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贖う者  作者: 魚野れん
第一章 召喚術士と囚われの悪魔
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ロネヴェのいない塔

 シェリルが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

 見慣れた天井を見つめ、今日はロネヴェが起こしに来てくれないなあとぼんやりと頭を動かす。体を動かそうとすれば、異常なほどに重かった。


 動かせないわけではないが、ゆっくりとした動きになってしまう。これだけ疲れるような術を昨日使っただろうかと首を傾げると、思い出したくない記憶が甦ってくる。


 ――ロネヴェが、殺された。


 自分の体に刻まれた彼の契約印に触れても何も感じ取る事はできない。それはそうだ。彼はもう、どこにもいないのだから。

 そこまで思い出して、はたと気が付く。どうやってここまで戻ってきたのか記憶がない。

 正確に言えば、術を完成させる所までしか記憶がなかった。


 肝心の術を完成させた後、恋人を殺した犯人であるアンドロマリウスがどうなったのか、それも記憶になかった。シェリルはどちらかと言えば、記憶力は良い方である。

 まして、昨日のように印象深いものなら尚更忘れるわけがない。


 確認しなければ。まず彼女が思ったのはそれである。重いからだを叱咤し、ベッドから立ち上がる。おぼつかないながらも、一歩一歩足を進めて部屋の扉を開いた。


 シェリルの家は、中心が吹き抜けになった塔のような構造をしている。部屋から出れば、室内以外は大体見渡せる。

 こんな変わった構造になっているのは、元々は騎士団が駐在する為に作られたからだ。

 部屋数は多いが、殆どが本で埋め尽くされている。それ以外の部屋はシェリルとロネヴェの部屋、ダイニング代わりに使っている部屋といった生活に必要な部屋、いくつかの未使用部屋、そして地下牢だった。


 シェリルが自室を出て見渡した時点では、特に変わったものは見られない。変わったもの―つまり、アンドロマリウスらしき何か―は、どこかの部屋の中にいるらしい。


 使える部屋を順々に見て回る事にして、シェリルは1階の調理場へと向かった。無駄に広いその場所に異常がないことを確認し、水瓶から水をすくってカップへ注ぐ。

 彼女は調理場内で育てているハーブを千切り、その水に浮かべた。匙で数回かき混ぜると、一気に飲み干す。


 そのハーブには、気分をすっきりさせて頭を働かせる効果がある。一気に飲み干した彼女は顔を天井へ向けて目を閉じた。


 よし、と小さく呟くと、彼女はアンドロマリウスの探索へと向かった。




 いくつかの部屋を覗いて彼女は気が付いた。

 彼女一人の塔はとても広く、静かだった。ロネヴェという存在が、どれだけ居心地の良い空間を生み出していたか。

 彼が、如何にシェリルを守ってきたか。全ての部屋ではないが、いくつかの部屋には思い出があった。


 本を詰め過ぎて、ロネヴェに怒られた事。それでも詰め過ぎてしまい、雪崩が起きてしまった事。ロネヴェが助けに入らなければ、あと少しでシェリルは大怪我をする所だった。

 助けられた後、シェリルはロネヴェに強く抱きしめられた。「こんな事で俺の心臓を止めないで」と言われ、シェリルは猛反省したのだった。


 他の部屋では、埃が溜まり過ぎて大変な事になった時もあった。あの時は、シェリルを下がらせてからロネヴェが術でわざわざ埃を取り除くしかなかった。


「俺がいないと、シェリルはダメだな」

 そう彼に言われるのがシェリルは好きだった。


 そんな優しい彼は、いない。彼を殺した忌々しい悪魔も、どこにいるか分からない。

 ロネヴェの思い出に襲われながら、シェリルは一人で彷徨うのだった。

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