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いやいや、チートとか勘弁してくださいね  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)  作者: 明智 治
第二章  青少年の健全な育成における突出した戦力の有害性とその対処
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09  『とんだマッチポンプ野郎ですねぇ』

 洞窟での戦闘から一昼夜経過した今、俺は朝議を終え自室へと戻ってきた。


「あっ。やっと帰ってきましたねぇ。待ちくたびれましたよぅ」



 この部屋にいる部下たちには、確かに俺が魔族だということを明かしてはいない。だがそれでも長い付き合いがあり、ある種の信頼関係というか……絆のような物を結べていると思っている。


 だのに部下たちよ。何故に部屋の主に断りなく不審人物を入れている。あまつさえニコニコお茶を淹れるとはどういうわけだ。お前ものんきにおかわりしてんじゃねぇ。




「ですから~。すっごい大変だったんですよあの後。もぅ、皆していろいろ聞いてくるし」


 来客向けのソファーに身を投げた小娘がぼやいている。バタバタと足を振るな、みっともない。

 俺を待ち構えていた絹川は、そのままこの部屋に居付いている。そしてこの多忙にして怱々(そうそう)たるリーゼン伯ハインツ候が、延々その愚痴を聞かさせられているのだ。


「ちょっと、聞いてますか私の話。ってか普通あの状況で先に帰ります? 薄情ってレベルじゃないでしょ」


「聞いている。というかさっきも聞いた」



 あの場から身を隠した後、俺は念のため絹川と勇者一行が合流するのを見届けてから、王都に戻った。


 勇者とはいえ公的には一般人であるコイツとは違い、貴族の、しかも上位支配階級に属する俺が何の届けも出さずに都の大門をくぐるのは許されない。翻意を疑われかねないからだ。


 である以上、こっそり出たからには、同じくこっそり戻らねばならない。自動的に絹川含めた勇者一行と一緒に帰ることはできなかったのだ。やつ等に同行するならば、俺が身分を偽ったままでいるわけにはいかないし、そうなれば門をくぐる際に面倒なことになる。


 だからコイツを置いて一足先に帰還したわけなんだが、そいつがどうにもおかんむりのようだ。一応安全は確認してから戻ったのだし、そこまで文句いわれるようなこっちゃないと思うんだがなぁ。




「もぅ最悪でしたよ。騎士さんたちはイロイロ聞いてくるし、和泉君はムスッとしてるし。百合沢さんは落ち込んでて暗いし宇佐美さんは空気読まないしで雰囲気最悪。だいたいなんですかあのおっぱいオバケ。喧嘩売ってんですか!」


 勇者どもに関しちゃ俺のせいと言えなくもない。自信やらなんやらベキベキにしてやったつもりだしな。あと最後のローザリアは、俺関係なくねぇ?



「状況説明をお前に丸投げしてしまったコトについては、俺も悪かったと思っているんだ。

 ……実際、不安ではあったし。大丈夫だったか?」


「おぉ! 心配してくれてたです?」


「あぁ。一応、一応は協力関係にあるといえ粗忽者のお前の事だ。妙なことを口走ったりして、疑念の種振りまいてこられては迷惑だ。今後に差し支えるからな。

 実際不安だったし。大丈夫だったか?」


「同じ台詞なのに有り難味がまったく無いっ!」


 なんにせよ、絹川は上手く追及を誤魔化しきったようだ。コイツが俺の所に入り浸っているのは、甚だ不本意ながら既に周知の事実だ。ソコからの流れで、俺の指示に従って勇者一行の救援に向かったというのも不自然ではない。


 例の魔族封じの宝珠(仮称)にしたって、勇者召喚に批判的であった俺ならば、勇者に頼らず魔族に対抗する手段を求めた結果手に入れていたという言い訳がたつ。効果に確証がなかったから上に報告しなかっただけと言えば文句も出ない。



 一番の不審点は、何故勇者一行の窮地に気づくことができたのかってコトなんだが。これも絹川の勇者的大六感が働いたのだとでも言い張っていれば良いだろう。

 なぁに、立証はできんが否定する材料もないからな。信じてもらえなくてもこの際は問題ないのだ。




「でも、あの3人。……っていうか泉君と百合沢さんですけど、大丈夫なんですか? めっちゃ不安定でしたよ」


「そこまで荒れてたか?」


「騎士のお2人を役立たずってなじったり、物に当たったりで大変でしたねぇ。もちろん和泉君が、ですけど。百合沢さんも止めようとしないからますますエスカレートっちゃって」


「ヤツにしてみれば、この世界に来て初めての思い通りにならない状況だろうからな」


「それにしたってあそこまで荒れるのは無いでしょ。反抗期かっての」


「思い通りにならずに癇癪を起こすというのは、要は泣いたらママが甘やかしてくれるってのと同じシステムだからな。特殊状況下で抑圧された精神が、一時的な幼児退行を起こして自己の防衛を図ったんだろう。

 直接原因作った俺が言って良い台詞じゃないが、そう責めてやるな」


「あれま。ズイブンお優しいことで。ハインツさんはあの人嫌いなんだと思ってましたよ」


「嫌いさ。勇者だからな。とはいえ先人としては、若者の失敗をなじって終わりってのも情けないだろ」


「そんじゃ、何かフォローしてあげるんですか?」


「いいや、何もしない。だが、ヤツが今回のように増長した道に進みそうになったら殴って止める。何度でもな。それ以上の事は誰かやりたいヤツがやれば良い。俺ゃアイツの親でも師でもないんでな」


「優しいんだか厳しいんだか……。ま、私は関わりたくないですねぇ。あの人の自信満々な感じって苦手なのです」


「そうなのか? ツラは良いぞ」


「見た目でお腹は膨れませんよ?」


「別の意味で腹が膨れるヤツは大量発生しそうだがな」


「…………滅しろ、エロオヤジ」




 なんにせよ、この一件が騎士団内で知れ渡れば一般騎士たちの勇者に対する期待は薄れるだろう。


 突出した力ってのは、大体の場合において有害だ。それが目に見える形の物であれば尚更。しかもその毒は、力の持ち主よりも周囲を惑わす場合が多い。


 全能感に酔った馬鹿というのもフィクションでは良くある話だが、実際にはソイツを持ち上げるヤツが居て初めて起こる事態だ。『君ならできる』『君しかいない』そんな言葉の誘惑に勝ち続けられる程、精神的に強いヤツなんて、滅多に居ないからな。


 少なくとも今は、勇者たちの軍事力に対しする求心力が上がらなければそれで良い。一部のはねっかえりが勇者頼みに威圧外交しようとしても、内部でそれを自粛する声があがるだけの環境を維持していきたい。



 人族として見たときに、勇者の力は圧倒的。削減する方法も今は無いのが現状だ。だが、誰もにソコに注目しなければ、利用されることはない。

 世界の中心で孤独に俺tueeeと叫んでる分にゃ、誰にも害は無いからな。

 ガキが調子に乗りそうになったら、また適度にへこませてやれば良い。それが大人の役割だ。




「そいえば……。和泉君はそれとして、百合沢さんがハインツさんトコにお邪魔したいって言ってましたよ」


「何の用だ? 今はまだあまり接触したくないんだが」


「ホラ。一応あの人達にとっては、今回ハインツさんのおかげで助かったような物じゃないですか。だから、お礼が言いたいんですって」


「まぁ。そういうことなら拒否するわけにはいかんわな。気にするなと言ったところで気にする性質(たち)なんだろう? アイツは」


「みたいですねぇ。 

 ……しっかし、ハインツさんも悪ですなぁ」


 いきなりニヤニヤと気味の悪い顔でこっちを見てきた。なんだ? 普通に気持ち悪い。ってか、なんだか恐怖を感じるんだが。

 デスクに座る俺の横ににじり寄り、わき腹を突っついてくる。うぉっ、ゾクっとした。やめんかコラ。



「悪者に襲わせてぇ、ピンチになったところで助けを入れる。んで、感謝の気持ちに付け込んで手篭めにするんでしょ? とんだマッチポンプ野郎ですねぇ、ハインツさんは」


「人聞きの悪いこと言うなっ! そんなつもり毛頭ないわ」


 いや、まぁ。確かに結果をみればそういうコト狙っていたように見えなくもない。けれど現時点で百合沢までこっちに引き込もうとは思ってないぞ。まだ考えが読めないし、コイツを引きずり込んだ時のような差し迫った理由もない。

 それに今百合沢を引き離したら、誰が残り2人のストッパーになるんだ。俺は嫌だぞ、ブレーキ無しの暴走カップルの相手なんて。



「そです? でも、さっきのセクハラ発言じゃないですけど。美人さんですよ? 百合沢さんって」


「見た目じゃ腹は膨らまんのだろ」


「別のトコは膨らむ…………ってぇ! なぁに言わせようとしてんですかっ。変態っ! 色欲魔人!!」


「……全力で濡れ衣だ」


 顔を真っ赤にしてボディを連打してきやがる。片手で捌けちゃいるが良いパンチ持ってんじゃねぇか。


 デスク上のお茶が振動で零れそうになるのを、出来る部下が慌てて退避させている。キミキミ、それよりも至急対処すべき問題が他にあるんじゃないかね? 敬愛する上司が狼藉はたらかれてんだぞ。



 しかし、凶悪な暴行犯を止めてくれたのは頼みの綱の部下たちではなかった。騒がしい室内に無機質なノックの音がする。



「失礼します。こちらがリーゼン伯爵様のお部屋で間違いありませんか?

 百合沢と申しますが、ハインツ様にお目通り願います」

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