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閑話  『ハインツ様の対勇者行動指針~女神の手先なんてぶっ飛ばせ~』

世界観に対して甚大な影響を及ぼすお話ですので、純粋に物語を楽しみたいという方はとばしていただきますようお願いいたします



時系列的に、3章終了時の閑話です

もう少し後で差し込む予定でしたが、予定を変更して投稿いたします


 ここはいつもの執務室。一人書類に向かっていた俺の元へ、いつもの騒がしい小娘がやってきた。



「ハインツさぁん。今日もあの3人の偵察行ってきましたよん」


「おうさご苦労。どうだった、何か変わったことの1つもあったか?」


「んにゃんにゃ。今日もいつも通りですねぇ。和泉君は剣振り回してましたし、百合沢さんはメイドさんときゃっきゃうふふでした。宇佐美さんは蟻潰して遊んでました」


「3人目から狂気の香りがするがまぁよい。いつも通りならそれでよしだな」


「しっかしですねぇ。私ゃいつまでこんなことせにゃならんです? 流石にこのストーキング行為にも飽きが来ちゃいましたよぅ」


「そう言うな。大事な事なんだ。……よろしい。んじゃ今回は特別に、俺たちの目標についておさらいしておこう。部下、フリップ。絹川、読め」


「え~なになに。『ハインツ様の対勇者行動指針~女神の手先なんてぶっ飛ばせ~』って、あの、女神とかって単語出しちゃってるけど良いんですか? 部下さんいるのに」


「良いんだよ。今回は番外編だから。何も問題はない。良いネ?」


「アッ、ハイ」



「さて、んじゃまずは俺達の目標だが、コイツは段階的に分けてあげられる。

 『大目標 歴史の変革の阻止』この世界が本来歩むはずだった未来を捻じ曲げられるようなことを阻止しようってことだ。これが、大前提となる。

 『中目標 女神の排除』目下のところ、大目標の1番の原因となっている女神の影響を排除しようってことだな。

 『小目標 今起きている異変の解決』具体的に動くのはこれだ。具体的には勇者と言う女神の先兵たちが引き起こす変革。コイツを1個1個潰していく。

 ここまでは良いか?」


「うぃっす。えっと、小目標には和泉君たちじゃなくて、うっかり私たちがやっちゃったことに対する後始末も含まれるんですよね?」


「その通りだ。たとえば、俺はこの国の大臣なんぞやってるが、基本的には中庸で10人並みの政治力しか行使しとらん。なぜなら、俺の思想の根底にはこことは違う常識が流れている。政治的リーダーシップを働かせてこの国に妙な影響を与えるわけにはいかんからだ。基本的に前例踏襲の無難な活動がメイン。大きく口を出したのは、勇者召喚の一件くらいだ。

 そもそもそれなら政治家になんかなるなよって話でもあるんだが、コイツはいずれ語られるべきことで、今話す内容じゃない」


「あれ? 不敬罪はハインツさんが中心になって廃止に持っていったんじゃありませんでしたっけ?」


「俺のこの国での目標は、あくまでもリーゼン地方を掌握することにあるからな。辺境地域の自治的な支配を望んでいた。そのためには中央集権の方向からは一刻も早く脱却してもらいたかったわけで、不敬罪の廃止はその布石だな。

 もともとこの国は、俺が来た時点で絶対君主制から緩やかな立憲君主制に移ろうとしていた。イギリス型の議会制君主制に進むのも歴史の流れとして自然だ。俺がやったのは、既に出てきていたその手の方策を後押しした程度。俺が音頭取ったわけじゃない。

 この王国では、不敬罪を廃止することで王族を絶対的な存在とみなす風習にとどめを刺されたんだ。いわば昭和天皇の人間宣言みたいなもんだな」


「……もはや突っ込むのもメンドクサイですから、いろんななにがしはスルーで。

 とにかく小目標である今起きている異変の解決が、私たちのやるべきことだってのはわかりました。

 でも、なんかめんどいですよねぇ。いちいち見張って、何かやりだしたらそれを阻止するって」


「しょうがないだろ。それに、お前らの浸食行為ってのは見極めが重要なんだ。コイツも段階で話してやろう。

 まず一番緩やかな影響。それはお前たちがここに存在するってことだ」


「えっ? 居る時点で浸食してんです? 誰とも話ししなくっても?」


「たりめぇだ。お前がここにいる時点で一人分多くエネルギーの消費と生産が行われている。それが大局に影響を及ぼさないと言いきれるか? バタフライエフェクトって単語くらいは知ってんだろ?

 それに、勇者が居る。勇者が来たってだけでそれを知った人間の意識にバイアスがかかる。これによる歴史の変化は正直なところ予測できん。多岐にわたり過ぎるんだ」


「ぅわあ。それじゃ、究極的には私たちが召喚される以前の段階でこの世界に影響を及ぼしちゃってるんですねぇ。概念すら許されない、と」


「まぁ、お前たちがフィクションだったらただのおとぎ話だからよいんだが、あいにくお前たちの存在は実在だからなぁ。とにかくこの段階はスルーってことだ。

 まぁ良い。次に緩い影響は、第3章6話で話した内容」


「えっと、私たち違う価値観の人間と接することで、その人に及ぼす変化ですよね」


「とうとうメタ発言すらスルーしたか。まぁ良い。これに対しての見解もすでに伝えたな。俺はそれを否定はしない。なにせここは召喚魔法の存在し得る世界だからな。それすら否定するんじゃ話にならん。文字通りの意味で、な」


「おかげさまで私がここにいることを受け入れてもらいましたから、私はそれで嬉しいんです。あの時強く押してりゃコロッと行ってたかもしれませんよ?」


「ご遠慮被る。その気はない。

 んでだ。次が、勇者たちが具体的な変革の示唆を与える。だ。これが非常にメンドクサイ。

 たとえば、こんな会話が繰り広げられたとする」


和泉「あ~毎日修業ばっかでやんなるよ。なんかゲームとかないの?」

王女「ゲームと言われましても、例えば?」


「あつ、これってあれですよね。ここでリバーシとかトランプとかのアイディア出して、文化侵略無双に持ってく奴。私知ってんだ」


「正解だ。だがここでトランプを出したとして、反応として予想されるのはこれだ」


Aルート「まぁ、そんな単純な道具でこんなに多彩な遊びが。流石勇者様は発想の宝庫やわぁ」

Bルート「あぁ、プレイングカードですか。それなら買ってこさせますね」


「テンプレだとAルートですけど、Bルートの可能性も十分ありますよねぇ」


「その通り。そもそもトランプなんてその起源が古代エジプトだの6世紀インドだの諸説あるんだ。この世界に似たようなもんがないって考える方がおかしい。そこまでストイックに娯楽を無視する存在か? 人類ってのは。

 だからこの場合Bルートが普通の反応なんだが、コイツも時代によって発展度に違いがある。日本人に馴染みの深いトランプタロットカード変化説を採用して、話広げるとこうなる」


和泉「あぁ、似たようなものはあるんだ。でも随分原始的だな。だったらこんな風に簡略化すればもっと遊びが広がるぞ」

王女「すごい。複雑な大アルカナ小アルカナ78枚のカードの内、小アルカナ56枚に似た4組13枚と1~2枚のジョーカーを組み合わせることでこんなに遊びに適したカードに。さっすが勇者様は想像の打ち出の小づちやわぁ」


「説明有難うございますって感じですね。これはマズイっちゃマズいですよね。具体的な製品を生み出しちゃってますから」


「その通り。たとえば、ここで現行あるプレイングカードを使って大富豪を始めたり、中学2年生が良くハマるみたく投げて遊んだりするなら文句はない。もちろん、それが正当な遊び方だなんて言い出して正当ルールを発布するなんてはじめたら話は別だが、単純な使い方程度なら好きにやっててくれって話だ。

 だが、既に原型があるからと言ってそれの発展形を安易に発表されるのは困る。なぜなら、それが一度出されるとそれ以外の発展形への派生の芽が潰されるからだ。トランプの話でいえば、1デッキ52枚のセットが正当なものとして広まると、イタリア式40枚デッキやロシア式36枚デッキなんてものの発生が阻害される恐れがあり、それによる影響は甚大だ」


「むしろプレイングカードにそこまでの種類があるとは思いませんでしたよ」


「どっかの誰かも、調べて『あぁ、こりゃ無理だ。安直に扱うもんじゃねぇ』って断念したらしい。何にせよ、止めるべきはこの時点からだ。

 具体的なナニカの作成を示唆する。今あるモノの発展形を示す。ここいらが止めるべき事案だな」


「具体的なナニカってことは、例えば数学的な公式とかも含まれます?」


「そうだな。それらのアイディアもいずれこの世界の誰かが行うはずだったかもしれない以上、そいつの剽窃は認めたくない。だが、世の中天才って種族は何から着想に至るかわからんからな。直接的に指導しない限りは無視してよかろう」


「リンゴ落ちたの見て物理法則の根源に気付く人もいますもんね」


「それは後世の創作って話だがな。まぁなんにせよ、そういう発想なんかもアウトってことだ。だから俺は自分のやってる魔法の使い方を誰にも教えてないんだしな」


「ハインツさんの物理法則に基づいた魔法の使い方を教えちゃったら、その時点で自然科学の歴史が変わっちゃいそうですもんね」


「そゆこと。だが、発想の大元になる心得とかは良いんだからな。お前の接客に対する心得とかな。アレを許可したのは、具体的なテクニックに一切触れなかったからだ。むしろ、そこが限界ぎりぎりのラインだと思ってもらおう」


「らじゃっす。しっかしやっぱりめんどいですねぇ。いっそのこと根本的に対処したくなりますよぅ」


「勇者3人を排除ってのは、現状却下だ。今後語る機会があるかもしれんが、それは出来ないとだけ言わせてもらおう。

 それに、前もって奴らの行動を阻止することもできんのだ」


「なんでです? どんなことをするかの予測くらいは立てられるんですから、そこに布石を打っておくことは出来るんじゃ?」


「確かに、な。だがその布石を打つという行為が、後の歴史に影響を与える可能性をお前は見落としてる。

 既にあるものを保護しようとすることは、逆を言えばそこからの発展を阻害する。もちろん、勇者たち以外が行う発展のな。

 全く新しい発明を防ぐのも、下手に邪魔をすればいずれ生まれたかもしれないそれの誕生にとっての弊害となる。だから、俺達ができるのは、勇者たちによって何かが生み出された後で、そいつが世に出回ることのないように闇に葬るってのが基本方針だ」


「後出しで邪魔し続けるしかないってことかぁ。あぁ、だからハインツさんは、毎日勇者たちを偵察して、妙な事を始めないか監視させてるわけですね?」


「そゆこと。そしてそいつは俺が自分でやるには問題があり過ぎる。俺は基本的に勇者に否定的立場で通ってるし、王女にも嫌われてるからな。変に近づけばそれこそ政治的に妙な立場に立たされかねん。

 妥協案として、お前と言う注目度の薄い勇者モドキに監視任務を任せているわけだ。影からこそこそ見張る程度なら俺の配下で何とでもできるが、勇者のそばにいても不思議ではない人間で、より直接的に情報を引き出せるのはお前くらいしかいない」


「勇者モドキって単語にゃ引っかかりますけど、お役に立ててるんならそれで良いですよぅ」


「というか、お前にしか頼めん。充分役に立ってるぞ。

 さっきも言ったが勇者には後手に回るしかないのが正直なところ。である以上何をするかの監視は一番重要な仕事だ。俺達の行動がうまくいくかどうかは、全てお前にかかっているといっても良いくらいだ」


「ぅおお。責任重大っすねぇ。わっかりました。頑張っちゃいますよぅ」


「あぁ。頼んだぞ。お前は俺のパートナーだからな」


「うぃっす! んじゃその大事なパートナーちゃんに、ちょいっとご褒美くださいな。こないだ街でよさげなお店発見したんですよ。どうせハインツさんも晩御飯まだでしょ?」


「しょうがねぇなぁ。あんま高いとこは勘弁してくれよ」


 そして俺たちは晩飯を食いに執務室を後にした。


 いつか、俺がどれだけこの少女に助けられているかを語る時もあるだろうか。

 自分にとっては何の得もない、この世界を守るという行為に巻き込まれ、それでも俺のために動いてくれるこの少女に対する感謝を。


 だが、それはそれでまた先の話だ。今はただコイツと過ごす時間を楽しもう。

 どうせすぐ次の問題はやってくる。

 世界のつじつまを合わせる日々は続くんだ。

 勇者が存在する限り。

 異世界の知識を持つ誰かが、この世界にいる限り。

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