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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第一章  自称、紳士的なハズだったオッサンが本性現すまでの一部始終
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01  『聖なる乙女なんて響きにゃ民衆は弱いからな』

「セバス国王陛下。なにか私に言いたいことがあるのではございませんか?」



 俺は玉座に座る男に向け問いただす。眼前に居る中年太りが、このマゼラン王国を統べる王、マゼラン国王セバスその人である。


 辺境伯という爵位を持ち、かつ王国大臣の一人である俺は、ここのところ北部山岳地帯で新たに発見された鉱山の視察に赴いていた。3週間ぶりに帰還した俺に対し、国王はその労をねぎらい数日の休暇を約束してくれた。

 往復の旅程で2週間。視察に1週間の強行軍だったのだ。休みをくれるというのは確かにありがたい。ここ数か月は収穫後の納税の時期でもあり、ゆっくりする時間なんてなかったからな。


 だが、俺の聞きたかった言葉はそれじゃない。再度言葉に威圧を込めて国王に尋ねると、コイツは目に見えておどおどし始める。ったく、これだから小心者は。




「リーゼン伯もすでに聞き及んでいる事と思うが、一昨日、勇者召喚が行われた」


 いつまでもモゴモゴと口を割らない王に嫌気がさしたのだろう。列席していたグランプ将軍が告げた。この男は思考回路に筋肉を介入させるタイプの人物ではあるが、道理のわからぬ男ではない。

 

 王との会話中であるにもかかわらずかけられた声に、俺も身体を向ける。将軍も俺も、不敬であることは承知の上だ。その場にいた国家首脳部の面々からも、咎める声はあがらなかった。


 この国は王制ではあるが絶対君主制では無い。

 もちろん王は敬われ、尊ばれてはいるけれど、その存在が畏怖されているわけではなかった。国家の方針に対する最終決定権は王にあるが、俺たち閣僚を無視して国を動かす事はできない。何が何でも王を盛り立てなければ廻らないような国ではないのだ。


 だから状況さえ許せば、こんな風に王をそっちのけで議論を交わすことすらできるのである。


「グランプ将軍。勇者召喚に関しては、先日の閣議で封印することが決まったはずではなかったか?」


「その通りだ。だが、その存在がメリッサ王女に漏れていたらしい。王女の独断で行われてしまったのだ」



 将軍は誰の目にも明らかなほど憤懣やるかたないといった態度だ。あぁ、コイツも勇者が気に食わないんだろう。そりゃそうだ。自分たち軍部が役立たずだって言われたようなもんだからな。


 諸外国に対する備えや治安の維持、そして不定期に発生する魔物の討伐には十全に効力を発揮しているマゼラン王国軍だが、魔族に関してはここ数十年まともな戦果がなかった。

 それもそのはず。軍が攻める前に、俺がこっそり魔族に避難警告出してるからな。たまに狩られる奴もいるが、ありゃ魔王の命も無視するはぐれモノ。人族の野盗と変わらんのだ。流石にそんなのまでは守りきらん。



「そのようなおっしゃりようは如何かと。王女殿下も国を憂いての事でございましょう」


 俺たちが話しつつ王に白い目を送っているところで、この国の祭事を取り仕切るアルスラ教の司教、ホロン枢機卿が口を挟む。


「実際、魔族との間に軋轢があるのは確かなのです。それを排除し王国千年の安寧を願ったとて、なにを責められましょうや」


 確信する。アホ王女を唆したのはコイツだ。よく考えれば、あの王女が一人で勇者召喚なんて大それたことを敢行できるわけがない。大方アルスラ教の影響力を強めるための方策だろう。生臭坊主が余計なことしやがって。

 こんなことになるのなら、もっと早く政教分離に手を付けるべきだったのかもしれん。歴史的にデリケートな問題だからと様子見していたのが仇となった。


 召喚されたのは男が1匹と女が3匹だと聞く。おおかた雌のいずれかを聖女にでも祭り上げようって腹なんだろう。異世界より神に遣わされた聖なる乙女なんて響きにゃ民衆は弱いからな。神輿にできれば寄付金もあがると踏んだか?



 魔族との軋轢とかなんとか言ってやがるが、そもそも俺が魔王となってからこっち百年、魔族が人族の国に攻め入ったことなどないんだぞ。それに加えて、辺境伯の地位を手に入れてからは、魔族がらみでうっかり被害が出た国民が出た時には、立場を利用して十分な援助をするようにしている。

 そりゃたまに小さな村を襲うバカが出てこなくもないが、そんなん人族同士だって起こる。国全体としてみれば、むしろ人族の野盗なんかの方がよっぽど被害がデカい。


 この俺が辺境伯として、魔族領に隣接した領地であるリーゼン地方を治めてる以上、この国と魔族との間に無駄な戦争なんか起こさせねぇ。今まで通り相互不可侵を貫かせてくれ。



 しかし、これ以上コイツ等と論議を交わしていても無駄だな。手っ取り早く王に裁定を促してしまおう。


「志がどうあれ、一度決まった国策を無視して良いという法はございませんでしょう。為政者が法を軽んじれば鼎の軽重を問われるというもの。王はいかがお考えか?」


「と、とは言え。我が娘を罰するわけにもいくまい。アレはあれで国のことを考えてだな――」


「陛下っ!」


「わかった。わかったからそう怖い顔をするな。して、そなたはどうすべきと思うのじゃ」


「この際、王女殿下に関しては謹慎・叱責程度で良いでしょう。ですが勇者とされる者たちは一刻も早く元の世界に送り返すべきです。その存在が明らかになれば、何処に軋轢が生じぬとも限りません。

 幸い送還と召喚は表裏の呪法。国民に勇者の存在が漏れぬうちに、内々にて処理してしまうのが一番にございましょう」


 そう、この国に存在するのはよく聞く一方通行の召喚などではない。呪法の行使に必要な魔石で多少の経済的損失はあるが、その勇者とやらが余計なことをする前にさっさとお帰りいただくのが何より被害を抑えられる。

 今ならまだ実害はない。怒りで俺の血管が切れそうにはなったがそれくらいだ。



 だが、次の一言が俺のこめかみに更なる攻撃を加えた。


「そのぅ……。実は、既に昨日のうちにお披露目を済ませてしまったのじゃ」


 コイツら、マジで碌なことしやがらねぇ。

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