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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BLゲームの女モブって

作者: 水谷 あき


 突然気づいてしまった、自分の立場。

 名前さえ出てこない主人公を追い詰めるこまのひとつ。




 初等部からある名門校である白桜はくおう学院。

 持ち上がり組みはなんとなく互いのことを把握していて惰性である。

 その中でも、由比沙菜子は熱心な戸田昌純ファンという認識だけだ。それでも、相手にされていない。誰もが、持ち上がり組みの優秀な彼らに憧れている。

 ただ、沙菜子は少しでもと希望を抱いて、昌純に純潔を捧げていた。嘘をついて始めてであることがばれても昌純は最後までとめずに、沙菜子のプライドと勇気を護ってくれた。優しさを再認識した。けれど、それ以来は続かず、ろくに目もあわせてくれない。やはり、嘘をついたことが減点だったようだ。

 近づくことも出来ずに、見守るだけ。

 そんな女子生徒が殆どだ。


 沙菜子は高等部に入り4月のうちに一週間休むほどの高熱にうなされた。

 過保護な兄と弟が様々なグッズ(のろい解呪とか、のろい除けとか)や怪しげな薬を日参するので、違う意味でも頭が痛かった。

 しかし、そのうちのどれかが利いたのか、思い出してしまったのだ。前世の記憶、というやつを。

 妄想?

 それが一番しっくり来る。

 だが、あまりに鮮明な記憶に混乱した。その記憶にはこの世界のことがあった。

 キラリ☆恋学園、蝶への羽化

 というべたなタイトルは明らかに乙女ゲーだ。しかし、ここは前世の記憶のとおりならBLゲームのはず。主人公はすぐに苛めのターゲットになっていた、木梨蓮。

 女の子もびっくりの小顔で可愛らしい少年だ。編入組なので相当に頭がいいはずなのにとても鈍い。それを面白がって彼らが弄りかまうから、面白くない持ち上がり組みのファン達が嫌がらせをしている。それを放置していた自分も同罪だとは思っている。

 そんなことをしても近づけないから自分は手を下さないが、泣きそうになっている顔はあまりに可憐で腹が立ったのは覚えている。

 主人公は女にトラウマがある。だからといって男になびく様子もない。だが、これだけ魅力的な男達に熱烈に求められて悪い気はないだろう。

 そして、私が大好きだったとくに中等部に入ってからは盲目だった昌純はくるもの拒まずのやり放題キャラで、攻略対象の一人だ。そのキャラ背景のための一人で名前さえ出てこないのが自分だと認識した沙菜子は自分の無駄な情熱に一気に急降下した。

 いや、好きなのは好きなのよ。

 嫌悪なんてとてもじゃないし、ひたすらにあのちょっと拗ねた顔が好きだ。けれど、確実に手に入らない人。遠巻きに見ているのが一番いい。

 幸い、主要キャラの殆どが別のクラスに一塊になっているので安心する。

 関わりたくない。

 自分の今までの恥ずかしい、痛い行動を思い出してしまうから。

「さようなら」

 今までの自分。

 声に出すと実感する。

 あの情熱は自分にはもうない。あるのは現実だ。

 高校生になったから、先は見えてきている。今までサボりがちだった習い事をこなして、社交も出て、勉強だってがんばって、もしかして嫁にいけなかったときのために手に職を就けるのだ。

 朦朧とする中で、そんなことを思った。


 さっぱろりとした気持ちで登校する。

 周囲はいつもと変わらない。

 まだ、馴染みきっていない編入組がいるくらいだ。

 そして、違うクラスなのに聞こえてくる主人公のもてっぷり。あまりに見目がいいために警戒しにくいらしい。

 性格は純真で素直。

 まあ、それほど潔癖な人間はいないだろう。いまのところ、表面的にはというところか。


 ゲームの中では存在感のないモブだとわかれば、あとは自分の人生のために修正をかければいいだけだ。

「っ」

 ゆっくりと歩いていた廊下でぶつかった。押し倒される形で胸が苦しい。座り込んだ沙菜子の胸に顔を押し付けるような少年。

 ギャルゲーか。

 思わず突っ込みを入れたくなる。

「わわわ、ごめん」

 慌てて謝る少年は物凄い美少年。つまりは、主人公だ。起き上がろうとして一体どうしたのか、更にこける。今度こそ沙菜子は背中を打ち付けて顔をしかめる。

「あああ、ごめん」

 必死に謝るなら早くどいてほしい。

 耳まで真っ赤になりながら、謝る少年。それにしても、胸を見すぎと冷静に思う。

 年頃の少年の興味なんてありがちだが、確か女に対してのトラウマ的なもので、苦手だったはず。他の生徒よりもふた周りは大きい胸を重たげに揺らし沙菜子は落ちた書類をまとめる。

「気にしないで、減るものじゃないし」

 あまりの狼狽振りに、こちらが申し訳なくなるくらいだ。

「沙菜子」

 声をかけられた。同じ学校に通う兄だ。心配性な彼は制服を払い、荷物を持ってくれる。そして、主人公をにらみつけた。

「何してるんだ」

「え、その」

「二度と触るんじゃない」

 しょぼんと音が聞こえそうなほどにうなだれた少年。

「大丈夫か、沙菜子」

 抱きかかえて顔を覗き込む兄。

「怖かったな、もう、行こう」

 いや、なかなか酷い扱いですよ、と心の中で突っ込む。

 相手に非があるとはいえ、なかなか酷い。

 通常バージョンの兄のやりすぎ感を呆然と慣れているためにスルーしてしまう。

「えーと、お兄様。生徒会は」

「今日は休みだ。お前を家まで送っていく」

「ちょっと、ぶつかっただけですが」

「ダメだ」

 ため息をついてしまう。過保護すぎてかわいそうな目で見られているなんて気づいていないのだろうか。

 あ、でも、フラグ。

 攻略対象でなくても、かなりの美形だ。作中では生徒会の中でも名前も出てこないがシスコンの副会長といわれていた。十分に主人公の恋愛フラグになったのではないか。シスコンキャラは他にいなかっただろうし。

 本当に、この過保護がなければもっといい男なのにと残念でならない。

 そのおかげで、いろいろと先輩方から一線を置かれているので感謝はしているが。


 現実なんてこんなものよね。



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― 新着の感想 ―
[一言] 続きはないんですか?
[一言] 続きが読みたい‼
[一言] こんなのもありか!と楽しく読ませてもらいました。 続くはありますか? これに限らずお話、楽しみにしております!
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