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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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駆除対象の魔物

「いくら魔界で駆除対象だからと言っても、そう簡単に絶滅させる訳にゃいかねーしな。今回は見逃してやる。

 流石の俺もそんな危険を犯すのは嫌だから丁度良いだろ?」

 アンドレアルフスはディサレシアに背を向け、シェリル達の方へと歩き出す。だが、ディサレシアは彼に襲いかかる事なく見送っている。


「ディサレシア、命拾いしたな」

「……」


 シェリルはぎゅっと拳を握りしめた。シェリルはすっかり忘れていたのだ。ディサレシアが彼ら悪魔と同じ魔界に棲んでいる事を。何も彼らが言わないから、そのまま戦わせてしまっていた。

 今回は、見逃してやる。その言葉は彼女自身にも言っているように聞こえた。

 本当ならばシェリルが戦わなければならなかったのだ。また、ロネヴェの時と同じ事をさせる所だった。


 ディサレシアが姿を消す。魔界に戻っていったのだろう。それを見ながら、シェリルは自分の血の気が引いていくのを感じていた。

「あれ、シェリル?」

 彼女の顔色が悪いのに気が付いたのか、アンドレアルフスが覗き込む。

「俺がああ言ったのには、訳があるんだ。

 気分を悪くすんなよ」

 彼はふわりと笑みを浮かべ、シェリルの頭を撫でる。シェリルは彼の手が触れた瞬間、少しだけびくりと身体を硬直させた。


「俺の名前で牽制したのさ。

 今度こういう事があった時。

 ――それはディサレシアが俺よりも恐ろしい存在に指示された時だ」


 シェリルがアンドレアルフスと目が合うと、彼はちょっと困ったように笑った。どこか、ロネヴェが笑った時に似ているような気がして泣きたくなる。

「俺よりも恐ろしい存在って事は、名持ちか天界の奴らかくらいだぜ。

 それだけでも収穫はあるだろ?

 今回のは、何かの始まりかもしれねえしな」

 軽い調子でそう言うと、アンドレアルフスはリリアンヌとクアの方へと歩いていった。状況の分からない彼女たちに、何があったのか教えるためだろう。


 ふんわりとしたなめらかな金糸を揺らしながら遠ざかっていく後ろ姿に、シェリルは小さな拒絶を感じていた。

「シェリル、大丈夫か?」

「え……?」

 シェリルを守るように抱きしめていたアンドロマリウスの腕に、力がこもる。身動きのとれない彼女はそのままぴったりとくっついた。先ほどまで戦闘があった割に、彼の体温はそんなに高くはないようだ。微かに彼の鼓動も感じる。


「ディサレシアは掟に抵触しない。

 言う必要もないし、お前も平気そうだったから大丈夫かと思ったが、違ったらしいな」

「っ」


 シェリルはきつく目をつぶった。忘れていたのだ。彼らに任せれば安心だと、頼り切っていたのだ。

「……ごめんなさい。

 ディサレシア、ただの虫だと思ってた。

 魔物だって、説明されたのに……私、また」

「問題ない。

 問題あれば、とっくに言っている」

 ぽつぽつと話すシェリルは、アンドロマリウスの目から見て普通ではなかった。普段の彼女はもっと堂々として、自信に溢れている。彼は眉をひそめた。


「――ロネヴェと俺たちを重ねたか」

 びくりとシェリルの肩が揺れる。彼女が頭を上げ、顔を見合わせる事になった。とても青白い。それこそ先ほどまで大きな召還用の術式を動かしていた人間とは思えない白さだった。

 思わず、アンドロマリウスの表情がぴくりと不自然に動いた。

「ロネヴェとあなたは違う。

 あなたは、ロネヴェを殺した……」


 面と向かっていたが、シェリルはアンドロマリウスを見てはいないようだった。うつろな瞳に、アンドロマリウスの複雑そうな顔が映っている。

自分の表情に気付き、彼は無表情に戻る。

「あれはロネヴェの意志だ。

 恨むならその意志を尊重させ、彼を殺した俺を恨め。

 俺をこき使えば良い。

 お前にはその権利がある。

 気に病むな」

 シェリルの耳に、言葉が届いているかは分からない。ただアンドロマリウスはシェリルを優しく抱きしめ、彼女の頭を撫でながら耳元に呟いていた。

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