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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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正しい扉の壊し方

 シェリルが突き出した手に力を込め始める。魔力のうねりが辺りを揺らし、アンドロマリウスの力で漆黒に染め上げられた髪がふわりとなびく。

「一工夫すれば、力業でもより簡単に、より小さな力でもできるのよ」

 アンドロマリウスから受け取った力を昇華し、自らの力として練り直す。簡単な事ではないが、召還術士として活動する上ではよく使われる技の一つである。


 力を昇華すればするほど、彼女の髪の色は抜けていく。毛先から元の髪色に戻っていくにつれ、シェリルの腕の周りを青黒い力のもやがとぐろを巻きながら濃くなっていった。

 ほとんど彼女の髪色が戻った時、青黒く見える力はもやと言うよりも渦と言った方が良いほどまでに濃くなっていた。

「さ、扉を壊してみせましょう」


 シェリルはまず、アンドレアルフスに見せていた小さな石を泉の中心めがけて飛ばした。そして力の渦に石を追わせる。ただ、それだけの動作であった。

 だが、石が泉の中心に落ち、そこに力の渦がぶつかった瞬間。激しい音と共に大量の光が目を焼いた。あまりにも大きな衝撃にシェリルが吹き飛ぶ。


「よっと」


 近くにいたアンドレアルフスが彼女を受け止め、しっかりと抱きしめる。衝撃が収まると、彼はシェリルをゆっくりと立たせた。

「おぉ、さすがは希代の召還術士殿」

 茶化すように彼はそう言って泉の中へと足を進める。じゃぶじゃぶと水の跳ねる音が立たなくなるほどまで身を沈めた彼は、振り返って満足そうに言った。


「扉はぶっ壊れた!

 これでこの街は安泰だ」


 アンドレアルフスは泉の水を口に含んで顔をしかめたが、今度は吐き出さなかった。それどころか泉の中に潜り込んでしまう。少しの後、アンドレアルフスが浮上する。その手にはキラキラと輝く石があった。

「よくそんなもん持ってたな。

 ここのあんたらには使いにくい石だろ」

 そう言って石をかざす。太陽の光を受けて眩い光を発するそれは、先程シェリルが投げた石であった。特に何の変哲もない、ただの石であったはずだが、強い魔力にあてられて磨かれたのだ。


「アマダントは強烈な力じゃなきゃ磨けないもの。

 でもそれくらい硬いから、結構用途はあるのよ」

「例えば、今回の扉の破壊とか?」

 シェリルは満足そうな笑みを浮かべた。

「ああいう魔力の塊は、面の攻撃には強いけど点の攻撃には弱いから。

 定点で狙うのに照準を作る意味でも、打ち破る力を注ぎ込んでも壊れない硬さとい

う意味でも最適でしょ?」

「そりゃそうだ!」

 輝くアマダントを持ち、濡れた金糸にその光を反射させながらアンドレアルフスは笑った。




「それにしてもシェリル」

 泉から上がった彼は、にやにやしながら石を渡す。結界から出てきたリリアンヌがアンドレアルフスの頭に布をかけた。頭部を押さえるようにして適当に髪の水分を取ると、首に引っ掛けヒマトを握る。

 たっぷりと水分を含んだそれは、びちゃびちゃと音を鳴らしながら絞られていった。


「マリウスの力を受け取って使うとはな」

「召還術士なら、当然でしょう?」

 しれっと答えるシェリルへ顔を向け、アンドレアルフスは片眉を上げてみせる。否定的な所作にも、からかい交じりの肯定的な所作にも見えた。


「何よ」


 そんなどちらにもとれる彼の態度にシェリルが眉を寄せる。アンドレアルフスはくい、とアンドロマリウスを頭で示して口を歪める。

「あんたが最愛のロネヴェ以外とキスするとは思ってなかったもんでね」

 その言葉に、シェリルは挑戦的な笑みを浮かべた。彼女がキッと睨みつけてくると思っていたアンドレアルフスは驚いて目を見開いた。

 その横で、口づけの瞬間を見ていないリリアンヌがぎょっとした顔でシェリルとアンドロマリウスを交互に見る。

「皆の為の召還術士として必要なら何だってできるのよ、私」

 それを聞いたアンドレアルフスは、降参というかのように両手を上げたのだった。

2019.7.9 誤字修正

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