新しい武器と強化
「アンドレ、その武器はどうしたの?」
話は終わりだと言わんばかりに、シェリルがアンドレアルフスの持つ大剣へと話題を移す。アンドレアルフスは、よくぞ聞いてくれたと嬉しそうに話し出した。
「昼間に新調したんだ。
長剣よりも、これからはこっちの方が使いそうだし」
彼の身長と、さして変わりもしない程に大きな大剣を軽々と持ち上げ、振り回す。ぶん、と風を切る音が した。
「もちろん長剣も持ち歩くよ。
大剣じゃ不利な場所も多いからな」
突きや薙ぎ払いなど、いくつかの型を見せていく。シェリルの側で、リリアンヌが主の様子をぼうっと見て惚けていた。
「でさっ」
アンドレアルフスが剣を突き出し、シェリルの方へ顔を向ける。大剣は、その大きさと重量にも関わらず、ぴたりと動かない。
「これにもおまじない頼めるか?」
おまじないとは、武器の強化の事だろう。シェリルは軽く頷いて声を出した。
「水で良いわよね」
「水ぅ?」
彼はくるりと大剣を回転させて大地へざっくりと刺し、シェリルへと向かう。彼女は術符を漁り始めている。
「あの大剣に風なんか付与できないわ。
ある程度範囲の制御ができるものを選ぶべきよ」
シェリルは数枚の符をアンドレアルフスへ見せながら、大剣へと視線を移す。アンドロマリウスが大剣を抜いて穴のあいた地面を戻していた。それが終わり、軽々と大剣を持ち上げてシェリルの前に持ってくるのを確認すると、符へと視線を戻した。
「火はどう?
かっこいいじゃん」
「辺り一帯焦土にするつもり?
そもそも範囲の制御も何もないじゃない」
シェリルが呆れたような表情をすれば、アンドレアルフスがにやりと笑う。分かってて言っているらしい。シェリルの横で、アンドロマリウスが小さく溜息を吐いた。
「土でも良いけど、えげつない使い方しそうだから却下」
「何だよそれ」
アンドレアルフスの事だ。土の術式にしたら、辺り一帯が串刺しの死体ばかりになりそうである。焦土よりはましかもしれないか、誰もそれを見たいとは思わないだろう。
シェリルが彼を見ると、アンドレアルフスは口をとがらせるも、目が笑っている。それに気が付いたシェリルが眉を上げて怒ったような表情を作れば、アンドレアルフスは笑い出した。
「良いよ、シェリルのおすすめで。
俺はおもしろければ何でもいいぞ」
そう言いながら、彼はシェリルが持っている符の一枚を抜き取る。その符を見たリリアンヌがあっと声を上げた。
「それ、シェリルがクロマにしてるのと同じものだわ」
「よく覚えてたわね、少しの時間だったのに」
シェリルがそう言うと、リリアンヌは得意げな表情を見せる。式が何なのか、全く知識のない人間が覚えるには難しい。それを難なくやってのけたリリアンヌに、彼女は心から感心してみせたのだった。
「あ、やっぱりこれがその元になった術式か。
でもこれさ、俺が使うには難しくないか?」
眉をひそめてじっと術式を見つめる彼を、シェリルが笑った。
「簡単に使えたら、大騒ぎになるわ。
人間相手なら、多少使えないくらいが丁度良いのよ」
調子に乗って街を破壊されては困るとシェリルは続ける。アンドレアルフスは大げさに肩を落とし、長い息を吐いた。
「良いじゃない、水。
私とおそろいよ?」
「何その殺し文句!」
そう言いながら笑い始めるアンドレアルフスに、シェリルの方が溜息を吐きたかった。ころころと変わる彼は、分かりにくい。気にしていても仕方がないのだが、どうしても感情を探ってしまう。
「よし、一緒に氷の柱作ろうぜ」
シェリルは首を軽く左右に振ると、術符をかざして強化を始めたのだった。