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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第一章  自称、紳士的なハズだったオッサンが本性現すまでの一部始終
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02  『黒目黒髪の替え玉なんてこの国にゃ居やしねぇんだよちくしょう』

 俺は執務室に戻り、自分の席に着く。

 デスクの肘掛け椅子に座ったとたん、気が抜けたのか思わずため息をついていた。流石大臣の執務室に置かれる調度とされるだけはある。ふっかふかの座り心地がたまらん。


 先ほど勇者の報告をしてくれた、腹心の一人がお茶を淹れてくれる。




「ハインツ様。勇者の件は如何なりましたか?」


「とりあえず保留だ。内密に処理してしまえればよかったのだが、お披露目まで済んだのではどうしようもない」


「申し訳ございません。私共でお止めできればよかったのですが」


 この忠実な部下たちは、俺が不在の間に勇者を引き連れ市街に出向こうとする王女を水際で止めようとしてくれたらしい。俺が勇者召喚に否定的であったことを知っているが故の行動だろう。感謝こそすれ、責める気などさらさら無い。


「相手が王女殿下ではどうしようもなかろう。それにお前たちがお諫めしたからこそ、城内でのお披露目程度で済んだのだ。むしろよくやってくれた」


 そう。昨日王との謁見を済ませたその足で、王女は勇者どもに城下を案内しようとしたらしい。んなことされたら街中大騒ぎになること必至だ。後先考えずに行動するやつというのはコレだからタチが悪い。……ったく、城内の統制すらまともに取れていないというに。



 王女の安全の不備を部下たちが訴えてくれたおかげで、一行は城門を越えることができなかった。代わりに城内の練兵所で訓練中だった近衛騎士団にお披露目されてしまったのである。

 いくら王家に忠誠を誓った近衛騎士と言えど、多数の人間の口に戸板を立てることは出来ない。数日とせず国中に勇者の存在は知られるだろう。


 直に顔を合わせてお披露目されたせいで、不特定多数の人間に勇者の人相を知られてしまった。おかげでこっそり亡き者にして、こっちの手勢とすり替えるという手段を採ることもできない。似たようなヤツを探そうにも、黒目黒髪の替え玉なんてこの国にゃ居やしねぇんだよちくしょう。


 あぁそうだった。国中に知れ渡るのが秒読みという以上は、諸外国へ知られてしまうのも間近だろうなぁ。勇者なんて過剰戦力の保有、どうやって納得させりゃ良いんだよ。

 あんなん保持してるなんて、他所が黙ってるわけが無い。どう考えたっていずれ内政干渉される火種じゃねぇか。




 そもそもだ。俺の不在を狙ったかのようなタイミングでの召喚がきな臭すぎる。


 先だっての閣議で、召喚反対派の筆頭は紛れもなくこの俺だった。

 言っても、容認派と真っ向から対立して反対表明したわけではもちろん無い。だが両陣営が多数派工作の最中に、一番強固に自陣と対立しているのが誰なのかを探るなんて、政治の世界じゃイロハのイだからな。当然、悟るヤツはいる。


 その閣議で否決された方策にもかかわらず、俺がいない間に召喚を敢行。しかも表立って処罰するわけにもいかない王の一人娘を矢面に立たせて、だ。誰かが糸を引いたのは疑いようが無い。



 今日の反応から見てアルスラ教が一枚かんでるのは確実として、他にも複数が暗躍してやがるのは間違いないだろう。

 さらっと考えて、軍閥の中でもグランプ将軍は除いて良い。縄張り意識の激しい軍属が、自分たちの席を脅かしかねない勇者を許容するとはとても思えん。今日もそんな感じだったしな。

 逆に近衛団長辺りは怪しいな。市外に出られなかった勇者たちを誘導して、わざと騎士団に引き会わせた可能性がある。心の要チェック表に記しておこう。


 ……さて、信頼できるのは他に誰だ?




 考えれば考えるほど増えていく、余りの懸念事項の多さに思わず頭をかきむしる。クソっ俺の毛根にダイレクトアタックとは、勇者め、効果的な攻撃してきやがる。


「なんにせよ、一度そいつらの顔を拝んでおきたい。今はどうしている?」


「現在、勇者たちは王女と共に学習中だとのことです」


「勉強!? 王女がか? 今日は槍でも降るのか?」


「王女自らギリスタック様に願い出たようです」


 勉強嫌いで有名なあの王女が、ねぇ。

 大方、勇者どもに良いトコ見せようとでも思ったのだろう。いつも教鞭をとっているギリスタック魔道士長の喜ぶ顔が思い浮かぶ。あのガキゃなんだかんだと勉強から逃げたがるって、あの爺さんは嘆いてたからな。


「ギリスタック魔道士長が講義中という事であれば、場所は師の研究室か。あそこならば問題なかろう」


「日頃懇意にされているハインツ様が訪れても不自然ではございませんね」


「げに持つべきものは話のわかる友人、というヤツだな」




 心労を包み込んでくれるこの椅子の座り心地には後ろ髪を引かれるモノがあるが、余計な茶々を入れられない環境で勇者たちと会えるコトのほうが重要だ。


 執務室を出た俺は、場内の一角に設けられた魔道研究所の一室。魔道士長ギリスタックの下を訪ねる。


 まずは勇者どものツラを確認。できれば人となりも探っておきたい。



 そのまま元の世界に帰るように説得できれば一番なんだがなぁ。勇者本人が帰りたいと願えば、いくら強硬派といえども帰還に応じないわけには行かない。勇者の意志とはそれだけ尊重される物なのだ。


 それに、いくら異世界までこの国の法が届かないとはいえ、召喚なんて人道的に言えば誘拐でしかない行為。俺たち召喚反対派が後押しすれば、たとえ王が在留を望もうとこの地に勇者を留めさせることはできんだろう。


 頼むぞ勇者。

 せめて常識的な判断が可能なくらい、良識ってヤツを持ち合わせていてくれよ。

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