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贖う者  作者: 魚野れん
第一章 召喚術士と囚われの悪魔
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地下牢への階段

「いない……いるはずなのに」

 心当たりのある部屋は全て見て回った。

 ロネヴェの思い出に襲われて耐え切れなくなった彼女は、気に入りの飲み物を用意した。


 シェリルは一服しながら、使っていない部屋の中で唯一除外していた場所を思い浮かべる。


 除外していた場所は地下牢だ。シェリルには術が発動するまでの記憶しかない。

 術が発動した途端に家へ転送されるのはあり得ない。自力で悪魔と一緒に帰宅したはずだ。


 意識のない状態で、帰宅した上に地下牢へ悪魔を放り込む事はできるだろうか。強力な術を発動した反動で気を失う事はあり得るが、今まででその状態のまま勝手に動き回った事はない。そうシェリルは考えていた。


 だからこそ、地下牢は除外したのだ。カップに残る一口分の液体を流し込み、彼女は立ち上がる。

 彼女の足は、真っ直ぐ地下牢へ続く階段に向かっていた。


 普段なら、気を失った時点でロネヴェがフォローしてくれていた。そんな状況だったなら、アンドロマリウスが地下牢に縛り付けられていても不思議ではない。


 だが、いつもそうやってシェリルの事を大切に守ってくれていたロネヴェはもういない。心当たりのある最後の部屋へ入った事を思い出す。


 そこは、ロネヴェが使っていた部屋だった。

 ロネヴェの部屋は、意外にも整理整頓されていた。様々なことに無頓着そうに見えていたが、几帳面な面も持っていたようだ。


 きれいに整えられたベッドは、彼も人間のように横になる習慣があると知って、彼の為にシェリルが買ってきた物だ。

 シェリルとしては、一緒に生活する上で必要そうな物を揃えていっただけだったが、一つ一つ物が増える度に彼は喜んでいた。


 彼との生活は、安全とは言い切れない上にリスクのある生活だった。とはいえ、シェリルは彼と出会ってから今まではずっと幸せだった。

 彼女にだって多少の不満はあった。

 だが、彼を愛しているからこその不満だったし、ロネヴェはそれを知っていて、あえて無視していた。


 ロネヴェの事を思い出しながら地下牢へ向かうのは間違いだったと彼女は独りごちた。


 思い出が頭に浮かんでくる度に鬱々とした気分になる。だが、地下牢への階段を下っていく彼女の足は止まらない。ひんやりとした、やや湿度のある空気に変わっていくのを感じるにつれ、いっそう気分が沈んでいく。


 地下牢というだけあって、地上階からある程度の距離がある。途中から彼女は松明を灯していた。


 愛しい悪魔がいた痕跡を見れば見るほど、思い出せば思い出すほど、彼とはもう完全に繋がりが絶たれてしまった事を思い知る。

 シェリルは強力な術を使う為に、ロネヴェからもらっていた力を全て使い果たしてしまった。彼の存在を示していた、あの力を感じる事は二度とない。


 それなのに、封じたはずの悪魔までどこにいるか分からない。無理矢理魔界へ戻れなくし、命の束縛までしたのに。あの悪魔の自由を奪い、ただ存在しているだけの、無意味な物にしてやろうと思っているのに。


 シェリルの負の感情は、益々強くなった。今、彼女を癒す事のできる存在はいない。




 しばらく下ると、ようやく終わりが見えた。

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