~召喚女の場合~
私の名前は絹川 小友理と言います。高校2年生です。いえ、高校2年生でした。
数日前のある日、私は図書館で勉強中でした。定期テスト直前の大事な時期でしたので、とても勉強のできる環境ではない家には帰らず、静かな図書館で集中しようと思っていたのです。
図書館の自習スペースで教科書を広げていると、学内でも有名なイケメンである和泉 宏彰君が、その恋人と噂される2人の美少女を引き連れてやってきました。
長くつややかな黒髪と雪のような肌の百合沢 美華子さん。明るくふわふわな髪に愛くるしい笑顔の宇佐美 梓さん。タイプは違えど共に超絶級の美少女と現れた和泉君は、隣のブースで勉強を始めます。
つまらないと甘える宇佐美さんと、それを咎める百合沢さん。そんな彼女らを諫めつつ、だだ甘な雰囲気を醸し出す和泉君。
正直言って邪魔でした。いちゃつくなら他所でやって欲しいと思います。僻みと思われるのがオチですので言いませんけど。
どうせ集中できないのなら今日はもう帰ろうか。そんな風に考えたその時でした。私たちは突如として強い光に包まれたのです。
そして私たちはこの世界に呼びだされました。急に足元が光ったと思ったら、目が慣れたときには一面真っ白な世界。
ふと気が付くと、私たちの前にはびっくりするくらいの美女が立っていました。彼女は言います。私たちは勇者である、と。
これってアレでしょうか?物語の中なんかでよくある、異世界に勇者が召喚されるというヤツ。とすると、この美女は……
「貴女はいったい……?」
和泉君が、後ろ手に他の2人を庇いつつそう尋ねます。こういうさりげに女の子を守るしぐさが、彼の人気の秘訣なのでしょう。もっとも私は庇護対象に含まれていないようですが。
「私は女神アルスラエル。あなたたちが向かう、フィードランドの神です」
なるほど神様でしたかそうですか。彼女は異世界に召喚された私たちに手助けをするために、召喚の途中でこの場に呼んだのだそうです。
私たちが呼ばれた世界『フィードランド』はいわゆる剣や魔法が存在し、魔物や魔族といわれる人の敵がはびこる世界らしいです。
そして私たちはその世界における大国の1つ、マゼラン王国の王女により、魔族から人々を救う勇者として召喚されたそうです。どうして私たちだったのか?という質問には答えてくれませんでした。きっと誰でも良かったのでしょう。
予想外だったのは、元の世界に戻ろうと思えば戻れると言うこと。召喚と送還の秘術は対になっているので、望めば帰してくれるだろうと言うことでした。
「それじゃすぐに帰して「わかりました。僕たちでお役に立てるなら」
私の訴えは彼女のお気に召さなかったようです。かぶせるように言う和泉君の言葉にのみ、女神さまは反応します。
「世界を浄化する運命を背負うあなたたちに、私からささやかな祝福を送りましょう」
そう言って女神様は力を授けてくれました。言葉や文字を理解する力。身を守るための身体能力。普通の人の何倍もの威力で魔法を扱う力。そして、1人1つずつの特別な力。一応、私にも同じような力が与えられたのがわかりました。
「魔族は狡猾で、そして何よりも邪悪な存在です。世界に蔓延る忌まわしき存在から、どうか我が愛し子たちを救ってください」
女神様は最後にそう言って、私たちを送り出します。和泉君を筆頭にした3人は誇らしげに女神様に応えていました。
次に気が付いたときには、私たちは見知らぬ石畳の上に寝ており、今度は豪華そうなドレスを纏った美少女と西洋の鎧姿の大人たちに囲まれていました。
美少女さんは、どうやら私たちを呼び出した王女様だったらしく、興奮気味に私たちを歓迎してくれました。
王女さんのお話は省略しますね。女神様のお話と大体おんなじでしたから。
その日はそのまま宛がわれた部屋で過ごし、次の日に王様との謁見。またも同じような話を聞かされます。喜色満面といった王女様とは対照的に、周りの大臣さん達が厳めしい顔つきだったのが気になりました。
「僕たちにお任せください」
昨日から王女様にチヤホヤされまくった3人は、そんな大人の前でも堂々としています。
そして私たちは名実ともに世界を救う勇者という役を負わされたのです。
私の意志? もちろん黙殺されましたよ。そもそも私に意見を求める人なんていませんでしたからね。