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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第四章  魔王と共に行くリーゼン紀行”そうだ、辺境に行こう”
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02  『関わっちゃいけない相手を見抜くのも必要なスキル』

 ……なんて思っていた時が、俺にもありましたとさ。

 一言でいうと、勇者一行のリーゼン地方遠征は、実にあっさりと決まってしまったのである。




 俺としたことが見落としてしまっていたのだが、この提案がすんなりと通ってしまったのには、諸外国への体面という国際社会で避けては通れない要素があった。

 人類全体の敵対者とみなされている魔族に対し、異世界からの勇者を召喚しこれにあたろうと試みたのは、我がマゼラン王国の国策である。俺としちゃ大反対だったこの政策の目的は、あくまで魔族への対抗手段として勇者を用いるというのがその趣旨だ。大前提が覆されることはあってはならない。

 つまり、人族という枠の中では規格外に強力な戦力である勇者が、国家間戦争の駒として扱われるようなことになってはならないのだ。しかしながら、はっきり言ってこの疑念を払拭する手段なんぞない。


 今のところこの国において、戦争およびそれに類する国家間緊張状態は存在しない。だがソレはあくまでもこの国に限った話であり、遠い空の下では、今現在も国と国とがしのぎを削りあっているのだ。そんな国際状況下で、世界一強力かもしれない兵器を自分以外の国が有している。これに警戒しない為政者なんているわけがない。


 勇者召喚が行われてしまった後、我々は勇者の存在を隠しきれないと判断した。よって諸外国からの糾弾を交わす為に、あえてこちらから勇者の存在を公表したのだ。そもそも隠す気皆無の奴も居たしなぁ。

 マゼラン王国は確かに過剰戦力を有してしまったが、それは皆さんに向けるための刃ではないんですよ。と、殊更低姿勢に外交を行ってきた。

 これが功を奏し、今のところは勇者が原因での外圧はかかっていない。下手すりゃ人族国家連合対マゼラン王国なんて図式が出来上がっていたのだ。本当に危ないところだった。



 しかし、この国が勇者を有しているのには間違いはないのだ。

 野心のある国ならば、何とかして勇者達を自国に招き、戦力として確保してしまおうと考えないわけがない。実際に今現在も、数えるのが阿呆らしい程、大勢の工作員がこの国に潜入してきていることだろう。俺がここ数ヶ月で発見し秘密裏に祖国へたたき返したヤツラだけでも、既に一個小隊を超えてるんだ。


 勇者達はまだ幼い。甘い言葉にホイホイされて他所の国に移住してしまわないとは限らない。チヤホヤされるのがたいそうお好きなヤツも居やがる。

 俺はそのあたりも考慮して、勇者達の傍を離れず済むように今年の領地視察を断念していたのだ。もちろん、コイツ等が何かやらかしはしないか不安だったってのもあるんだが。



 だが、勇者達のリーゼン地方行きは、そんな諸外国への格好のアピールに成りえたのだった。


 今現在、魔族領と実質的に国境線を触れさせているのはマゼラン王国だけである。そしてその王国内で、我がリーゼン地方だけが魔族領と隣接している。つまり、リーゼンは実質的な対魔族の最前線であるのだ。

 そんな我が領地に勇者を派遣することは、マゼラン王国が勇者を魔族にのみ当たらせるつもりなのだという主張を裏付ける物になりえる。


 どうせ勇者達の動向は監視されているんだ。国の要である王都においておくよりも、人族国家間的にはド辺境であるリーゼンに配置した方が他所からの突き上げを食らわないで済む。そのまま対魔族の実績でも上げてくれれば、勇者を保持することへの正当性を主張する為に更なるアピールが出来るしな



 とまぁ、こんな薄ら寒い思惑を背景として、勇者達の遠征それ自体は、サックリと内定してしまったのである。その間の世話を誰が面倒見るのかという問題も含めてあっさりとな!




 そんな重要案件が決定してしまった翌日の朝議は、既に朝と言える時間を通り越し、昼休憩を挟んだ今もなお続いている。

 本日の主なイベントは、先日の閣議で決定したリーゼン地方への派遣を他でもない勇者たちに依頼すること。内情はどう見ても下知なのだが、相手が相手だからな。依頼って形を取っておくのが無難なのである。



 数時間前、まだ話が始まったばかりの事である。

 国の重鎮のみが参加を許されるこの場に招聘された勇者たちだが、普段は関わることのない大勢のおっさんに囲まれているというのに、それでも何故かこの場の主役であるかのように堂々と振る舞っていた。こういう無鉄砲さってのは、どういう下地で身に付くもんなんだろうな。ホントに胸が痛む。



「――というわけじゃ、勇者殿。道中苦労を掛けるとは思うが、リーゼン領への遠征。承知してもらえんじゃろうか?」


 一国の王とは思えんほどの低姿勢で行動理由を説明した我らが国王に対し、鼻でもほじってると幻視してしまうくらい横柄な和泉がのたまった一言で、この場は混乱の渦へと叩きこまれた。


「えっ? ふつーに嫌なんですけど。なんだってそんな田舎に行かなきゃなんないわけ?」


 ひとつ知った。呆れと怒りが振り切れると、人間笑いがこみ上げてくるものらしい。……いやぁ、このお礼は絶対にさせて戴くよ勇者君。良くもひとんち捕まえてクソ田舎などと言ってくれたものだ。



「宏彰君そんな言い方はないでしょう? 勇者としての務めをどう思っているのです!?」


 そんな百合沢の非難に始まったやり取りは、この場にいるほとんどの人間のギアを3段階ほどすっ飛ばしで向上させた。後に続いたのはとても議論とは言い難いやり取りの応酬である。


「勇者が聞いてあきれるわ」「その物言いは無礼ではないかね」「そうだそうだ」

「だがあの地が田舎であるのは間違いなかろう」「どの口が言うのやら。そちらの領地こそ僻地もへき地ではないか」

「我等が麗しのマゼランに田舎などござらん」「そういう精神論はいらんのだ」「そうだそうだ」「そもそも何をもって田舎と定義する。先ずはそこから話すべきでは?」「だから混ぜっ返すな!」「そうだそうだ」「貴公、さっきからそれしか言っておらんではないか」…………本気で頭が痛い。




「ねぇ、ハインツさん。失礼かもですけど、この国の会議っていっつもこんなんです? 私さっきから”学級会”って単語が頭よぎっちゃうんですけど」


 あんまりなやり取りに頭を抱えていると、思わず口にしてしまったといった絹川に問いかけられた。ってかいつの間に隣に来た。お前の席はあっち。勇者たちの傍だろうが。

 周囲が自分たちに注意を向けていないことを確認して、小声で話しかける。


「誤解のないよう言っておくが、こんなんが日常じゃないんだぞ? いつもはキチンと進行役がいるし、こんな風に話がごちゃごちゃになるこた無い。

 きょうはその。……最初の発言がアレだったからな。いろいろ吹っ切れちまったんだろうさ」


「そんなもんですか。なんにせよ、さっさと終わって欲しいんですけどねぇ」


「同意する。だがまぁ結論は決まってるからな。もうそろそろ終わるだろよ」


 この国の方針として、勇者たちが俺と共にリーゼンに向かうのは決定事項だ。王とのやり取りは最終確認にすぎん。

 要は、勇者たちをどう納得させるかだけの話なのである。予定外だったのは、一向に己の立場を顧みてくれないメリッサ王女までもが同行したいと言いだしたくらい。それだって警備にかかる費用の話で押し込め済みだ。


 ちなみに、あくびを噛み殺しながら俺と話し込む絹川だが、当事者の一人であるはずのコイツに意見を求める者は既にいない。

 皆のボルテージが良い感じに高まり、意見の応酬が互いの人格攻撃にまで及び始めた辺りで、参加者の1人がコイツに話を振ったのだが。


「そうですね。その点トッ○って凄いですよね。最後までチョコたっぷりなんですもん」


 ……という謎極まる返答をかましたのち、誰もコイツに触れようとはしなくなったのである。関わっちゃいけない相手を見抜くのも王宮で生きるに必要なスキルだしな。正常な反応だ。

 しかし、ホントに余計な発言は慎んでもらいたいものである。戦争の火種になるような案件ぶち込まれるのは勘弁だ。


「失礼な。どっちかって言ったら、2大勢力の争いを諫める平和の象徴みたいな発言ですのに」


 ……お願いだから黙っててくれませんかねぇ。




 不毛なやり取りは日が陰り始める時刻になって、ようやく終わりを迎える。

 勇者和泉、百合沢、宇佐美。そして俺と絹川の5名は、僅かな身の回りの世話をする者たちと共に我が領地を訪れることが決定した。


 露骨に乗り気じゃないのも若干名混ざっているがしょうがないだろう。

 俺だって我慢してんだ。贅沢は言わせん。

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