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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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名ばかりの見張り

「助かったわ、ありがとう」

 傭兵達からある程度離れると、シェリルが小さく礼を言った。リリアンヌはそれを笑い、口を開く。

「絶対、一人になっちゃだめよ。

 少なくとも私と一緒に居てね」

 シェリルがこくこくと頷くと、リリアンヌはまた笑った。嘘がばれやしないかと緊張し続けるのは、とても精神をすり減らす。リリアンヌが側にいてくれるだけでも心強いというものである。


「何だ、もう交代か?」

 近くへ二人が移動してくるのに気が付いたアンドレアルフスが迎えに来たらしい。颯爽と歩く姿は、優雅さと得体の知れぬ恐ろしさを孕んだいつもの彼らしからぬ快活さを演出していた。

 首を傾げながら二人を窺う様子は、人懐こく見える。誰も彼が本当は恐ろしい存在である事に気が付きもしないだろう。


「少し早いと思うけど、だめかしら」


 シェリルの問いに、アンドレアルフスが何かを感じ取ったようだ。珍しく彼の眉間にしわが寄った。

「ん? あいつらに何かされたか?

 もし困ったら言えよ。俺が何とかしてやる。

 傭兵は野蛮なの多いから無理するなよ」

 アンドレアルフスがそう言えば、リリアンヌがシェリルの横で首を縦に振る。アンドレアルフスの言葉は心強いが、何かをされた訳ではない。シェリルは曖昧に笑って礼をしたのだった。




 見張りとは殆ど名だけである。シェリルとリリアンヌは、ただ目の前に広がる大自然を堪能していた。

 元々急ぎの旅である。自然は乗り越えるものであって、楽しむものではなかった。変な噂のせいで狙われる事となったが為に、慎重な行動を余儀なくされた。

 今は傭兵の振りをしてその中に紛れ込んでいるとは言え、ほぼ確実に狙われていないという安心感がある。今襲われても、隊商を狙っての事として傭兵達と一緒に倒してしまえば良い。


 見張りと称して離れた場所にいる時が、野営中のテントの中に四人でいる時と同じくらい、シェリルにとって落ち着ける時間なのである。

 今、シェリル達は拓けた草原のど真ん中にいる。たまにミャクスが遠くを駆け抜けるのが見える。狩りの最中であろう。何を追っているかは分からない事が多いが、さっきは大物を追い掛けていた。

 大型の動物として有名なエランドを狙っていたのである。


 ミャクスの頭脳的な狩りは成功し、哀れな獲物は大地に伏した。自慢の角を使う事なくミャクスの群れに倒れた彼は、大自然の糧となったのだ。

 シェリルはカプリスの街から出なければ見れなかったそれらの光景を目に焼き付けた。




「そろそろ出発するそうだ」

 アンドロマリウスが二人のもとにやって来た。近くに人がいないせいか、いつもと変わらぬ雰囲気である。

 近くに人がいるか関係なく、別人になりきっているアンドレアルフスとは違うらしい。アンドレアルフスは、シェリルが考えている以上に完璧主義者のようだ。


 二人はすぐに立ち上がり、商隊へと歩き出す。シェリルのすぐ前を歩くアンドロマリウスが、独り言のように呟いた。

「何かあれば、俺の名を呼べ。

 可能な限り近くにいる」

「……ありがとう」

 シェリルは少し俯いて、小さく礼を言った。アンドロマリウスには聞こえたようで、頭がゆっくりと上下する。

 そんな二人のやり取りを近くで見ていたリリアンヌは、目元を綻ばせた。

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