こっちとしては非常に大きなアドバンテージといえるだろう。


 なんにせよ、頃合いだ。……そろそろこっちから動いていこうじゃないか。




「と、言うわけでだ絹川。ここ数日の和泉と百合沢の様子を報告しろ」


「前フリすっ飛ばして『という訳で』なんて言われても、どういうワケなんだかわかんないですよぅ。

 ……んと、ここ最近って、お城に戻ってきてからってことですよね?」


 やっとひと段落着いた書類の束を脇にどけ、ソファーに寝転んだ小娘を見る。我が物顔でだらけきった姿にちょっとばかりコメカミが引きつりかける。こっちゃ仕事してんだぞコノヤロ。

 遊びで休暇をとった訳でないとは言え、流石にあれだけの期間城を空けていると流石に仕事が溜まってた。勇者達を軽んじているのではないが、喫緊で処理せねばならない書類を片付けていたりする間は、どうにもヤツラに気を配る余裕が無かったのだ。

 俺の視線に冷たい何かを感じでもしたのか、絹川も慌てて寝そべっていたソファーに座りなおしている。



「まぁ、大きな変化が無かったってことはわかってんだ。お前が毎日そこでゴロゴロしてたんだからな」


「そりゃ私だって物事の優先順位くらいわきまえてますよぅ。何にも無かったからこそ、ここで英気養ってるんじゃねーですか」


「英気を成長させすぎると怠惰に変わるとは俺も知らなかったな。居眠りこいてただけだろ」


「失礼なっ。太公望もかくやなくらい、深慮遠謀にふけってましたのに!」


「よだれの跡、ついてる」


「えっ!? うそっ」


 慌てて口元を拭っているが、コレに引っかかってる時点で昼寝してたの決定じゃねぇか。太公望が釣られてどうすんだ、逆だろが。誤魔化そうとして頭ぼりぼりかいてるから、髪に変な癖までついている。どこまでもアホっぽい。

 今更ながらではあるが、こないだの旅行中、コイツに微妙に慰められた形になってしまった自分を思い出し、軽く死にたくなってきた。もうアレだな。忘れよう。



「ま、まぁ? 私のぷりちーな寝顔の件は置いといてですね。このところのあの人達でしたら特には……。あぁ、そういえば今日ちょっとしたイベントがありましたねぇ」


「ほほぅ。言ってみな」


「お昼前なんですけどね? ホラ、お城の食堂に向かう途中に、ちょっとした中庭みたいなのあるじゃないですか。私は何の気なしにあそこ通りかかったんです。特に用事があったわけじゃなくて、本当にたまたまちょっと早いお昼ご飯貰いにいこうと思っただけ。……今思えば、そんなことを考えてしまったから、あんな光景を目にすることになってしまったんですねぇ。

 中庭に面した廊下の、丁度なかば位に差し掛かった頃でした。ふと、どこかからか人の声が聞こえてきたんです。ぼそぼそと。それでもはっきり、それが人の声だと判ってしまったんです。

 私すぐに『あっ、コレやばいな~。もしかするとあれだな~』って気づいちゃったんですよ」


「えっ? なんだその入り方。コレ、そういう話じゃないよな」


「時間的にはお昼真っ盛りだといっても、今日のどんより曇った天気じゃないですか。どこと無く生ぬる~い風が吹いてきて。時期的には寒さを感じるはずなのに、何故だか湿った生ぬるさが肌に巻きついて。正直言って不快としか感じられない空気でした。

 嫌な予感って言うんですか? そういうのが無かったわけじゃありません。むしろ嫌な予感だけしか頭の中にはありませんでした。それでも、私はその声が気になってしまったんです。どうしようもなく(濁点)気になってしょうがなかった(濁点)んですよっ!

 そして私は、…………何かに誘われるみたいに、声の元に近づいてしまいました」


「いや、待てって。落ち着け、いっぺん落ち着けって。お前なんか違う話しようとしてるぞ」


「それでも。頭のどっかはやけに冷静で、気づかれないように、バレないようにって足音忍ばせながら進んでいきました。声は、言い争うような若い男女の物でした。男の方がしきりに何かを言って、女はそれをのらりくらりとはぐらかしているような……。私、聞いて良いのかな? 大丈夫なのかな? って思ったんですけれど、どうしても好奇心を抑えられずにいました」


 ぼそぼそと続ける絹川の声が、静まり返った部屋の中でいやに大きく耳に響く。わずかに開いた木窓の蝶番が、キイキイとかすかな悲鳴を上げていた。

 確かに今日の天気は、コイツの言ったとおり曇りではある。けれどもさっきまでは、冬も目前に迫ったこの時期にしてはそこそこ暖かいと感じる温度だったはずなのだ。それだというのに、こいつが話をするにつれて、何時の間にやら肌寒い空気に取って代わっている。いやホント、なんだコレ。



「そして、私は更に声の元に近づいていきました。中庭の裏手にあるちょっとした木の陰。煌びやかなお城の中にありながら、そこだけ切り取られたように鬱蒼とした影が落ちているその場所。

 私は、バレませんように、バレませんようにって心の中で何回も祈りながら、そっと茂みから顔を覗かせたんです」


 ゴクリ。思わず飲み込んだ唾液が思ってもいないほど大きな音を立てる。

 それまでは顔を伏せ話していた少女は、やがてゆっくりと顔を上げ。俺と視線を交わした。


「そこに居たのは……」


「居た、のは……?」


「メイドさんにコナかけて、すげなくフラれてる和泉君なのでしたっ!」


「そういうオチかよっ!」


「何言ってんです。あの三人の話をしろって言ったの、ハインツさんじゃないですか。他に何を話せと?」


「いや、そうだけど! そうなんだけどっ!」


「変な人ですねぇまったく。

 でも、アレですね。こないだの旅行について来た三人のメイドさんだけじゃなくって、お城に居た人たちからも相手にされなくなっちゃったみたいですよ、和泉君」


「知るかっ。化けの皮が剥がれたってことなんだろうよっ!」


 言い捨てて目の前の小娘を睨む。くそっ。久々に本気で殴りたくなってきた。そんな内容だったら、あんな怪談口調で話し始めなくて良いだろうが。


「化けの皮って……、これまた酷い言い草ですねぇ。

 でも、一緒に覗いてたメイドさんが言ってたんですけど、いくら顔が良くても最後まで責任背負ってくれないの丸わかりな男はダメなんですって。今じゃ誰も和泉君のお誘いには乗らないみたいです。メイドさんネットワークでダメ男認定されちゃったみたいですよ、和泉君」


「一時はハーレムの王もかくやって感じだったのに、哀れなもんだな。

 ってかメイドと一緒に覗いたって、さっきの話、単に集団でデバ亀こいてただけなんじゃねぇか」


「だからそう言ってるでしょ?

 しかしまぁ、同世代の男の子があんなに情けない姿晒してるトコなんてはじめて見ましたよ。アレですね。こんなとき、どういう顔して良いかわからない……ってヤツ」


「…………笑い飛ばしてやれよ。指差してな。

 そもそもだ、メイド達にそっぽ向かれたとして、それでしょげるようなタマじゃねぇだろアイツは。それに、王女辺りは未だに付きまとってんだろ?」


「んにゃ、そうとは言い切れないみたいですよ。これもメイドさんから聞いた話なんですけど、最近のメリッサ様は百合沢さんとかとご一緒してることが多いんですって。流石にお見限りって程じゃあないでしょうけど、以前ほど和泉君にべったりじゃないみたいです」


「ほぉ……。あのアホ王女が、ねぇ」


 俺たちの前では失策続きに見えなくもない和泉だが、それでも勇者としての力は一級品だ。いくらメリッサ王女が短絡的で先の見えない阿呆でも、簡単に見限ってしまうことはないだろう。

 ナニが目的で百合沢たちに擦り寄っているのか? 直接問いただすワケにはいかないのがわずらわしいところだ。



「ってかですねハインツさん。どうせ今日、百合沢さん呼び出してんですから、ご本人から直接聞きだせば良いじゃないですか」


「事前の心構えとかあるだろ。もともと今日はアイツを口説き落とすつもりだしな。不安要素は予めそぎ落としときたいんだよ」


「確かにハインツさんって、ダイヤの橋すら叩いて渡る感じの人ですよねぇ」


「確実に壊れるじゃねぇか」


「えっ? ダイヤモンドって砕けないんじゃないんです?」


「ソイツは仙台市周辺限定だ」


「なんと! 四部主人公がそれ以降出てこなかった理由がそんなところにあったとは……。おかしいと思ったんですよ。それ以外の主人公はなんだかんだで以降の作品にも顔を出してるのに、彼だけ音沙汰無しですからねぇ。なるほど、地元を離れては力を発揮できない、地域限定ヒーローだったという訳ですね」


「アニメ化までされた主人公を、雅楽戦隊と同じ扱いにしてんじゃねぇよ! それに、出てこなかったのは五部も一緒だろうが」


「いえいえ、彼のその後は小説でも語られてますし、六部で近くに来てたかもしれないってコメントもありますからねぇ」


「無駄に詳しいなお前……」


「乙女のたしなみですよぅ。それより、ご当地ヒーローの走りである北海道白石区限定ヒーローの名前をこんなトコで聞くとは思いませんでしたよ。貴方こそ中々にディープですねぇ」


「知ってる時点でお前も同じだろうが」


 そっちこそなんで知ってんだよ、初代はたぶん生まれる前だぞ。まぁ、DVD化はされてるからソレ見たんだろうけど、サイコロの旅なんかに比べりゃ知名度低かろうに。

 ……しかし、今となってはもう一度見るなんて夢にも適わないし、古参気取りたい訳でもないんだが、一昔以上前のコンテンツを今時の若者から聞くとなんとなくモヤっとするものがあるのは何なんだろうな。


「年取ったってことなんじゃないんです?」


「余計なお世話だ」


 んなこたぁわかってんだよ、言われなくてもな。


 クソくだらない話は置いといて、もうじき始まる百合沢との話から、俺達の女神に対する反攻が始まるのは間違いない。アイツ等召喚勇者どもに女神の影響がどれだけ浸透しているのか、まずはそこから確かめる。俺の予想では心配することは無いだろうが、それでも用心に越したことはないのだ。

 コイツがさっきから阿呆な話ばかり繰り返しているのも、そのへんの緊張を無理やり誤魔化そうとしているところがあるのだろう。余計な気を廻してんじゃねぇよ、まったく。


 なんとなく空気を入れ替えたくなって席を立つと、丁度のタイミングで部屋のドアが叩かれた。同時に俺の在室を窺う、年頃の少女特有の澄んだ呼び声が聞こえた。


 俺達は互いに視線をやり、同時に一つ頷く。

 さて、正念場だ。

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