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贖う者  作者: 魚野れん
第九章 砂漠の殿下 ─追跡者と噂─
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久々の買い物

 ヒポカをできる限りの速さで駆らせて丸一日。四人は比較的大きな街へと辿り着いた。ここは商人の街である。この街自体に特産物はないが、あらゆる街の特産物が揃っている。

 ここでの取引は主に動物が多く、次に多いのが布類であった。

「お。結構良い布揃ってんじゃん」

 早速アンドレアルフスがふらふらと吸い寄せられるかのように、布屋のある一角へと歩いていく。


「もう……」


 仕方がないといった様子のシェリルも、どこか浮ついた雰囲気を纏いながら彼を追う。当然の事だろう。にぎやかで活気のある場所は久しぶりなのだ。リリアンヌはシェリルの素直じゃない動きに小さく笑い、アンドロマリウスへと振り向いた。


 彼は完全に保護者然といった感じで、アンドレアルフスとシェリルの動きを目で追っている。

 確かにアンドレアルフスから聞いていたアンドロマリウス像にも、確かに子煩悩らしい部分はあった。だが、今回の旅ではあまりそういった雰囲気を出す事はなかったのだ。


 今まではそれを見せないようにしていたのかもしれない。リリアンヌは何となく、見てはいけないものを見てしまった気分になった。

 見なかった事にすると決めた彼女は、アンドレアルフスに気が付かれる前に視線を外し、布を見始めた二人へと足早に向かった。


 二人に近づけば、買い物を楽しむ会話が聞こえてくる。リリアンヌは不自然にならない程度に、アンドレアルフスの後ろへと控えた。

「シェリル、こういうのあんた似合いそうだ」

「え、そう?」

 アンドレアルフスが両手にヴェールを持っていた。薄桃色のヴェール、もう片方には似たような布地の、しかし若葉のような明るい緑色のヴェールである。


「これを、こんな風に――」


 旅が始まる前にアンドレアルフスがシェリルへと渡していたクロマを外し、彼は器用にヴェールを纏わせる。

 ヴェールのはずだったが、彼の手に掛かればおしゃれなクロマ風に変わってしまう。


 頭部を軽く覆い、首を一周したヴェールにもう片方のヴェールを重ねながら飾り結びをする。シェリルのさらさらと流れる銀糸がヴェールに透けている。

 ヴェールの色が移った銀糸は、光を受けるとその色で輝きシェリルの神秘さが増した。左耳のあたりで飾り結びをしたせいか、神秘さに華麗さが加わった。

 頭部の布が変わっただけで、随分と変わるものである。


「そうやっておしゃれしてると、どっかのお姫さんみたいだな」


 満足そうに頷いて笑えば、彼の金糸が意味もなくきらめいた。シェリルはそれをめざとく見つけると彼の腕を掴む。リリアンヌにもその理由が分かった。

 彼の不可思議な威圧感が戻ってきた気がしたのだ。


「何だ。気に入ったなら俺様が買ってや――」


 シェリルはそのまま力を送る。送り先は、もちろん目くらましの術式である。術を展開させるのに常時供給されているはずの魔力が尽きかけていたのだ。

「あー……悪ぃ、調子乗ったかも」

 アンドレアルフスは空いている方の手で髪をいじる。その表情は少し気まずそうである。恐らく気が緩み、力の制御を間違えたのだろう。

 彼にしてみれば、シェリルの力を吹き飛ばす事など造作もない。


「大丈夫よ。

 術式が壊れる所までいってなかったもの」


 力を送り終えてすぐに手を離した彼女は、気にしていない様子で首を軽く振った。

「ありがとな。

 久々の買い物が楽しくてさ」

 そう言うアンドレアルフスは本当に楽しそうだった。シェリルは笑顔を見せると、おねだりするように彼を見上げる。


「私、あなたに貰ったクロマに合うようなのが良いわ。

 このヴェールは素敵だけど、一緒に使えないもの」


 一瞬きょとんとしたアンドレアルフスだったが、数回瞬きをしてから嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。

 その様子から、リリアンヌはシェリルもアンドレアルフスがより親密になっている事を実感する。


 リリアンヌは自分の主が召喚術士にどこか煙たがられているのを感じていたが、いつの間にか解決したようである。まだカリスまでは半分以上の道のりが残っている。仲が良いに越した事はない。

 仲が良いのは良い事だが、何となく寂しさを覚えたリリアンヌは気分を変える為にもそっと二人から離れたのだった。

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