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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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別口の刺客

 広場へ着いた二人はそれぞれ、自分が有利になりそうな場所へと分かれる。シェリルは中央にある噴水の側へ、リリアンヌはその近くの開けた場所で構えた。

 シェリルが息を整えながらリリアンヌの場所を確認し、符を何枚か選んでいると、刺客が姿を現した。彼らの姿を見る限り、昼間シェリルとアンドロマリウスを襲った者とは別口のようである。


 緋色に染め上げたクロマに、同じく緋色のヒマト、手にしているのは短剣ではなくヘルパと呼ばれる曲刀である。鎌にも似た形のそれは、使い手を選ぶ武器ではあるが殺傷力は高い。

 リリアンヌは長剣等の間合いの異なる相手を得意としているらしい。そんな彼女も不利な相手かもしれない、とシェリルは内心舌打ちする。


 リリアンヌを心配する前に、そもそもシェリル自身だってヘルパを相手に戦った事はない。それこそ、まともに戦えるか分からないのだ。ある程度数を減らしつつ、悪魔二人に異変を知らせる事が最優先だろう。

 そう考えたシェリルは後ずさるふりをして噴水の中に入る。ひんやりとした水が彼女の足を濡らした。


「リリアンヌ」

「何?」


 彼らと距離を保ち、睨み合うリリアンヌが小さく答える。シェリルは首もとのクロマをぎゅっと握りしめて言った。

「伏せて」

「!」

 何が起きるのかも分からないまま、リリアンヌは反射的に伏せた。

 その瞬間、噴水を中心に氷の牙が四散する。シェリルがクロマの術式で噴水の水を凍らせ、手にしていた符の一つを使ってそれを弾き飛ばしたのである。


 勢い良く不規則に飛んだ大小様々な氷の牙は、刺客の何人かを倒し、何人かを傷つけた。運悪く首に刺さった彼は、きっと何が起きたのか分からず終いだっただろう。

 一瞬にして、昼間賑わいを見せていた広場は地獄のような形相へと変わってしまった。

 リリアンヌは辺りの惨状に、対峙していたはずの相手から視線を外してシェリルを見る。


「魔力の放出と血のにおいに反応して、マリウスが気付くはず」

 シェリルは淡々と告げた。そして、彼らを襲った牙はいつの間にか水となり、相手の体を濡らしてしまう。もちろん氷で塞がっていた傷からは、塞ぐものがなくなったせいで、どんどん赤い液体が流れていく。それに気が付いた刺客の一人が舌打ちをした。

 女二人の内に始末を終える予定だったのだろうか。ここから宿までは遠くない。すぐに二人はやってくるはずだ。その前に戦えなくなりそうな程、満身創痍の者もいる。


 飛び込むようにして一部の刺客がリリアンヌに襲いかかる。リリアンヌが混戦状態に入ればシェリルが同じ手を使う事はできなくなる。それが狙いだろう。

 シェリルがリリアンヌを助けにそこへ入れば、罠にかかったも同然である。ヘルパ使いは、独特の動きをする。シェリルがそれを軽くいなせるかは不明だ。リリアンヌが何とかうまくかわしてやり合っているが、シェリル自身、同じ芸当ができるとは思えなかった。


 シェリルはクロマを構え、接近に備える。一対一ならば、何とかならなくもない。鎌のような刃は、反っている方は切れない。内側だけが鋭く研がれている。あれにからめ取られれば最後、稲のように刈られるしかない。変則的で速度のある動きが、その曲刀の威力を増大させる。

 シェリルは襲いかかる刃から目を逸らさずに避ける。タイミングを見計らい、彼女はクロマを相手にしならせた。

 適度に湿っているクロマが鞭のように風を切りながら当たる。一瞬男がひるんだ隙に、シェリルが符をかざす。


「うおっ!?」

 対峙している男が吹き飛ばされ、こちらに向かってきていた刺客を巻き込んだ。その近くにいたもう一人は間一髪で避けきり、そのままシェリルへと走り込む。

 シェリルがその刺客の攻撃を受け流す事に集中しようと構えた時、彼女の背後から影が伸びた。自分の影に重なるものに気付いて咄嗟に振り向こうとするシェリルだったが、間に合わない。


「くっ」


 苦肉の策で、無理矢理体勢を崩す。地に伏せ、転がるようにして避けた彼女は、抱え込まれるようにしてその回転を止められてしまう。

「この――っ!」

 動きを抑制する相手に一矢報いようとした彼女は、よく知る体臭に気付き、顔を上げて目を丸くした。ムスクにも似た、濃厚でやや甘い香りがシェリルを包み込む。そう、彼女を捕まえたのは、不機嫌そうな表情をしたアンドロマリウスだったのである。

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