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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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女傭兵シリルとリリ

 大剣を背負って肌を露出させ、いかにも傭兵らしい姿となったアンドレアルフスが、隊商の少し先を数人の傭兵を引き連れて移動する。シェリル達三人は隊商の後衛として後に続いていた。

 ある商人が護衛を募集していたのを見つけたリリアンヌが提案したのである。


 革でできた簡単な鎧を身に纏い、髪を結い上げたシェリルとリリアンヌは、どこから見ても娼婦と召還術士には見えない。

 アンドロマリウスは以前にもましてヒマトをしっかりと纏い、重い雰囲気のある剣士に。それぞれ工夫を凝らして傭兵として参加していた。


 この団体と一緒に旅をするのはせいぜい、次の街までである。そんなに長い間ではない。傭兵自体は目立つ存在で、ごろつきのような人間も多くいる。だが、そんな傭兵の中に紛れてしまえば逆に安全である。

 更にはある意味、旅人よりも目に留まらない存在になれる。それも、リリアンヌがこの隊商を選んだ理由であった。


「ここいらで休憩しよう。

 見晴らしが良いから、俺が見張りやすい」

 アンドレアルフスの言葉に、反論する傭兵は居なかった。今いる場所は、普通であれば休憩に適していない。

 アンドレアルフスやアンドロマリウスがいるからこその、適した場所である。

 実力を知らなかった他の傭兵達は、最初はアンドレアルフスが仕切る事を良しとしなかった。だが、初日に二人の実力を知るやいなや、従順な駒のように動いてくれるようになった。


 心変わりが早いのは、傭兵の良い所である。時に悪い所となる事もあるが。

 今日は傭兵生活二日目である。何事もなければ、明日にでも隊商の目的地へ辿り着けるだろう。


「よう、あんたらは傭兵生活長いのか?」

 初日はアンドレアルフスとアンドロマリウスの二人を警戒してか、話しもしなかった傭兵がシェリルとリリアンヌへと近付いてきた。

「分からない。

 でも、まだ死んでない」

 シェリルが淡々と手短に答える。シェリルはアンドロマリウスの言葉遣いを真似ていた。シェリルの知識では、傭兵とは仕事中は端的に必要な事だけを話すのが良しとされていた。

 アンドロマリウスの普段の話し方は、少し工夫すればその条件に当てはまるのだ。


「あたしは、そこそこかな。

 アンドレとは長い事組んでるんだ」

 リリアンヌは粗野な言葉遣いを完全に使いこなしていた。アンドレアルフスの粗野さとはまた少し違い、彼を真似ている訳ではない。どうやら、彼女は名優らしい。シェリルは彼女の器用さを尊敬しながら、自分の役を違えぬようにするので精一杯であった。


「短剣使いが傭兵たあ、変わってるよな」

「あたしもそう思う。

 けど、相棒があれだから丁度いいのさ」


 彼女は短剣をくるくると回して弄ぶ。けらけらと笑う彼女の姿は、普段からは想像できない変わりようである。

「シリルは一回もまだ戦闘に加わってないよな」

「不必要には動かない。

 それに私が得意としているのはエンチャントだ」

 “シリル”とは、シェリルの偽名である。リリアンヌの事は“リリ”としている。シェリルは話を振られて内心どきどきしながら答えた。

 身分を偽り、別人として過ごすのは五百年以上生きている中で、初めてである。緊張するのも仕方の無い事だろう。


 戦闘時には本職程の活躍ができないシェリルは、アンドロマリウス達三人の専属強化職人という形で同行している事になっていた。そもそも色素が薄く目立つ容姿をしているシェリルは、傭兵姿では周りと比べれば頼りなく見える。

 血気盛んな傭兵に、興味を持たれるのは予定の範囲内であった。


「傭兵に同行する強化職人か」

「鍛冶屋の傭兵も居るんだ。

 珍しくはないだろう」

 掘り下げた会話になりそうになったのを、不快感のある表情と言葉で遮る。シェリルの顔からは読みとれないが、心臓が早鐘を打っていた。彼女としては、許される事ならば今にも逃げ出したいくらいである。


「悪いね、シリルは雑談を嫌うんだ」

「リリ」


 軽く謝るリリアンヌへシェリルが咎めるように名前を呼ぶ。彼女はやれやれといった様子で肩をすくめると、シェリルの肩を抱き寄せながら彼らに背を向ける。

「はいはい、黙って仕事しますよっ!

 んじゃ、あたしらは見張り交代しに行くわ」

 彼らにひらひらと手を振りながら、シェリルを連れてアンドロマリウス達のいる方へと歩き出した。

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